予期せぬ遭逢
夕焼け空の下、潮の香りが漂う静かな繁華街の中、俺達はカフェに入り休息を取っていた。
「はぁ〜……マタタビ〜……しゅき〜……司〜喉のところクシクシして〜」
先ほど買ったマタタビのしゃぶりながら恍惚とした表情でふざけた事をいう美衣子に鉄男も呆れながら注意をする。
「姉御、姉御、弛緩しすぎっすよ。」
俺たちは買い物を楽しんだ後、美衣子が「疲れたー! 休もうー!」と言うので街中から少し離れたカフェに入った。
街道に面した屋外の席で潮の香りを感じていた。
街中から少し離れていることもあり、静寂で非常に居心地が良い。
そんな雰囲気に浸っていると、突如カフェの目の前に黒い高級車が停車する。
その異様な光景にザワザワと通行人達は群衆となり次第に騒ぎが始まる。
「鉄男、ありゃなんだ?」
「わからんっす。俺っちが近くで様子を見てきますか?」
「気遣いありがとな。でも、今は休もう。ここからでも様子は見えるし、鉄男も美衣子の付き添いで疲れたろ?」
「まぁ、そっすね。疲れはありますね。でも、姉御の買い物は可愛いもんですよ。スラッシュの所では、重い荷物を全部俺っちに持たせるとか本当にこき使われてましたから……」
「そうか……それは大変だったな。」
ガヤガヤ
ザワザワ
騒ぎははどんどん大きくなり、静寂な空間は壊されていく。更に人の集まりが大きくなり、その中心の様子は見えなくなった。
綺麗な人達ね。何処から来てるの?
立派な格好ね。離れのお城の方から来てたわ。
えっ?あの城って誰か住んでたの?
『廃城の姫が現れる』、こりゃ大スクープだな!休暇で来てよかったぜ!
色々な声が聞こえてくる。
姫様ねぇ…俺達には関係ないな。
そう思いつつ、カップを持ち上げて紅茶を口に含む。
「すみません!皆さんの通行を邪魔してしまい申し訳ありません!出来れば、皆さんも集まる事をお止めいただけませんか?これから数人のメイド達が誘導しますので従って頂ければ幸いです。」
その中の一人の壮年のジジイが大きな声が聞こえる。
そして、数人の女中と思われる格好をした女が集まる人の誘導を始めた。
遠目から見えるとわちゃわちゃと人のおしくらまんじゅう状態になっている。どんな奴なのやら、少し見てやろうとその集団に目を凝らして見る。
と、その謎の群衆の中から俺に対して向けられたであろう言葉が聞こえる。
「いたたっ! あれっ? えっ!もしかして宮ちゃんせんせー?なんでここにいるの?」
独特の呼び方と聞き覚えのある声。その娘は更に俺との距離を詰め、近づいてくる。
声の主を見るといつもとは雰囲気の違う大人びた教え子の姿があった。
ゴホッ!ゴホッ!
驚きで口に含んでいた紅茶でむせてしまう。
「その呼び方、その声……もしや……梢か?」
「うん!そうだよ!」
な、何故ここに梢が……?
なんで高価そうなドレスを着てるんだ……?
いきなりの思いがけない出逢いに俺は困惑を隠せずオタオタとしてしまう。
「まさか。梢がお姫様!?てっきり、魔ほ、普通の女の子だと思ってたぞ。」
「マホ? マホってなーに?」
「あぁ……びっくりしすぎて噛んでしまっただけだよ……ごめんな。」
「むぅ? あっ、それとね。あたしはお姫様じゃ無いよ。 これは借りてるものなの。ほら、前に宮ちゃんせんせーに言ったでしょ! イクラシティで合宿をやるって! 実は今日から1週間なんだよ!」
梢と会話をしていると後ろから軽く叩かれる。
「この娘、誰っすか?兄貴のお知り合いです?」
小さい声で囁くように鉄男が俺に聞いてくる。
俺も梢に聞こえない声量で鉄男に回答する。
「俺がカテキョーカイって家庭教師の仕事で勉強を教えてる教え子なんだ……それと……いや、これは後で話すよ。」
梢の方を見ると、梢の近くにいた少年と何かを話している。
少年は俺を睨みつけるように見ている。
梢も俺の方を直すと屈託の無い笑顔をみせる。
「宮ちゃんせんせーはなんでイクラシティに来たの?」
「……」
疑問符を浮かべたような表情をして「宮ちゃんせんせー?」と聞いてくる。
「カ、カテキョーカイの同僚で旅行でもって話に急になってな……」
しどろもどろになりながら梢の質問にそれっぽい言い訳を返す。
我ながら苦しい言い訳だ……と思った。
「そうなんだ! ほんとに奇遇だね! でも嬉しい!今週と来週はお勉強なかったもんね。会えないと思ってたらこうして会えるんだもん!」
「そうだな。俺もこんな離れた場所で梢と会えて嬉しいぞ。」
梢に会えて嬉しい気持ちは大きい。しかし、梢がヒーローをやってる事を知る身としては、これからの俺たちが行う事を考えるとここでは会いたく無かったという気持ちもある。
更にたわいない話を梢としていると、カフェにいるほかの客の注目を集めてしまう。目立った事で美衣子と鉄男が侮蔑交じりの視線を俺に向けてくる。
「後ろのお二人が宮ちゃんせんせーの同僚さん?」
「ま、まぁな」
何かを思ったのか、梢は訝しげな表示上を浮かべるも、美衣子と鉄男に挨拶をする。
「いつも宮ちゃんせんせ――小宮先生にお世話になってます。皆さんが旅行中なのに邪魔してしまってごめんなさい。」
恐らく俺に向けられたであろう侮蔑交じりの表情から、邪魔されたと思ったのか……すまん、梢……
「生徒にこんなに好かれるなんて家庭教師冥利につきるってやつですよ!ねっ?小宮先生?」
機転を利かせてくれた鉄男がそうフォローをいれてくれる。
「あぁ、そうだな!」
おーい!玉置ー!勇二ー!どこいったー!
群衆の中から、大きな声で梢の苗字を呼ぶ声が聞こえる。
その声に少年の方が反応する。
「僕はここだよー!」
そして、梢の手を掴み、「陽平が呼んでるから行こっ!」と梢に伝える。
「えっー……もうちょっとせんせーと話したいよ……」
「ほら、向こうの人達も迷惑してるかもしれないし、皆も心配してるからさ。」
「むぅ……そうだよね……」
少しばかり残念そうな梢だったが、少年に諭されて納得をしたようだ。
「それじゃ、あたしたちも戻りるから、宮ちゃんせんせーも旅行を一杯楽しんでね!」
「あぁ、ありがとうな。またな!」
「えへへ、またね!」
「いこっか梢!」
梢と少年は群衆の中に戻っていった。そのあと、美衣子は口を開く。
「で、可愛い教え子に宮ちゃんせんせーとか呼ばせている変態はどう処理をすればいいのー?目立つなとか言ってた自分が一番目立ってるしー。」
ウンウンと鉄男も頷いている。
「ご、誤解だ……」
「あれですね。俺っち、兄貴の好みのタイプがわかりましたわ。」
「本当に誤解だから、その辺で許してくれ……」
俺の弄りが終わるまで更に1時間程、最初にカフェに入った時に感じていた居心地の良さは綺麗さっぱり無くなっていた。




