ビットマンjr vs 加速英雄アクセル
薫に思いっきり引っ叩かれた頬をさすりながら僕は部屋の椅子に寝転んでいた。
テュエさんが冷たいタオルを用意してくれたので、僕と陽平はそれを頬に当てている。
頬の鈍い痛いは徐々に引いてきた。
薫め……下着を見ちゃったからって思いっきりビンタするとか、薫は乱暴なんだよ。
でも喧嘩した事で梢を泣かせちゃったなぁ……
はぁぁぁあ……あぁぁぁ……
溜息が溢れる。
ノックもせずに部屋に押し入った僕らも僕らだけど……まさか着替え中なんて思わないじゃないか……
陽平も頬にタオルを当てて「いやー、まさか着替え中とはなぁ」とボヤいている。
優一はやれやれと言った顔で「女性の部屋に入るときは慎重に!いい勉強になったな。」と僕らに注意する。
結局、梢と薫と歴を訓練に誘うことは出来なかったので、僕と陽平と優一の3人で訓練場所に行く事になった。
***
ミュエさんの案内で僕たち6人は城の中を進んでいる。
それにしても、まるで迷宮みたいだな……本当に建物の中なのか?こんなに複雑だと、今何処を歩いているのかわからないぞ。
そんな事を考えながら、ミュエさんの後を置いていかれないようについていく。ミュエさんがひょいひょいと身軽に移動する為ついていくのも結構疲れる。
そのうち、広い空間に辿り着いた。
「とうちゃーく。ここだよ!ここがミュエの秘密基地!」
「ここって入って良いのかしら……」
リュエさんは不安そうな顔をしながそんな事を呟く。
「だいじょーぶ。だいじょーぶ。誰も来ないし。」
ミュエさんのお気楽さは何処から来るんだろう……
「はぁ……全くお前は……よくこんな所を見つけたものだ……」
テュエさんは呆れの中にミュエさんにそう伝える。
「リュエねぇも、テュエねぇも真面目すぎるんだよ。」
そんな3姉妹のやりとりを見ていると、陽平と優一も到着していたようだ。後ろから声が聞こえる。
「おぉ!先生、良いところですね!」
「だな!よし、勇二準備しろ!軽く手合わせするぞ。」
「了解!」
そう言終えると僕と優一は変身をして構える。
赤を基調としたスタイリッシュなデザインのライダースーツにゴツゴツとしたマスク。
やっぱり優一ーーアクセルのヒーロー姿はカッコいい。
アクセルの構えに隙は無い。
ちらりと横を見ると陽平、リュエさん、テュエさん、ミュエさんが何やら話している。
「おぉー、これがヒーロー!!すっごーい!カッコいい!!」
ミュエさんはテンションが上がっているようだ。
そんなミュエさんに陽平が話しかけている。
「おっ、ミュエっち、ヒーローに興味あるの?」
「興味というか、初めて見たから……なんか、凄いね!!」
「ん?ヒーローって結構いると思うんだけど……初めて見たのか?イクラシティにも少ないけどヒーローはいると思うんだけど、珍しいな。さてはミュエっち箱入り娘だな?」
「ミュエはこのお城の外って出たことな……」「ミュエ、お客様に余計な事は言わないの!」
リュエさんが会話に加わり何やらミュエさんに注意をしているようだ。リュエさんにミュエさんに厳しいな……
「リュエさん、俺らは深く詮索しないですから……」
「はぅっ……すみません。」
「リュエ姉さんは心配性なんだよ。ミュエは変な事は言ってないから、そんな厳しくしなくても良いではないか?」
「テュエねぇ、優しい!リュエねぇ、鬼!」
リュエは腕を組み頬を膨らまし、何かをグッと堪えている。「リュエ姉さん、どうどう」怒りを抑えるようにテュエはリュエを宥める。
そんな二人に御構い無しにミュエは陽平に話を続ける。
「ねぇねぇ、陽平くんもヒーローなんでしょ?ならミュエ、触ってみたい!!!」
「いいぜ!!!」
話をしていた向こうで陽平がビートブルーに変身をしてミュエさんと盛り上がっているようだ。
「おいおい、よそ見とは、ビットマンJr余裕か?」
アクセルは素早い動きで僕に近寄り、手刀を繰り出す。それをガードする。アクセルの体を後方に飛ばして、僕とアクセルとの間にまたしても一定の距離を取られる。
ヒットアンドアウェイ。アクセルが得意とする戦術でアクセルのどんどん速度が上がる能力と、噛み合って長期戦になればなるほど厄介な事になる。
早めにこちらから仕掛けないと……
そのうち手が出せなくなる。
「ビットチェイサー!展開!!!」
小型の浮遊物が僕の周囲を飛び回り、アクセルに向かいレーザーを発射する。
「勇二くんの周りに何か出た!?」
「ミュエっち、変身したヒーローは名前じゃなくてヒーローネームで呼びあうのが良いんだぜ。」
「そうなんだ……」
それにしても、ビットマンJrの奴、技まで出してるじゃん……軽く手合わせって一体……」
「技?」
「うーん。なんて説明すりゃ良いんだ?技は技だし、怪人に対抗する方」
「強いヒーローや怪人が使える特殊な技能の事だよ。」
「そそっ。テュエさんは知ってるの?」
「まぁな。ご主人様はヒーロー協会に多額の寄付をしているからな。よくヒーローのお客様が来訪されるんだよ。」
「へぇー、なるほどなぁ」
「技はヒーローが目覚める新たな力とも言われているな。そして技は神羅万象の理すらも超越する事があるらしい。あと、技はそのヒーローは心の強さを表すとも聞いた事があるな。」
「そう!そんな感じ。」
「へぇー。じゃぁさ、じゃぁさ、陽平くーーあっ!?えっと……なんて呼べば良いのかな?」
「ごめん。ごめん。俺は音響戦隊ビートレンジャーのブルーってヒーローなんだぜ。ビートブルーって呼んでくれ。」
「りょーかい!ビートブルーも技を持ってるの?」
「いや、俺は技を持ってないんだ……ビットマンJr、あいつは天才だよ。」
「なんか悪いこと聞いちゃった……かな?」
「そんなことないよ。俺も強くならなきゃって思うしな。」
「ヒーローが技を身につけるまで、5年はかかると言われているようだからな。本当はビットマンJrくんのような子供が技を使うこと自体すごいなんだよ。」
「そうそう。決して俺がダメダメとかじゃないからな。身体能力なら俺の方が上だし。」
「そっかぁ。なら、頑張れ!頑張れ!だね!」
陽平のやつは何をやっているんだ……?
ミュエに頭を撫でられて惚けている陽平を尻目にアクセルは目の前の状況を冷静に判断していた。
「おいおい、ビットマンJr……技まで持ち出すとか聞いてないぞ……」
「僕は本気で行くよ!」
「そうか。なら、俺もトップギアを入れていくからな。ブースターオン!!!!!」
次の瞬間ビットマンJrの体に強い衝撃が掛かり、体が空中で3回転した後、地面に叩きつけられた。
***
「う、うーん……」
弾力のある枕の上なのか、額に冷たい感覚もあり、とても心地よい……何やら良い匂いがするような気がする。
「勇二さん、目は覚めましたか?」
女の人の声がする。上体を起こすと何かにぶつかる。
「痛っ!!」
僕の声とリュエさんが驚きと戸惑い混じりで声が重なる。
「あれ?僕はアクセルと訓練をしてて?ビットチェイサーを出して……どうなったの?」
「びっくりしましたよ……いきなりお客様が空中に飛び上がったと思ったら地面に頭から叩きつけられるんですから……」
額を抑えながらリュエさんはそう説明してくれる。
後ろからアクセルの軽い声が聞こえてくる。
「おう、勇二!起きたか?」
変身を解いたアクセルーー優一の姿が目に入る。
さらに視線を動かして、横を見ると陽平がミュエさんに膝枕をしてもらい寝転がっている。
「あっ、陽平……優一、本気でやり過ぎだろ!」
「すまん。すまん。元を辿れば、お前が技を使った事が原因だけどな。」
「むぅ……そうだけど……なんで陽平まで?」
「お前が倒れた後すぐにこっちに来たからな。トップギアのまま、思いっきり蹴り飛ばしてしまった……陽平が起きたら謝るよ。」
「陽平……無茶しやがって……それにしても、やっぱり優一は強いや……」
「まぁな。A級怪人となら五分でやり合えるからな。」
「あぁ、僕も早く強くなりたいなぁ……」
「焦りは禁物。地道にコツコツとが最も強くなる秘訣だぜ。勇二は才能もある。これから伸びていけば良いさ。それまでは俺が守ってやるから。」
「うん!」
僕は立ち上がろうとするも足に力が入らず、がくんと膝を落とした。
「なんか訓練のつもりがそんな状況じゃなくなったな。」
頭を掻きながら気まずそうに優一はそう呟いた。




