気がつくと怪人になっていた件
どれくらいの時間が経っただろうか?不思議と腹も減らず生理現象も来ない。
あのジジイが立ち去ってからだいぶ落ち着いてきたようだ。
怒りの気持ちは所詮一瞬、醒めれば不安な気持ちの方が大きくなる。
俺はどうしたんだろうか?
仕事の方は大丈夫だろうか?
職場の同僚や親は心配してるだろうか?
これからどうなるんだろうか?
はぁ、この状況から脱したら一度ドリームレンジャーでもレンタルして観てみようかな。
と、ぼんやり考えていたら、コツコツコツと靴音が聞こえてきた。
「どうだね?だいぶ落ち着いたかね?」
「ああ。 あんたへの怒り気持ちは当然あるけど、どちらかというとこれからどうなるのか知りたい。というか、今はいつなんだ?」
「ワシと君が衝撃の出会いをしてからーー」「おい、その言い方、辞めろ。」
「なんじゃい、面倒くさい奴じゃの……ゴホン、君が死んでから、大体2週間というところじゃな。」
「2、2週か……ん?」
「あー、あと君は行方不明という事になっとるぞ。君の親御さんから行方不明者届けが警察に出されて処理されとるから。」
「!? 行方不明!?」
「そりゃ音沙汰もなく消えればそうなるじゃろて。」
また、ふつふつと怒りが湧き出てくる。一発ぶん殴ってやろうか?と思った。
「あんたはなんでそんなに冷静なんだ?」
「気の毒に感じてはおるよ。 ただ、ワシの問題ではないからのー。例え、君がワシを告発しても対して影響はない。 」
自分が怒りでカタカタと震えているのを感じる。
抑えろ俺……まずはこの憎っくきジジイをとっ捕まえる為の情報を得なくてはな。
「あんたは何者なんだ?」
「ワシは怪人協会の怪人生産実験室の室長兼専任研修者の只野じゃよ。」
「怪人協会?なんだそれ?」
「わかりやすく言うならヒーローと敵対し、世界征服を目指す組織じゃな。」
「はっ、まるで子供のお伽話じゃないか!? そんなものが現実に存在する訳ないだろ。ジジイは妄想と現実すら区別がつかないようだな。」
「フォッフォッフォッ、若いのー。 まぁ良い、現実を知るためには先ずは自分の状況を見る事から始めるのじゃな。」
ガチャガチャガチャと俺を拘束していた鎖が外されていく。
「さぁ起き上がりたまえ、小宮司君ーーいや、屍怪人 GUYコツよ。」
起き上がり、自分の手を見ると普段は肌色の肉壁に覆われている筈の白い骨が見える。寧ろ骨しかない。
――
「おい、これはどういう事だよ!?」
「フォッフォッフォッ、言ったろう。君は即死だったと。 ワシは君を蘇生させるために怪人化させたのだよ。 怪人は強力な力を得られるからの。」
「な、なんだってこんな事に……」
骨の手で顔を触ってみると明らかに肉ではない触り心地を感じる。部屋の中を見渡すと鏡があった。その鏡にら自分の顔を見ると見慣れた顔は見えず、明らかに骸骨がそこ――本来自分の顔がある場所――にはあった。
「は、はっは……」
悲しいやらなんやらでぐちゃぐちゃになりそうな感情だが、涙は一切出てこない。そりゃ生理現象も起こらない訳だ。
「どうだね?生まれ変わった感想は?」
「てめっ!このっ、ぶっ殺してやる!!!」
ジジイめがけて殴りかかるが簡単に受け流されて倒されてしまう。
「落ち着きたまえ。ワシを殺してなんの得があるのか?そもそも、怪人になって数週間の君がワシを殺せる訳なかろう?」
ふぅっと息を深く吸うと、ジジイは語り始める。
「GUYコツよ、少しいいかね?ワシは常々思っていた事がある。現代社会でワシは人を人たらしめる何かが欠けてしまったのではないかと。適正に沿って与えられた仕事をして、与えられた生活を送り、良くも悪くも人並みの生活をしていける仕組みが整ってしまった。しかし、これは凡夫が社会の仕組みを知る事なく何処かにいるお偉い様達が勝手に決めたレールの上を歩く事が最も正解で、そう選択する以外が不正解に見える為、必然、選択肢はなく決まったレールを歩く事を余儀なくされてしまう。これでは、人の持つ意思や思考を蔑ろにしていないかと?」
「……」
「現に君は怪人協会を知らないと、ヒーローは子供の妄想と言ったな。 確かにそんな情報は君のような会社員には不要の情報だ。しかし君が知らない現実の中で確かに怪人協会は存在し戦いを続けているのだ。」
「……」
今までのおちゃらけたような感じはなく、ジジイは俺に問いかけてくる。
「君の人生を振り返ってみるが良い。何か楽しかった事はあるか?これから楽しい事は起こりそうか?自分の人生に満足していたか?」
「……」
「まぁ、君の回答は待つまでもない。今の社会における回答なぞ分かりきっておる。」
「でも、現実を楽しんでいる奴だっていたかもしれな――」「それは君自身でなくていいのか?何処の誰かもわからない奴の為に自己を犠牲にすると。大層な英雄願望だ。」
「……世界征服なんて意味がない事だと思う……」
「怪人協会の目的は世界征服といったが単に社会を壊す事ではない。本懐は世界に何らかの爪痕を残す事なのだよ。」
このジジイの話を聞いてドリームレンジャーの話を漠然と思い出してきた。確か似たような話だった筈だ。
「怪人協会としても君の協力を無理強いはできない。今回は君を望まぬ怪人にしたのはワシの不注意によるところでもある。しかし、君を元の生活に戻す事は難しいだろう。別の何処かで今までと似たような生活に戻してやる事は出来るぞ。2週間後君の決断を聞きに来よう。」
そういうとジジイは再び部屋の外へと消えいく。
俺はその後ろ姿を見て呆然としていた。




