思惑を乗せてそれぞれは征く
「でっ、GUYコツ、さっきのメールにゃんだったの?いきなり仕事ってー。」
「あぁ、さっきメールにも書いたが怪人協会でイクラシティって街を侵略することになった。で、俺らが向かうことになったんだよ。」
「……なんで俺らなんだ?」
「新しい支部だから。だそうだ……まぁ、この作戦のメインは他の支部のリンドウって奴が指揮をする。」
「GUYコツのアニキ、そりゃ〜厄介な役目を押し付けられましたねぇ〜それにリンドウの兄貴との仕事か……リンドウのアニキは自分の舎弟の面倒見は良いけど、それ以外は本当冷血野郎ですし、邪魔しないように気をつけないとって感じですかね……」
「いや、リンドウとは仕事の分担をしたからリンドウらに気を使う必要はないぞ。」
「そうなんですね。そりゃ良かった。」
「……で、街で暴れるって言っても具体的に何すんだ?」
「うーん……それな!?取り敢えず、住民の注目を俺らに集めておけば良いんだと思う。」
「もっと言えば、街で暴れるってのは住民から恐心をいっぱい集めるって事だと思いますよ。なのでまずは、手っ取り早く住民を数人殺して怪人が来たぞーって感じでやりましょう!実際、これが一番効くんですよ〜!」
「にゃはは、それ良い!採用にゃ!」
盛り上がるキャットシーとテッペキンに俺はストップをかける。
「駄目だ。殺人は絶対、駄目。」
「はぁ〜?にゃに甘い事言ってるのー?怪人にゃのに人を殺すの駄目とか意味不明にゃんだけどー?」
「それはなぁ……殺人は道と……」
GUYコツがメンバーに殺人を容認しないのは道徳的な話であり、それ以外の理由はない。しかし道徳的な話では、恐らくキャットシーもテッペキンも納得しないだろう。それはGUYコツには感じ取れていた。
多分、ここでこいつらのモラルに訴えても意味は無い。何か考えねば……「それは……えっーとな……」
その時、良い言い訳がGUYコツの頭によぎる。
「怪人ってのは人がいなけりゃ生きられないだろ?つまり、人とは共生関係にあるから……だな。どから。人の数を減らすのは駄目だ。」
「人は一杯いるにゃ!数人くらい減らしても問題にゃいと思うにゃ。」
「キャットシー、その考えは危険だ。一杯あるからと有限のものを闇雲に取り続けることは悲惨な結果しか呼ばない。それに、人は時折素晴らしい物を俺らに提供してくれる。そうだなぁ……例えば昨日飲んだ酒だって人が作ってるんだ。もしも酒を作る人が居なくなったらキャットシーだって嫌だろ?」
「まぁ……そうかにゃー……?酒飲めなくなるのは嫌だにゃ……」
「実はな、怪人協会の支部長達も若手の怪人による殺人には問題視していたんだ……今回の呼ばれたのも、その件の話もあったんだぜ。」勿論、嘘である。
「マジっすか!?あの化け物らが!?なんか意外っていうか……嘘っぽ」テッペキンの言葉を遮る様にGUYコツは畳み掛ける。
「テッペキン、人も怪人も変わるものなんだよ。支部長達は紳士的なやつらばかりだった……新米の俺にも優しくしてくれたしな。」勿論、嘘である。
「想像できねぇす……奴らが他人に優しくとか……うっ、想像したら吐き気が……」
そう言い残すと、テッペキンはトイレへと駆け込んで行った。
「というわけで、殺人は駄目な。」
皆、キャットシーは渋々と言った感じだった……が了承してくれた。
テッペキンが戻ってきたので「テッペキン、殺人は駄目な。」と改めて言っておく。
スルメンはGUYコツに「……そういえば襲撃は3日後の昼からって話だが、イクラシティにはいつ頃つけば良いんだ?出発はどうすんだ?」と質問してきた。
「今日中にはカズノコシティを出るよ。」
「……急すぎでは?」
「それは……すまん……2日で襲撃ポイントを決めておきたいからなぁ。無理なスケジュールなのはわかってる……準備の時間も必要だろうから1時間後に出ようとは思っている。」
「……っ」スルメンの言葉を遮りアレグラが「わぁい!わたくし、カズノコシティの外って初めて!皆様でお泊まりなんてとっても楽しみですわね!」と愛嬌を振る様な仕草で言ってくれた。アレグラがこちらにウインクしているところを見るにわざとやったんだろう。
しかし、そのアレグラの一言で何かを言いかけたスルメンは言葉を飲み込むんだようだ。
「……はぁ、次からはもっと早くから相談してくれ。」
「本当に急ですまない……それじゃ、1時間後に集合な!」
1時間後、皆準備を済ませて、ダイニングに集合する。
「そうだ。外での呼び方の取り決めをしておかないとな。襲撃中はともかく、調査中にGUYコツって怪人名で呼ばれるのも変だしな。俺の事は司と呼んでくれ。皆はなんて呼べば良い?」
「……それGUYコツの人間時の名前か?」
「まぁ、そうだよ。本名だ。」
「……そうか。俺は原と呼んでくれて構わない」
「あたいは美衣子で良いにゃ」
「俺っちは盾鉄男と名乗ってます」
「わたくしはアレグラですわ。」
「ありがとう!皆、その名前で呼び合うことにしよう。」
では、いざイクラシティへ!
かくして怪人たちはイクラシティへと向かう。
***
次の日の早朝
「おっはよー!って、何この車!?」
「随分と遅かったなぁ、遅刻するなと言ってたよなぁ……20分も遅れて来るとは良い度胸だ」
「はうぅ、ごめんなさい……なんか起きられなくて……」
「はぁ……まぁいいよ。皆も乗ってるから梢も乗ってくれ。」
「はい……これどこから乗るの?こんな車、見たことないよ……」
テレビの中でしか見たことないような真っ黒で長いその車の中には色々な食べ物や飲み物が置かれていた。
もはや椅子というより部屋と言った方が相応しいだろう。梢の到着を待っていた僕らは朝のモーニングを楽しみながら梢が来るのを待っていた。先程、梢の声が聞こえたので窓の方を見ると集合時間の20分遅れで遅くやってきた梢は優一に何やらからかわれているようだ。
「梢、こっちこっち!」
扉を開けて、梢を招き入れる。
梢もバスに乗り込み空いていた勇二の隣に座る。しかし、梢が遅刻なんて珍しい……
「なにこれ、なにこれ!こんな車テレビの中でしか見たことないよ!?」
「だよね。それにしても、梢、今日は珍しく遅かったね。もしかして寝坊?」
「ぅん……だって、しょーがないじゃん……なんか起きたら時間がズレてたみたい……」恥ずかしがりながら梢は答える。
「なんかあったの?」
「特には無くて寝坊なんだけどさ……でもでも、あたし10分前に着くようにって目覚まし時計を設定したんだよ!」
「まぁ、そんな日もあるよね。あんまり気にしない方がいいんじゃないかな?」
「そうする……」
優一もバスに乗り込むと「じゃっ、出発するぞー!途中寝てて良いからな。因みに泊まるホテルは着いてからの楽しみにしといて良いぞ!」
ヒーローの卵達を乗せてイクラシティを目指しバスは動き出す。
「うぃーす!寝よ寝よ。」そういうと陽平は目を瞑り寝始めたようだ。それに釣られるように梢もウトウトし始め僕の方に寄りかかって来る。ドキドキと心臓の音が高鳴ったような気がした……
僕も寝よっ。
僕が目を瞑ると、薫と歴が何やら話してるのが聞こえてきた。
「ねぇ、薫さん……私の勘違いなら良いんですけど、なんかこの合宿変じゃないですか?」
「変って何が?」
「上手く説明はできないんですけど……そうですね……急に決まった事とイクラシティで行う事……ですかね……」
「それは、れきれきの考えすぎじゃない?私は別にそうは思わなかったけどなー。よくある事じゃん。寧ろ、イクラシティで観光もできるとかサイコーって感じ!私始めてなんだよね!陽平もあの場で偉い人に言ってくれたのはマジ感謝!」
「あっ、なら良いんです……私の思い過ごしかもしれないですし……高級な車に乗った所為で気分が高揚してるのかもしれません……」
「前々から思ってたけど、れきれきってば案外ミーハーなんだね。」
「もうっ……そんなんじゃないです……」
「着くまで結構掛かるらしいし、皆も寝てるし。私らも寝よっか?起きてから色々と遊ぼう!」
「ですね……」
かくしてヒーロー達もイクラシティへと向かい始める。
怪人とヒーロー、それぞれの思惑を乗せて物事は着くと進んでいた。
そう一つの影が大地を見下ろしている。ここに、別の思惑もまた動き始めていた。




