ヒーロー研究会の仲間達
今回はヒーローの話です。
ここは私立カズノコ学園。表向きはカズノコシティに存在する小中高大一貫校の巨大な学園機関である。ここにはヒーロー協会の支部が設置されていて、数多くのヒーローが在籍する組織という側面も持ち合わせる。魔法少女タマキキャットこと、玉置梢もカズノコ学園の生徒である。自分がヒーローをやっている事はヒーロー研究会に所属する仲間とヒーロー協会の人達だけが知る機密事項である。
そんなカズノコ学園でホームルームを上の空で聞きながら、終了の合図をいまかいまかと待ちわびている一人の少年がいる。その少年ーー榊勇二は黒縁の眼鏡を拭いたり、ボサボサの髪の毛をいじったりとそわそわとしていた。
キーンコーンカーンコーン、終了を伝えるチャイムが鳴る。
勇二は少しサイズの大きい学生服を正しながらヒーロー研究会の部室に急ぎ足で向かう。
先の怪人との戦いで傷つきずっと休んでいた梢が、合宿のブリーフィングのために、部活に来るからである。 勇二は梢と話をする事をずっと心待ちにしていた。
部室前につき、扉に手をかざして部室を開こうとしたタイミングで後ろから声をかけられる。
「ゆーじ!久しぶり!ゆーじはいつも早いねー」
振り返ると梢が鞄を持って立っていた。夕日を背景にこちらを微笑みながら話しかけてくる梢にトキメキとを感じつつ、平静を装い返答する。
「梢!久しぶり!左腕が治って良かったよ。もう大丈夫なの?」
「左腕はもうなんとも無いよ。今まで通り動くし。やっぱりきみちー先生の腕は確かだね。」
「治せないとか言ったら僕は公孝を張り倒したよ。」
きみちー先生ーー只野公孝というヒーロー協会の医療機関で働く若い男の先生だ。僕も何度か会ったことがある。メガネの似合うカッコいいお医者さんだ。医者としての腕も確かで赴任してきてあまり経っていないが皆から信頼されている。僕もあんな風になれたらとは思う。
「まぁまぁ、外で話すのもなんだし部室に入ろっか?」
「うん、そうだね。」
そう言い部室の扉を開けて中に入ると、僕と梢は置いてある丸テーブルに着席する。
「休んでる間になんかあった?」
「うーん、特にはないけど……どうして?」
「なんか梢の雰囲気が変わった気がしてさ。気の所為なら良いんだけど」
「コンタクトにしたからかな?どう似合う?」
そう言いながら顔を近づけてくる梢に自分の心臓の音が早くなっているのを感じる。
梢は今までは不似合いの眼鏡をかけていた。変身後の姿を変えるためという事を聞いたことがある。
見た目の様子が変わるだけでこんなに印象って変わるものなのか?勇二はなんとも言えない不思議な感覚に戸惑っていた。
「それとも、似合わない?」むーっといったように梢の頬が膨れる。
「に、似合うよ!梢は眼鏡がない方がいいと思う!」その言葉で梢の表情は明るくなる。
「でも、変身後の姿に……あっ! もしかして、梢はヒーローが嫌になって辞めることを考えてるとか……ある?」
「あたしがヒーローを嫌になるとか絶対にないよ。ま、まぁ、この前は流石に怖かったけど……もっと強くならないとって思ったもん!」
良かった…と心の底から思った。公孝の話では梢は肉体的な面よりも精神的な面のダメージが大きいのではないかという事を聞いていたからだ。
「……僕は梢をあんな目に合わせた骨の怪人は絶対に許さない。」
「骨の怪人さんは違……」
何かを言いかけてぶんぶんと頭を振り言葉を続ける。僕はどうしたのかと思ったが梢は話題を変えてきた。ので、この話は切り上げることにした。
「それよりも!イクラシティでの合宿が楽しみだね!」
「そうだね!僕もイクラシティでの合宿は楽しみだよ!イクラシティはご飯がすっごく美味いらしいよ。あと、近くには海もあるって話だよ。」
「美味しいご飯と海か〜、いいね!なんか凄く合宿って感じがする!」
「あとね、今回の合宿は兄貴が引率してくれるらしいよ。」
「ほんと!? ゆーいち先生が、なんかうれしいなぁ!えへへ、今日のブリーフィングは楽しみだなぁ」
榊優一は僕の兄であり、普段は体育の教師としてカズノコ学園で働いていて、このヒーロー研究会の副顧問もやってくれている。そして兄は加速英雄アクセルというヒーローとしても活動している。何体もの怪人をやっつけたり、捕まえたりしている有名なヒーローで勇二にとって憧れの存在でもあった。
兄貴が引率してくれるのは凄く嬉しいけど……合宿が地獄にならなきゃいいな……梢と色々と町を見たり出来るかなぁ。
「梢は今日のテストは大丈夫だった?確かあれで補修になると合宿に行けないって話だったよ。最近治療してて勉強どころじゃなかったんじゃないの?」
「ふふーん。最近、家庭教師の先生に勉強を見てもらってるからテストは大丈夫!……だと思う。」
「家庭教師?梢ってそんな勉強好きじゃなかったでしょ、何かあったの?」
「おかーさんが勝手に家庭教師を申し込んでたの。最初は『えっー!?』って思ったけど、家庭教師の先生は気さくな人だし、結構カッコいいし、教え方上手いしですっごく助かってるよ。あとね、その先生はヒーローが好きな人だったの。あたしの知らないヒーローも、知ってるの!」
「お、男の先生なんだ……」
僕はボソッと零す。梢のヒーロー好きはいつもの事なんだけど、なんかヤキモキした。
「ぼ、僕だってヒーローには詳しいし……」
「その先生が好きなのはドリームレンジャーってヒーローだって。ゆーじは知ってる?」
「し、知らない……」
「そっか。あたしも聞いた事なかったから、多分、研究会でも名前が出た事ないよね。本当に誰なのって聞こうとしたんだけど、なんかはぐらかされた気がするんだよねぇ……」
「知らないヒーローがいるとか研究会の名折れだし。ーーよし、過去のマイナーなヒーロー名簿も漁ってみよっか!」
そう言って立ち上がり、資料のある本棚の前に移る。
久しぶりの梢との会話はやっぱり楽しい。本を探しながら僕は梢と話す時間が永遠に続けばいいのに…そんな事を考えてた。
その矢先、ガラッと扉が開き、同じクラスの友達で研究会メンバーの立松陽平が部室に入ってくる。
「おい、勇二はえーって。俺は呼び出しくらってたから待っててくれって頼んだろ。独断専行は事故の元だぞ。おっ、誰かと思ったら玉置じゃねーか、久しぶり!怪我はもういいのか?」
「よーへい、おひさー!怪我はもう大丈夫。」
「玉置が戻ってくれてよかったぜ。ヒーローオタクの相手はヒーローオタクじゃねーと務まらんからな。玉置が居ない間、勇二の奴ずっとつまんなそうだったし」
おい馬鹿、変な事言うなよ。心の中で叫びつつ、僕は本棚の後ろからフォローを入れる。
「別につまらないとかじゃないよ。梢が酷い大怪我をしたって聞いてたから心配だっただけ。大事な仲間なんだから。」
「ゆーじ…なんか心配かけちゃったね。あたしももっと強くならないとだね!」
「玉置が今以上に強くなったら俺らの立場ないけどな」
はははは、と笑っていると、花村薫と菊水歴が一緒に部室に入ってくる。
「ハロハロー!皆、揃ってるねぇ。おっ、こずこずもおひさー!」
「こんにちは……梢さんも無事でよかった……これで全員集合って感じだね……」
「かおるん、れきれき。おひさー!」
梢は席から立ち上がり女子二人の元へ駆け寄っていく。そして二人と楽しく談笑し始める。
***
僕は榊勇二。これでもヒーロー研究会の部長を務めている。小学生の時はヒーローはあんまり好きじゃなかった……半年くらい前の怪人による身勝手な暴動事件に巻き込まれた時に兄貴や梢、魔法少女タマキキャットに助けられて、ヒーローに憧れるようになったんだよね。
親父にヒーローになりたいって言ったら、なんか凄く感激されてビットマンの名前を継ぐ事になったんだよなぁ。
立松陽平は目つきが鋭く、金髪に染めた少し長めの髪にシルバーアクセをつけた学生服を崩れた感じで着こなすヤンキーのような風貌をしている。だが、実際は責任感は強く、仲間思いの気のいい奴である。
陽平は先輩から誘われてヒーローになったと言っていた。音響戦隊ビートレンジャー ーーそのブルーをやっている。陽平自体は音楽が得意じゃないし、ビートレンジャーから誘った先輩たちは居なくなったらしく、今は一人で戦隊を切り盛りして頑張っているようだ。
花村薫は帰国子女の女の子だ。モデルみたいにすらっと細い体に長い金髪で校則違反ギリギリのメイク、ミニスカート、ルーズソックスとギャルファッションをしているが、本人曰く、この国の文化に触れて感銘を受けたとの事。本人は身長が高く明るく活発な性格加えて目立つ見た目なので年上の先輩や同年代の女の子にもファンが多いらしい。
薫は元の国でもヒーロー協会に入りヒーローだったらしいけど、今はあまり活動には参加していない。どうやら、留学の必須条件だったからこの研究会のメンバーになっているらしい。薫はSUMOライダーというヒーローをやっていたらしい。実は変身した姿を見たことない。歴の話では凄いカッコよくて強いらしい。
薫と一緒に入ってきたのが菊水歴。僕と同じくヒーロー一家の娘さんだ。1つ縛りをした黒髪で物腰や話し方は大人しい感じ。ヒーロー研究会では、資料を準備してもらったり、生徒会との事務手続きをしてくれたりと色々と細かい所をやってくれてる。本人曰く自分はヒーローに向いていないし、ヒーローが好きだからというより研究会が好きだからやっているとの事だ。
歴自身もエレキテルガールという電撃を使うヒーローで能力は高いのだが、本人の性格もあってかヒーローとしてはあまり活躍できていない。
そして最後に玉置梢。両サイドに2つに縛った髪型に可愛い小物の髪留め。大きな目にプルプルしている頬。性格も裏表のない感じで子供っぽい所がある。そんな彼女だが、自分もヒーローなのに重度のヒーローマニアでもある。
梢のヒーロー名は魔法少女タマキキャット。僕らよりも早くにヒーローになっており、梢は小学生の時からヒーローをやっているらしい。この街にタマキキャットありと言われているくらい有名なヒーローでもあり、正体を知った時には本当にびっくりした。確かあれから僕もヒーローを目指したんだっけ……
この5名がヒーロー研究会のメンバーだ。いつもの光景に戻ってきた。僕は無性にそれが嬉しかった。
***
陽平と薫と梢が再会で盛り上がる中、僕は本棚で過去の資料を探す事を続けていた。謎のヒーロー、ドリームレンジャーとは一体なんなのかと湧き出る好奇心を抑えられずにいたからだ。
「今月のヒーローマガジンで勇二さんの活躍見ました……本当に凄いなぁって……」
そんな黙々と過去の資料を漁っていた僕に歴が話しかけくれる。
「なになに?ゆーじがどうしたの?」
ヒーローマガジンというワードに反応したのか梢も会話に加わってくる。
「怪人を単独で撃破して……それを捕らえて……ヒーロー協会から恩賞を貰ったんです……今月のヒーローマガジンに書いていました……」
「今月のヒロマガかー。あたしも早く読みたいな。っとそんな事より、ゆーじ、凄いじゃん!おめでとー!」
「単独撃破の件はたまたま戦った奴があんまり強くなかっただけだよ。それに、僕より梢の方がヒーロー協会から恩賞だって貰ってるでしょ?」
「あたしの場合、ヒーロー初めて2年間くらいは先輩とずっと一緒だったから、単独撃破が出来たのは3年目くらいだったし、恩賞なんてもらった事ないよ。ヒーローになって半年でこれだけ評価されるのは相当凄いことだよ!」
「そ、そうですよ……」
「やっぱり、部室来る前にヒロマガ買っておけば良かったー。」梢がそんな事をぼやくと陽平が「ん?玉置、ヒロマガ読むか?」と割り込んできた。その流れで、陽平は鞄から雑誌を取り出すと、ヒラヒラと梢に見せる。梢は雑誌につられて陽平の元へと向かってしまう。
「梢さんは相変わらず猫さんみたいですね……」
「だよね。」
梢には、自由奔放という表現が似合う。そういったところを含めて飽きない子だと僕は思っている。
「それにしても……勇二さん……梢さんが戻ってきて凄く嬉しそうですね……」
「まぁ…ね。ひどい怪我って話だったし、やっぱりヒーロー研究会の部長としては、メンバーの無事は何より大切だしさ。勿論、梢だけじゃなくて歴も大切だよ!」
歴は頬を赤らめ俯きながらなにかを呟いたような気がする。その言葉は僕の耳には入らなかった。
何故なら、同時のタイミングで部室が開き兄貴が入ってくると僕らを集めてイクラシティへ行くためのブリーフィング開始の合図をしたからだった。




