リターン
梢は状況が読み込めなかった訳ではない。だが決して冷静ではなかったのだ。
目に入った怪人の姿を目にしたことで、梢の中でGUYコツの敗北を信じたくない気持ちと、怪人に対する恐れる感情が同時にやってきていた。反する気持ちを処理するのに梢はまだ経験が足りない。
一瞬の遅れは、ライ雷オンに自由行動を許してしまう。
獲物を探すようにライオンの頭部が休憩していた学生を捕らえた。
口からは獲物を見つけた猛獣の如く止めなく涎が垂れ続けている。
そんな怪物が、突如、顔を覗かせたのだ。
先ほどまでの恐怖を思い出すのに時間は必要ない。
ライ雷オンから零れた小さな唸りは、人の注目を集める。
その姿はこの場を支配するのに十分だった。
一人が突然現れたその存在に気が付き大きな悲鳴を上げた。
その瞬間、この場所は安全地帯ではなくなったのだ。
――動乱――騒乱――狂乱。
それらは人から人へ伝染していく。
戦う術を持たない者は逃げ惑うしかない。
その光景を見ていた梢は息が苦しくなってくる。
先ほどまで和やかに過ごしていたのが嘘のように、怒号がひしめきどこからともなく鳴き声がきこえてくる。
視界が遠くなる感覚。
梢は呆然自失になった状態でどうしてよいのか考えることもできずにその場に立ち尽くしていた。
そんな梢の肩が叩けれて声がかけられた。
「梢ちゃん!!!」
「玉置ちゃん!!! 早く逃げよう!!!」
真理絵と加奈子だ。二人は息を切らしながらもこの動乱のなかでも、二人は梢を迎えにきたのだ。
この混乱の中、他人を思いやれる行動は、この場で誰よりも勇気のいる物に違いがない。
梢に触れいてる体は震えていた。
それでも友達のために自分が逃げるよりも先に探しに来たてくれたのだ。
怪人は決して餌を逃がすなんて事はしない。
(ヒーローのあたしがやらなきゃ!)
「二人ともありがとう……でも、先に逃げて!! あたしはやらなきゃならない事があるから。」
怪人が動きだす前に、梢は一歩を踏み出した。
―――
――
―
「心地良い。GUYコツとの戦いで使い果たした力が再び沸き上がってくる。
ただ現れただけでこれほどの恐心が集まるとは。一匹見せしめに狩ればもっと効率が良いだろうか。」
ライ雷オンは獲物を狩る猛獣の瞳で一人の学生を見た。
その命を取らんと、巨大な爪を研ぎ澄ましていた。
その様子は直ぐに分かった。梢は大きな叫んだ。
「待ちなさい!!!!!」
動きが止まりライ雷オンは梢を見る。
その瞳には体が震えてしまうものだった。
それでも、梢は問いかける。
「なんで……なんで、貴方がここにいるの? リボーンさんはどうしたの?」
敢えて聞かなくても分かることだ。
ライ雷オンがここにやってきた事実の意味はGUYコツが敗北したことに他ならない。
だが、梢は疑問を口に出さずにはいられなかった。
「『なんで?』ですか。使い放たしたエネルギー補給をしに来ただけですよ。
それで、力のない君が私の邪魔をすると言うのです?」
ライ雷オンの声には静かな怒気が宿っている。
(怖がっちゃ、怯んじゃだめ……)
「……あたしはヒーローだから! 皆が逃げる一瞬だけでもあなたを止めなきゃ!!!」
「止める。あはっ、あっはっは。でも丁度よい。より深い恐怖を与えるために一匹殺そうと思ってました。その役目を君にやってもらいますか。」
ライ雷オンは軽く跳躍をし梢との距離を詰める。
最後に振り絞った勇気が梢に奇跡を生み出した。
『変身』




