支部長の仕事
怪人協会に着くと入り口でライ雷オンが待っていてくれた。簡単な挨拶をしつつ、ライ雷オンに誘導されて大きな会議室に入る。
会議室の中には一昨日に激闘を繰り広げたスラッシュが腕を組み座っている。少し気まずい気持ちになるが向こうはこちらの事などまるで興味が無いかのように、特に何もしてこない。
そんなスラッシュの他に6体もの人物ーー
黒のジャケットに羽織った立派なリーゼントを持ち尖ったサングラスをかけたヤンキーのような男
長い白髪に地面につくほどの長い髭を生やした仙人のようなお爺さん
成金のように金ピカな装飾をふんだんに身につけたまるまる太ったおじさん
胸部や局部が見えそうなほどギリギリなボンテージ衣装を身につけ鉄の首輪をつけた羽の生えた女の子
その女の子の前に置かれた椅子に胡座を組でいる生意気そうな男の子
髪の毛をポニテールにまとめ整ったスーツ衣装をピチっと着こなす女
が居た。
そんな濃いメンツは話をする事なく巨大な会議室の中で丸テーブルを囲みにらみ合いをしていた。
彼らの中にこちらを見るものは誰一人居ない。ピリピリとした雰囲気が会議室の中を包んでいた。
今、俺は怪人協会の支部長の仕事に取り掛かっている。それがこの会議への出席な訳だが、癖の強そうな奴らばかりで正直、今すぐ家に帰りたい気持ちになっている。部屋の片付けもしないと……
あぁ、やらなきゃいけないことだらけだ。
色々考えていると扉を開けたまま、静止してしまっていたらしい。その呆けた様子を見透かされてのか、後ろからライ雷オンに「これから始まる会議では、もう少し集中してくださいね。」と軽い注意を受けてしまう。「あぁ、すまん……」と謝罪する。
「机の上に置かれたネームプレートにGUYコツと書かれた席に座り、資料にでも目を通しておいてください。」と促される。
コソコソと会議室の中を動き回る俺に対して誰もこちらを見向きもせずに資料を読んだり、目を瞑り瞑想のような事をしたりしている。
机の上には何枚かの紙と第7支部 支部長 GUYコツと書かれたネームプレートが置かれていた。
「そのネームプレートは皆に見えるように反対向きにしてください。」
ライ雷オンの指示に従い、空いていた席に座り、ネームプレートを見えるように反対に向け、資料に目を通す。
配られた資料には『イクラシティ襲撃作戦について』という物騒のタイトルが記載されている。
数刻過ぎてから、ライ雷オンも丸テーブルの椅子に座り話を始める。
「ご多忙の中、お集まり頂きありがとうございました。メンバーも揃ったので、怪人協会の緊急支部長会議を始めます。」
資料をヒラヒラと掲げて話を続ける。
「えー、資料は簡単に目を通されたと思いますが、今回の議題は配布資料に記載の通りでイクラシティ襲撃作戦の主担当の支部を決めたいと思います。」
若干のざわめきが会議室内に走る。
「只野博士の指示で3日後にイクラシティの襲撃を行い、怪人協会の領土にします。緊急の案件のために全支部が出ることは難しいと思いますので、1つから2つの支部で行ってもらうことにします。他の仕事をされている方はこちらを優先で構いません。」
あの博士はなんともいきなり過ぎないか?と思ったが会議に参加している他の面子の様子を見るに平常運行らしい。
「どなたか立候補いただけないですか?」そうライ雷オンは質問投げかけると誰かがぶっきらぼうに適当な返事を返す。
「ふんっ、第7支部に任せれば良いだろう。使い物なるかのテストも兼ねてな。」
カカカッと笑いながら誰か配布資料を投げ捨てながら、そう一言を発した。
発言した奴の方向を見てみると、机に置かれたネームプレートには第5支部 支部長 アンザイと書かれている。
第7支部って……俺らのどころか?おいおい、無茶振り過ぎるだろ……
何か反論すべきか悩んでいるとライ雷オンが回答をしてくれる。
「アンザイ殿、第7支部の面々にも手伝いはしてもらうことは考えていますが、人数や戦力を考えると、この件は第7支部に一任はできません。そのため、メインで計画を遂行するのは別の支部という事でお願いしたいです。もう一度聞きますが、どなたか立候補される方はおりますか?」
「はいはいはーい!ライ雷オンしつもーん!ドラゴンのやつは来るの? 」
質問をした方を向くと第2支部 支部長 フェーンと書かれたネームプレートを置かれている机に座る子供が居た。
その質問に「ドラゴン?あぁ……」と疑問符を浮かべながらすぐに答えに行き着いたのかライ雷オンは回答をする。「彼は来るかは分かりません。ただ、彼の守備エリアの範囲から遠い地区になるので恐らく来ないかと思います。」
ライ雷オンはそう推測を述べる。
ドラゴンってなんだ?物騒なファンタジー的な生き物でもいるのか?あとで凹凹マンにでも聞いてみるか。
「ちぇっ、つまんないのー。なら、僕はパスだなぁ」ライ雷オンの回答を受けて不貞腐れるような態度を露骨に醸し出す。
「じゃ、さっき発言したアンザイの第5支部と第7支部の仕事って事で!はい、会議終わり。」
フェーンは最初に俺に無茶振りをしてきたアンザイに対して無茶振りを返す。
「フ、フェーン様、ご冗談を、たっ、戯れが過ぎますな」
アンザイはフェーンに対してしどろもどろになりながらそう返答する。
「我が支部の本領は物資の流通ですので、こういった戦闘案件はからっきしですからな。……では、スラッシュ殿の支部に任せるのが良いのでは?汚名返上したいでしょうからな」
「アンザイ、我の汚名とは?あまり調子にのるなよ。その口二度と音の出ないようにしてやろうか?それに我らの支部は忙しい……今は動けん。やらねばならぬ事もあるし、何処かの馬鹿が急に出て行った事もあってな。」
スラッシュの前には第4支部 支部長 スラッシュと書かれたネームプレートが置かれている。
スラッシュはこちらを睨み、アンザイに対して苛立ちをあらわにしながら口を開く。
おそらく何処かの馬鹿とはテッペキンのことだろう……
「人望がないのぅ」カッカッカッと嘲笑しながら更に続ける「汚名が何って?言われないとわからんものかな?」
アンザイが明らかに挑発的な言葉を返したのでライ雷オンが止めに入る。
「アンザイ殿、スラッシュ殿、いがみ合いはその辺にしてください。……本題に戻ります。出来れば推薦ではなく、立候補してもらえると進行が助かるのですが……」
皆黙ったまま、動きはない。当然、誰も立候補はしない。
「はぁ……では、こちらで指名します。リンドウ君、貴方にお願いしますね。」
「ハァ……結局こっちに回ってくんのかよ……」
第6支部 支部長 リンドウのネームプレートが置かれた席に座るリーゼントの髪型をした男が溜息交じりで返答をする。
「いつもご負担おかけします。」
「上の連中がやる気ネェのはあの博士の突然の思いつきを嫌がるのはわかるけどよ。俺らに押し付けすぎやしネェかな?ライ雷の旦那ァ?」
「本当に申し訳ない……誰もが通る道です……あと、リンドウ君には皆、期待してるんですよ。なんだかんだとうまくやってくれますから。」
「ヘェヘェ、わかりました。わかりましたよ。ハァ、支部長なんてやるんジャなかったな。めんどくセェ……」
「では、第6支部のリンドウ君と第7支部のGUYコツ君は残って下さい。これからの方針について話します。それ以外のメンバーはここで解散です。」
ライ雷オンのその言葉で席を立ち、強面の集団はぞろぞろと会議室を出て行く。
会議室の中にはGUYコツ、ライ雷オン、リンドウが残った。
何処かの地方のヤンキーのような風貌をしたその男は皆が出て行った後で足を机の上に伸ばし、如何にもな様子で苛立ちを表現しているようだ。
「えー、ではリンドウ君。改めての紹介となりますがこちらが新しくできた第7支部の支部長を務めるGUYコツ君です。GUYコツ君、自己紹介を……」「テメェの紹介はいらネェ……」
リンドウは机を蹴飛ばす。ガンッと大きな音を立つと机が大きくへこんでいた。その後、徐に椅子から立ち上がるポケットに手を入れながら俺を睨みつけながら俺の前に歩いてくる。
「よぅ、テメェはなにモンなんだ!?アァ!?何やら噂が色々と飛び交ってるようだが、俺ァ、そういう事には全く興味はネェ。だがな!?まぐれに頼る雑魚とテメェで何も考えらんネェ無能は嫌いだ。」
威圧的な態度で俺を更に強く睨みつけ、脅すような言葉を並び立てる。スラッシュと同様に黒いオーラのようなものがリンドウから立ち込める。
「俺ァ、自分の仕事はやってやる。だが、テメェの面倒は一切見ネェ。良いよなぁ!!??」
リンドウは俺の胸倉を掴み更に顔を近づけ冷たく低い声量で囁くように脅し文句をぶつける。
「俺らの邪魔をしたらぶっ殺すぞ!?」
その言葉の後に俺を突き飛ばすように後ろに押し出す。リンドウの言葉には一切の冗談は入っていないように感じた。
俺はリンドウから目を逸らさず、じっとリンドウを見つめ返す。
「ヘェ、お前そこそこ、肝は座ってるじゃネェか!?流石に怪人のヒーローとかいうぶっ飛んだ野郎なだけはある……まぁ、合格にしといてやる。俺はリンドウだ。まぁ今回はナカヨクやろうぜぇ。」
やれやれとライ雷オンが仲裁に入る。
「リンドウ君、これから1つの重大なミッションを行うメンバーになるのですから、脅かすようなおやめくださいね。」
「へいへい、許してくれよ。俺ァ、雑魚とはつるめネェから。最初に示しつけとかネェと甘えん坊の坊ちゃんはぶち殺したくなる。言っとかネェとな。」
はぁ……殺されるかと思ったぞ……この野郎……
「はぁ……そうですか。彼の事は色々聞いてるようですが、新しく第7支部の支部長になったGUYコツ君と言います。まぁ取り敢えず仲良くやってください。本題に移りますので、リンドウ君は席に戻ってください。」
「へいへい。」っとリンドウは投げやりな返答を返し席に戻ると、先程のようにふざけた姿勢で椅子に座る。
そんなリンドウを気にする様子もなくライ雷オンは話を進める。「作戦の詳細は紙を見てください。」
俺とリンドウとライ雷オンの3人のイクラシティ襲撃作戦の会議が始まった。




