夢の中
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「――やさん! 小宮さん!」
(自分の名前が呼ばれている? 一体誰だ?)
誰かに呼ばれていると認識した司は目を開けようとした。
しかし、瞼が重く開かない。
まるで目がなくなってしまったような感覚だ。
意識が戻ったことでじんじんとした頭痛があることに気が付いた。
その痛みは脳の頭頂部からじわじわと目の奥に伝っていくように広がっていく。
「どうしたんですかぁ? 酷い顔ですよ?」
嫌な感覚が思わず顔に出てしまっていたのだろう。
ゆっくりと目を開いていくと、薄目の視界に、沢山のファイルを抱えたスーツ姿の男が書類を持って立っていた。
その人物を思い出すのに、少しだけ時間が必要だった。
(ちょっと頭痛があって――)
喋りかけてきた男に向かい、返答しようとしたが上手く口が回らなかった。
「……」
無言のまま、少しの間が空いた。
「相変わらず無口ですねぇ。体調悪そうなとこ申し訳ないんですけど、このレポートを今月中にまとめてもらっていいですか?」
そういって机の上に抱えていた書類の束を司の目の前に置いていく。
「……」
そうだ。ここは俺の勤めている職場だ。
書類を置いてきたのは、上司の高橋である。
懐かしい顔だ。
「それじゃお願いしますね。」
それだけ話して終えるとすたすたと自席の方へ戻っていってしまう。
改めて机に置かれた書類を見る。
『19XX年制度改正の概要について』
『19XX年下期予算に関する役員会議 議事録』
『19XX年上期決算会議 議事録』
……
…
タイトルを見るだけでため息が出そうになる書類ばかりだ。
高橋は丁寧な物腰で仕事を頼んできているもののその量は非常に多い。
この辺も相変わらずといったところだ。
(俺は一体何を?)
司は思う。先ほどまで夢を見ていた気がする。
自分が皆を守るために拳を振るうヒーローとなる夢。
ヒーローになることは子供の頃に焦がれていた夢だ。
(まぁ、俺は怪人でもあったわけだが……悪くない夢だった。)
――夢。
そう。ヒーローになるなんてとうの昔に捨てた夢だ。
それが一つ叶ったのだ。司としては、
反芻するように思いかえす。
(人を守るために戦うヒーローになれるなら夢の中でくらいもっとこうズバッと!いけない物なのか。)
不思議と夢の事を考えていたら頭痛が収まっていた。
今は目の前の仕事を片付ける事だ。
やることは退屈な単純作業。
司は書類を一瞥して「ふぅ……」と息を吐き出してから、キーボードをカチカチと打ち込み始めた。




