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屍怪人 GUYコツの受難  作者: 恐竜列島
新人怪人歓迎会
17/214

本当の気持ち

若干、嫌悪感を与える表現を含みます。

ステージの上。

目の前の怖い者が自分に対して殺意を剥き出して、襲いかかろうとしている。


わたくしは……一体、何を期待していたんだろう……

わたくしの罪はこれで許されますか?

お祖父様、ゆきちゃん……


アレグラは己の短い半生を想起していた。


***


元々、吸血鬼は怪人でもなく、人でも無い。

独特の価値観で独特の文化を築いたとある一族を起源する歴史のある1つの種族である。

吸血鬼は、出会った異性を一目で虜にするほどの端麗な容姿に、妖艶な身体、それだけでなく、華奢な身体から想像できないほど強力な膂力を持っていた。

それは、一族に伝わる吸血の儀により得られる。


第一次世界大戦にて怪人に大敗を喫した吸血鬼は己の力を封じ、人と共に生きる道を選んだ。しかし、それは言葉で言うより難しい事を、吸血鬼の真祖であるベクター・バイロンは予想した。そして、その予想は正しく、多くの吸血鬼は人の生活に馴染む事が出来なかった。吸血鬼の格式を重んじる価値観が色々な場面で人の生活に入り込む一歩を邪魔をし、吸血鬼と人は徐々に溝を深めていった。


ベクター自身も人と調和して生きることは出来なかった。あまりにも異なる文化・価値観の違いに人に対して憤りを感じる事が多々あった。

そういった不満の声は吸血鬼の中に徐々に浸透し行く。人との共生をやめるべきという派閥も生まれ、その思想は徐々に過激な方へと向かっていく。


吸血鬼として成熟した者程、人とは共生はできない。そんな考えを抱いたベクターは、吸血の儀を行っておらず吸血鬼の格式に馴染みのない第一次世界大戦以降に産まれた子供に未来を託した。

だからこそ、ベクターは孫であり幼子のアレグラに人との共生ができる吸血鬼になるように教育を施し、依頼をしたのだった。


アレグラは人と吸血鬼の共生の象徴としての担ぎ上げられた神輿であった。

アレグラ自身もその認識は持っていた。

吸血鬼の真祖であり、敬愛する祖父ベクターからの依頼、絶対に上手くいかないといけない。そんな重圧を感じつつもアレグラは人と共に生きるという生活をする事になった。


最初は上手くやれてた。アレグラはそう思っている。


学園という人の子供が大勢集まる共同スペースに入り、学友を作り交流し輪を広げる。アレグラは愛想良く振る舞い、人に馴染む事が出来た。


アレグラは学園で風魔みゆきーーゆきちゃんというより特に仲のいい友人もできた。アレグラはみゆきと交換日記という、たわい無い日常を報告し合う遊びも始めていた。


しかし、みゆきがアレグラの家に遊びに来た時から歯車がズレてしまった。


アレグラの父、ドラナス・バイロンはその日、苛立たしい気持ちになっていた。そんな中、アレグラのみゆきへの接し方ーー吸血鬼の誇りを捨て去り人に媚びる様子を見て激昂した。

その日からドラナスはアレグラを牢に閉じ込め、吸血鬼の生き方をアレグラに教え込んだ。


それは教育というよりも洗脳に近いものだった。時に虐待を超え、拷問のような事になっていた事もある。

一ヶ月という期間、外界との接触を断たれドラナスの教育、もとい拷問を受け続けたアレグラは洗脳されきった。


吸血鬼にとって人はエサでしかない。

人は下賤な蛮族である。

人と接するときは家畜のように扱え。

呪いのような言葉を苦痛とともにアレグラの中に染み込ませる。


学園に来ないアレグラを心配したみゆきがアレグラの家に訪れた事が事件の始まりだった。みゆきを見たドラナスは笑みを浮かべ、アレグラを一人前の吸血鬼にする為にみゆきを生贄に吸血の儀を執り行なう事を決めた。


【吸血の儀】

吸血鬼は怪人のように恐心だけでなくその母体を全て喰らい力を得る。吸血の儀はそのための儀式である。吸血鬼が人を全てを余す事なく食すカニバリズムの儀式。人の肉や血、魂すらも直接を取り込み自分の力へと変える。


ドラナスは家の入り口でウロウロするみゆきを優しく出迎え、眠り薬を入れた飲み物をみゆきに与える。そして、眠りについたみゆきを儀式場に運び入れる。全ては順調だった。


洗脳されたアレグラはドラナスの言いなりになっていた。ドラナスに言われるがままに、眠るみゆきの正面から覆いかぶさるように抱きかかえ、左側の首筋に牙を突き立てる。


痛みでみゆきは目を覚ます。


ジタバタと暴れても全く抵抗出来ず、助けを呼ぶも誰も助けも来ない。鉄の錆び臭いが充満する広い異様な空間の中に男の笑い声だけが当たり一面に響いていた。


頸動脈から留めなく溢れる血を吸われ、みゆきは自分の運命を悟った。


首筋に噛み付いているアレグラの姿をみると、身体中に裂傷、鞭痕、縄痕、火傷。見るのも痛々しい傷が無数に存在し、光の消えた瞳から赤黒い血涙を流していた。


この状況を作ったのはアレグラじゃない。それは、みゆきにとって1つの救いでもあった。


ここにアレグラを助けてくれる人は居ない。


人は吸血鬼より格下の生物…

  ゆきちゃんはわたくしの大事なお友達…

お父様は偉大な吸血鬼、教えは絶対?…

  人との共生は吸血鬼に必要な事?…


頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱れそうな中、アレグラは頭に暖かく優しい感触を感じた。

みゆきがアレグラの頭を撫でつつ、耳元で囁く。


「アッちゃん苦しいんだね……友達なのに私じゃ力不足でごめんね……」


アレグラの動きが止まるが周囲から怒号が響き渡るとアレグラの体がビクッと動き、再度吸血を始まる。

みゆきは続ける。


「アッちゃんを助けてくれるヒーローは絶対にいるからね……ちゃんと助けてもらうんだよ……」


徐々に冷たくなるみゆきの体に反比例するようにアレグラは己の体は芯から温まるのを感じていた。


儀式が終わり、骸となったみゆきと空虚な瞳で前を見つめるアレグラだけが取り残された。

後ろにマントを着た複数人の使用人を連れて、満面の笑みを浮かべ拍手をしながらドラナスはアレグラに近づき、お祝いの言葉を告げ、骸となったみゆきを何処かへ運んでいく。

……その日の晩に出てきた肉は今まで味わった事の無いほど美味であった。その日からアレグラは一切の食事を摂っていない。


学園に来なくなった少女の家、迎えに行った少女が行方不明なった吸血鬼の根城に、ヒーローが踏み入れて、明らかになる吸血鬼の悪行の数々は人と吸血鬼の溝を深めた。

ベクターが望んで止まなかった人との共生は成し遂げられることはなく、吸血鬼は人ではなく怪人として分類されることになった。


その日から吸血鬼は表舞台から姿を消した。

吸血鬼の祖であるベクターは失意の中、すべての責任を取り投獄されることになった。


「わたくしは父に屈しました……自分すらも律すことが出来ず全てに失敗しました……お祖父様、ゆきちゃん、申し訳ございません……」


***


目の前の悪鬼がドス黒い殺意を剥き出しに巨大な刀から一閃を放つ。


死……


ぬことは無かった。目を開けると目の前に白い骨を剥き出しに、身体中から赤い液体を吹き出しながら、男が一人、自分を庇うように両手を広げ立っていた。


「アレグラ!大丈夫か!?」

「貴方は……?」

「俺はGUYコツだよ。それよりお前、大丈夫か?」

「わたくしは……」


……骨が剥き出しになった手でGUYコツはアレグラの頭を撫でる。


「わたくしはほっておいてください……」

「どうした?何かあったのか?」


後ろから低く唸るような声が聞こえる。


「貴様……っ、何者だ?見たことのない奴だが、我の斬撃をくらい立ち上がるか?なかなかにやりおるな。褒めてつかわすぞ。」


俺は後ろに振り向き声の主を見る。

男は笑いながら話しているが、俺やアレグラに向ける殺意は止まらない。


「それにしても、テッペキンの奴め……奴に任せたのは失敗だったな。あとで切り捨てるか。」


ステージから見てる時にも悪寒はしていたが、目の前にすると、威圧感は全然違った。

冷や汗が出るなら、今頃俺の体中はべちゃべちゃになってるだろうな。

こんなプレッシャーの中にいたのか……


「アレグラ、にげっーー」言葉を遮るように男は続ける。

「その娘を庇うならばっ!貴様は我の……いや、怪人協会の敵ということになるな?」


先ほどよりも強いプレッシャーが俺に襲いかかる。

アレグラのやつは全く動きやがらねぇ……


「反骨精神は認めてやるが、怪人協会では上の命令は絶対だ……吸血鬼の殲滅に使う兵士が減るのは惜しいが、違反者は粛清せねば他の者に示しもつくまい。」


刀を鞘に収めると、先ほどの斬撃を放つ構えを取る。

隙は全くない。

多分2回目は耐えられないだろう……

俺はアレグラの方へ向き直し蹲るアレグラの手を握る。


アレグラの手は小刻みに震えている。


「アレグラ、逃げるぞ!」

「逃げる?……何処へ?それに、わたくしはこの怖い方に殺されても仕方ないのです……この方にはわたくしを殺す権利があります……」

「殺す権利……だとっ?馬鹿言ってんな!そんな権利誰も持っちゃいない!お前も手が震えてんじゃねーか!」


アレグラの目がこちらを見る。

その目に光はなく、虚ろな目をしていた。


「次にあの斬撃が来たら俺は耐えられないぞ。ほら、さっさと動くぞ。」

「貴方だけで、お逃げてくださいませ……」

「そんな事は出来るわけないだろ。」

「あのお方に殺される事でわたくしは贖罪できると思うのです……それ程までにわたくしは弱く、罪深いのです……」

「贖罪?」


恐怖で動けないというよりも別の理由がありそうだ。


「アレグラ……お前はそういう奴じゃないだろう?ふてぶてしい強い偉大な吸血鬼様なんだろう?」

「強い吸血鬼……?何も知らない貴方が、わたくしの何をわかると!!!」


突然、アレグラは声を荒げて、感情を剥き出しにする。


「わたくしは父に屈して、大事なお友達に危害を加えました!わたくしを信頼してくださったお祖父様の信頼を裏切りました!わたくしは弱く愚かな娘なんです……」


どうやら、アレグラは暗い過去を持っている。

多分、それは俺が踏み込んでいいものじゃない。


「ふふっ、怪人を滅ぼすために送り出した父も驚愕するでしょうねっ!わたくしがまさか吸血鬼を滅ぼすための一助になるなんて!やっと父の呪いから解放されますわ。」


俺は思った、怪人も吸血鬼も身勝手だ。こんなことを子供にやらせる事か?いろんなものをこの小さい体に背負いこんで、どれだけ息苦しいのだろうか。


「わたくしの命で全部を壊せるならーー」


死んだ目で俺を見るアレグラの手を強く握りしめ、抱きしめる。そして、俺は語りかける。


「ゴメンな……もういい……無神経だったな……」


少しの沈黙の後、俺は続けた。


「アレグラ、お前に色々あった事はなんとなくわかった。……それで、お前はどうしたい?」

「わたくしは強くなりたいですわ……」

「そうか……なぁ、俺に出来ることあるか?」

「……何もないですわ……」

「そうか……アレグラの言う強い奴ってのはどんな奴だ?」


きょんとした顔をこちらに向ける。


「強い奴ってのは力が強いとかじゃなくて、いろんな恐怖に立ち向かい勇気を持って前に進む事ができる奴だと俺は思う。どんなに強い奴だって一人でなんでも出来るわけじゃない。前に進むために色んな奴に助けを求めて良いんだ。それこそが本当の強さってものだと思う。」


アレグラの胸にチクリとした痛みが走るが、それは脳裏に父の呪いの言葉により掻き消され、背筋が凍るような感覚が蘇る。


わたくしは助けを求めて良いの?

  孤高の吸血鬼は助けなど求めてはいけない


ふるふると首を振り蹲る。


「アレグラ、恐怖に負けるな!!!」


ヒーローとは程遠い異形な姿をした骨の怪人。しかし、その者の言葉でみゆきの最期の言葉が思い出さる。


『アッちゃんを助けてくれるヒーローは絶対にいるからね……ちゃんと助けてもらうんだよ……』


「貴方はわたくしを助けて下さるの?……わたくし、ううん、わたしは色々なものから解放されたい……お願いです……わたしを助けて下さい……」


絞り出すように声を出すアレグラの頭を撫でてつつ優しく話しかける。


「よく頑張ったな。任せろ!」


そして、俺は悪鬼に立ち向かうべく立ち上がる。


「お前は子供に重すぎるもんを背負い過ぎだよ。そういうのは本当は大人の仕事だ。」


俺の心に1つの炎が灯る。

先程までは恐怖を感じていた。

背後から感じる怒りの殺意の波動もこの少女の見せた勇気の前では大した事は無い。


「アレグラが前に進むために、贖罪したい事も後でたっぷり聞かせてくれ。多分、俺にどうこうできる問題じゃないだろうが、負い目を人に話すのはかなり気が楽になると思う。だが、まずは……目の前の事からだな!いいか見てな?お前を取り巻く悪意は俺が壊してやる。」


俺はアレグラから距離を取り、目の前の殺意を放つ化け物に向きあう。


ふっとあの時ーー悪鬼から玉置梢を守ったとき、と同じように俺の魂が叫びをあげる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

☆       ☆

☆ 変 ☆ 身 ☆

☆       ☆

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


眩い閃光がステージの上を照らしあげる。

次回も是非ご一読頂けると幸いです。

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