救援
凪は自分が死を悟った。
そう思った時に、精一杯の声量で叫んでいた。
出来れば薫に聞こえるように、体育館にいる皆に聞こるように、誰かが助けにきてくれるように。
そう祈りながら――
しばらくすると、自分の悲鳴の反響すらなくなる。
物音すら聞こえなくなった。
―――痛みは感じない。
(まだ生きてる? もしかして悲鳴にビビって逃げていった?)
凪は重い瞼をおそろおそる開けた。
その視界には教室で暴れていた狼顔の化け物が腰が抜けてへたり込んでいた凪をじっと見下ろして立っていた。
化物の身体は思ってたよりも小さい。
しかし、その邪悪な笑みは、ぞくりと背筋を凍らせるには十分すぎるほどだった。
「……」
事態が読まずに思わず凍ってしまう。
奇妙な時間が流れる。
凪が動けずにいると、薄ら笑いを辞めて真顔になった化物が、「どうした? 女ァ? 叫ぶのはもう終わりか? んん?」と、オラついた話し方で威圧してきた。
言葉では強いが特に攻撃を仕掛けてくる素振りはない。
化け物の狙いなど知る由もないが、凪は自分が殺されることはなさそうだと、少しだけ安堵していた。
「アッ、アタシを殺さないの……?」
絞り出すようにそう聞いた。
化け物は口角を上げる。
「殺す? まぁ、それでもいいが、まずはテメェにはGUYコツの居場所を聞かなきゃならんだろうが?」
要求の意味はわからない。
だが、命が助かるなら……
「アタシ知らない。その、がいこつ? って人。」
「知らねェって事はねぇだろ? アイツはこの学校で居るんだろう? なンで知らねぇんだ?」
「そんな事言われたって知らないものは知らな――」
バチンッ!
凪の返答を待つことはなく、化物は顔を引っ叩く。
「痛っ!」
頬を叩かれて困惑の表情を浮かべて化物を見る。
「いいかァ? テメェはGUYコツの居場所を吐けば良いンだよ! 知らねぇなら知らねぇで構わねぇが、餌になって貰うぜぇ?」
胸倉をつかまれた。
しかし、知りもしない奴の事を言われてもどうしようもない。
「……」
「おう、黙ってンじゃねーぞ?」
バチンッ!!
再び化物のビンタが凪の頬を叩いた。
返答しても、返答しなくてもこの状況は変わらないのだ。
「本当に知らないんだってば……」
バチンッ!
三度、頬がビリビリとした感覚が頬から伝わってくる。
この理不尽な状況に涙で溢れてきてしまう。
潤んだ瞳は化物の姿をにじませる。
(なんなのコイツ…… もう、どうしたらいいの…… こんな事ならサボらなきゃ良かった。)
凪の頭にはそんな後悔がよぎる。
心の中は絶望に堕ちていた。
トットットッ!
ふと、廊下の方から軽快な足音が聞こえてくる。
(かおるん? まさか戻ってきたの?)
バン!と、勢いよく扉が開くと、「お前!!! その子を離せ!!!!!」と男の声が聞こえた。
怪物はその声の主を見ると、口角を上げる。
そして、吠えた。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
掴んでいた凪を投げ飛ばし、その男の方に飛びかかった。
「GUYコツ!!!!!!!!!!! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!!!」
憎悪に満ちた言葉を吐き捨てて、鋭い爪を振りかざした。
―――
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