鬼ごっこスタート
「かおるん……」
薫が出て行ってしまったことで一人になった……
「教室に居てと言われてもな……逃げるって言っても外の黒い奴もなんか増えてるし……」
校庭をうろつく黒い影はその数をどんどん増やして蠢いている。
自席に戻り、肩を落とす。
「はぁぁぁあああ……」
大きく吐き出した溜息は教室に響く。
いつもは騒がしい教室が嘘のようだ。
色んな事があったため気が付かなったが、辺りも暗い。
まるで夜中の校舎のようだ。
非常に不気味な雰囲気が漂っている。
ぞくり――
凪の背筋に悪寒が走った。変な想像力が恐怖を与えてくる。
凪は部屋が暗いから余計に気が落ち込んでしまうのかもしれない、と思った。
「あっ、電気付けよっかな? そうだよー。そっちの方が気分転換になるって。」
一人呟きながら、席を移動する。
そして電灯のスイッチを押して、部屋に明かりを灯した。
―――
――
―
【体育館】
梢は膝を付けて頭を地面にこすりつけて何度も怪人達に許しを乞うていた。
どれだけ侮辱的な野次が投げられても、その姿勢を崩さない。
それは、ヒーローの敗北を意味していた。
陽平は息を飲んで状況をただ呆然と見ていることしかできなかった。
状況がいまいち理解できない。
いや、起きている事はわかるのだが、理由が分からない。
「なんだよ……玉置の奴……なんで?」
「梢ちゃん……あの人達、酷いよ……」
怪人達の野次は到底少女に向けて投げていい言葉ではない。
ミュエの感想は最もだろう。
あまりの言葉に耳を塞ぐ者も少なくない。
そしてその文句は怪人からだけではなかった。
牢に入れられている生徒達からも突然現れた梢に
「あんたが本当にタマキキャットなら早く戦ってくれよ!」
「何怪人に頭下げてんだ! さっさと戦え!!!」
と、いった文句も飛んでいる。
そう言った梢を攻める言葉から、梢の友達たちの「やめなよ! ちょっと何か事情があるかもじゃん!」と庇うような言葉も聞こえてくる。
牢の中で小さな争いが起き始めていた。
梢の登場は牢に閉じ込められた生徒達の騒ぎを大きくしただけだ。
「ひでー言われようだ。」
「皆もちょっと興奮してるだけだよ。今、陽平君が生徒と争っちゃ駄目だとミュエは思うよ。」
文句を言っている生徒に憤慨する陽平をミュエはたしなめる。
「分かってる。ここで俺が騒いで目立ったら、駄目だよな。反撃の機会が無くなっちまう。それにしても怪人共、何の目的で玉置をこんな場所に連れてきたんだ。」
「ミュエも分からないけど、多分何かあるんだと思う……」
二人は様子を伺いながらヒソヒソと会話していた。
すると、牢を見張っていた怪人が睨みを利かせてくる。
「ギャーギャーと煩い奴らだな。こいつら、ヤッちゃっていいじゃねーの?」
ドン!!!!
壇上に立っていたライオン顔の怪人が壇上から飛び降りた。
その衝撃は騒ぎを止めるには十分な過ぎるものだった。
そのまま、ゆっくり歩きだす。
土下座をする梢を放置して生徒達が閉じ込められている牢に近づいてる。
「君たち、自分の立場という物が分かっていないらしい。あの娘に戦う力も気力もないのですよ? どうです? 自ら、戦いますか? そう望むものは牢から出てきて私達に喧嘩を売ればいい?」
落ちついた口調だが、有無を言わさぬ迫力がある。
完全に下を向ていて黙ってしまう。
「うん。いい子達ですね。それで、ですね。 我々が知りたいのは一つだけなのです。教えてくれれば身の安全――いや、この戦場となるこの学園の外に出してあげてもいいですよ。」
その提案に皆、顔を上げて聞き耳を立てる。
「ふむ。ここにGUYコツが何処に居るのかを知ってる者はいますか? 匿っている者はどなたですか?」
皆、顔を見合わせた。
その存在に心当たりはない。
「GUYコツ? それ、誰?」
「知ってる奴はさっさと言えよ。」
まるで犯人捜しをするように、GUYコツを知ってる人が居ないかの押し問答が始まってしまう。
一度は収まった喧騒が起きると、牢の中は再びパニック状態になる。
「こいつらの目的はGUYコツ? アイツの情報を教えりゃ皆助かるのか……」
陽平はぶつぶつと小さく呟き、何かを決めたように一歩を踏み出した。
そんな陽平の服の裾を掴みミュエが止める。
「ちょっと待って。陽平君、司君の事をあの怪人に教えるの?」
「それが一番良いと思うんだけど。そうすれば皆は無事に戻れるかもしれないし。」
「あの怪人が本当に約束を守るなんて保証はないよね。司君を売るなんて駄目だよ。折角仲良くなったんだもん。」
ミュエの大きな瞳にじっと見つめられてしまい、陽平は何も言い返せなくなってしまう。
ミュエが陽平の説得していると、ライオン顔の怪人の方に動きがあった。
「ライ雷オンの兄さん、怪人にビビりまくってる奴らがGUYコツの事を知ってる訳ねぇって。さっさと自由に探しに行って良いだろう? 俺もオレンシもやる気は満々なんだぜ?」
逃げた生徒を切り裂いた狼顔の怪人が荒々しい口調でライオン顔の怪人――ライ雷オンに話しかけながら姿を見せた。
「レット君、君の憤りも分かりますが……少々、君らはやりすぎる傾向がある。」
「塵も残さねぇと言いたいが、アイツの首はあんたに差し出すぜぇ。そこは安心してくれ。」
「ふむ。そうですよね。」
「知らねぇ奴らから、情報を聞くなんて無意味だぜぇ。校舎ン中むっちゃくちゃにしてやりゃ、あのクソッタレも姿を見せんだろう。」
「分かりました。レット君、君に任せます。新しい幹部としての働き期待してますよ。」
「おうよ! 鬼ごっこの始まりだ。」
そう言うと狼顔怪人――レットはニヤリと嗤い外に飛び出していってしまう。
レットの通った後には垂れた血が点々と道を作っていた。




