進め
「え゛っ? 何アレ? あの人、アレ死んだ? だってあの飛び散ったのって血……!? ちょっとヤバっ……!?」
凪は口を手で覆う。
目の前で起きた事が信じられず、隣に居る薫の方に顔を向ける。
難しい顔をしながら、ぶつぶつと何かをつぶやいる。
普段のクラスで授業を受けてるときは見ない険しい表情だ。
驚きでもない。悲しみでもない。
感情の読めない、いつものと違う薫に恐る恐る肩をふれながら名前を呼びかける。
「ねぇ…… かおるん……?」
その声で凪の方に顔を向けてきた。
青ざめた顔している凪の顔が薫の視界に入り込んだ。
気が動転しているのだろう。呼吸も乱れている。
「ごめっ、呼ばれてたの気が付かなったよ。本当にごめんね! で、なぎなぎは大丈夫?」
先ほどまでの怖い顔が消えて柔和な表情に代わり、手をすり合わせながらそう返事を返してくる。
そんな変わり身の早さに驚きつつも、元の薫に戻った事で安心した。
深く息を吐き出して、自分の気持ちを落ち着ける。
頬を叩き気をとり戻して、声を明るく振る舞う。
「びっくりしたよー。一体、何が起きてるのー? もしかして、何かのイベントがあったのかなー? かおるん聞いてたー?」
「私も知らなかったよ。さっき校庭で黒い影から逃げてた人って体育館の方から出てきていたよね。体育館で何か起きてるのかな?」
「っぽいよね。アタシも向こうから来たと思った。」
薫も事情は全く分からないようだ。
サボったことで難を逃れたのだ。この機を逃す訳にはいかない。
今一番にやるべき事は、学校から離れる事だと凪は思った。
「それじゃさー。かおるん、逃げ――」
凪の言葉を遮るように薫が、「うん、体育館に行く!」っと発した。
「ちょちょちょ! 待って、なんで? なんで? 体育館ってあの黒い化物みたいなのが出てきてるっぽいじゃん! 危ないって!!」
「だって、体育館で何か起きてるし。私は行かないきゃ。皆が心配だもん。」
「危ないなら逃げるが正解っしょ! 一緒に行こうよ!」
「……寧ろ今は外に出る方が危険な気がする。でも確かにナギナギが体育館に行くのは危険だよね。ここで待ってて。」
「かおるん、マジで言ってる?」
「マジもマジ、大マジだよ。」
それだけ言うと、薫は窓から離れて教室の外に向かって歩きだす。
「ちょっと、アタシ一人とか寂しいじゃん……」
薫は振り向き笑顔を作り凪を見ながら、「皆を連れて絶対、戻ってくるから!」っと言って外に飛び出して行ってしまった。
ぽつんと一人だけ教室に取り残された凪は呆然と廊下を走っていく足音が遠くなっていくのをただただじっと聞いていた。
一人になった凪は改めて窓から外の様子を伺うと、校庭に居た黒い影が増えていた。
一つ、二つ……
それらは、まるで獲物を探す獣のように、白い雪原に足跡を残しながら、ゆっくりとその場をぐるぐると蠢いていた。




