新人怪人の集い
都心から少し離れた郊外に巨大な研究所が立っている。現在、俺はその研究所の横に立つ小さな守衛小屋で椅子に縛り付けられて座らされている。目の前にはガタイの良い厳つい面をした守衛が俺を睨みつけている。
2日前に貰ったメールに書かれていた場所はこの研究所を指し示していた。時間に余裕をもってきたはいいが入り口が分からず建物の周囲を携帯電話片手にウロウロしていた。そんな、俺は見る人が見れば不審者だろう。案の定、守衛が飛んできて捕まり今に至る訳だ。
ドンッ!
守衛は机を叩き恫喝するように俺の尋問を始める。
「お前は研究所の周りで何をやっていたんだ?さっさと目的を話せ!」
正直なんて説明していいかものか……こいつに怪人の事を言っていいものか……そんな事を考えて沈黙していると守衛はバンッ!更に強く机を叩く。
「俺だって暇じゃないんだ!いい加減話せ!怪しい奴だってのは分かっているんだぞ!」
怪人の事を説明すると余計立場が悪くなりそうだ……もっと話のわかる奴は居ないものか。
そんな俺の祈りが届いたかのようにガチャリと扉が開く。しかし、期待は一瞬で崩れ落ちる。なぜなら、目の前の守衛と似たような男が入ってきた。その手の先には猫耳フードを被った人物が引っ張られている。
「にゃー!このゴリラー、はにゃせー!」
独特な話し方をするこの猫耳フードはジタバタと暴れていたが、俺の隣の椅子に縛り付けられていく。完全に縛られた後も抵抗しようとガタガタしていたが、疲れたのか大人しくなり始める。そして、同じように捕まっていた俺に気づいたのか、フードで顔は隠れているが視線の様なものを感じた。
守衛達はそんな俺たちを見やっていたが何やらヒソヒソと話をすると、奥の部屋に消えていった。守衛達が消えた後猫耳フードが俺に話しかけてくる。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ。あにゃたも怪人でしょー?」
特に反応もせずにいると猫耳フードは喋り続けた。
「無視しにゃいでよー……」
「すまんな。確かに俺は怪人だけど、その話ぶりだとあんたもか?」
「にゃは、そうにゃ。あたいは化猫怪人キャットシーって言うにゃ。あにゃたは?」
「GUYコツ…俺は屍怪人GUYコツだ。」
「ガイコツ?あっ、この前の試験で一番の話題になってた骨のやつかにゃ?いきなり1000万の懸賞金とかどんな奴にゃのかとか思ったよー。へー、あにゃたがねー。」
「俺は特に何もしてないんだけどな。それよりあんたはあの試験に居なかっただろ。」
「にゃはは、あたいは半年前の試験で合格してたからねー。ヤリあえなくて残念だったねー。そうそうーーー」
猫耳フードこと、キャットシーと取り留めのない雑談をしているとドタドタと部屋に近づく足音が聞こえる。バンッと扉が開き、先程出ていった守衛達が入ってくる。
「先程は大変失礼しました。あなた達は本日の来賓の方々だったのですね。そうならそうと言ってもらえばよろしかったのに。」
「最初から、そう言ってたにゃ!」
「来賓……なぁ、来賓はこれから何処行けば良いのか教えてくれないか?」
守衛達は「はい。」と返事をすると俺とキャットシーの縄を解きながら、研究所の地図を示して「この部屋に行ってください。」と行き先を教えてくれる。隣のキャットシーは縄を解く守衛に時折フシャーと威嚇をしている。
「守衛さん達、助かったよ。キャットシー、さっさっと行くぞ。」
「にゃんで、あにゃたがあたいに命令するわけー。」
ふん。っとそっぽを向くので、「なら、置いてくぞ。」と言って守衛小屋を出ると「置いていくにゃー!」と言いながら俺の後ろをついてくる。
研究所の中は迷路のように広く、同じような部屋が続いていたが、守衛から教えてもらった道を辿り、なんとか教えられた部屋の前に到着した。部屋の前に立つと部屋の中から物々しい雰囲気を感じる。
「やっと到着したかにゃー?GUYコツ、先に入ってよー。」
「お、おい、あんまり押すなよ。分かったから……」
ノックをして恐る恐る扉を開ける。そこには2人の人物が居た。その中の一人は試験を一緒に受けた凹凹マンだ。こちらに気がついたのか顔が少し明るくなったように感じた。
「おう、こんにち…」挨拶をしようとすると、ドンッ!と後ろから押されて前のめりに倒れる。
「ちんたらしにゃい!……にゃんにゃの?この暗いジメジメした雰囲気……やにゃ感じー。」
俺を押しのけ入ってきたキャットシーは部屋の暗い雰囲気にドン引きしている。俺の上に立ち尽くすキャットシーに向かい、「おい…踏んでるぞ。」と言うと「ごめんにゃー」と言いながらどけてくれる。
立ち上がり服を払うと、皆俺を見ている。取り敢えず先ほど言いかけた言葉を再度口に出す。
「あー……こんにちは。」
少しの静寂した後
「にゃー!?それで終わりかにゃ!?もっとにゃにか言うのかと思ったにゃ!」
「し、仕方ないだろ…全部飛んじまったんだよ…」
「ぶっ、あはははは。GUYコツさんらしいですね。お久しぶりです。自分の事覚えてますか?」
「あぁ、勿論。凹凹マン、久しぶりだな。もう一人の合格者ってあんただったんだな。」
「にゃに?にゃに?知り合いかにゃ?」
「自分、拳闘怪人凹凹マンっていいます。」
「あたいは化猫怪人キャットシーっていうにゃ!凹凹マンよろしくにゃ」
「キャットシーさん!?有名人じゃないですか!?うひゃー、こちらこそ是非是非よろしくです!」
「にゃはは、それ程でもにゃいにゃ」
キャットシーと凹凹マンはすぐに打ち解けたようだ。怪人世界の話で何やら盛り上がっている。
俺は手持ちの無沙汰になったのでもう一人の人物に近づき話しかける。
「あんたも怪人なんだろ?俺は屍怪人GUYコツっていう者なんだけど、あんたはなんて怪人なんだ?」
「……烏賊怪人スルメン」
「スルメンか。よろしくな。」
「……よろしく」
「新人歓迎会って何やるんだろうな?」
「……知らない」
「怪人になって長いのか?」
「……3年くらい」
「そういえば新人怪人ってあと1人いるらしいけど、スルメンは会ったか?」
「……会ってない」
会話が続かない……これじゃ俺が尋問してるみたいじゃないか。俺とスルメンは特に会話をするでとなく、キャットシーと凹凹マンの談笑を見ていた。
突如ドアが開き、丈の短いワンピースを着た幼女と厳つい男が部屋に入ってきて、男が話し始める。
「新人怪人の皆様、お疲れ様です。トラブルもあったようですが、規定時間内に来訪いただきありがとうございました。 見知った顔もありますが自己紹介をさせて頂くと、私は怪人協会の副中央執行委員長のライ雷オンと申します。」
試験の時に見たライオンの顔ではなく人の顔立ちをしている。こっそりと凹凹マンに聞いてみる。
「ライ雷オンってカズノコ公園で試験の説明してた奴だよな?なんであいつライオンの顔じゃないんだ?」
「GUYコツさんだって異形化してるんですよね?同じですよ、一度異形化すると戻れないじゃないですか?だから、ライ雷オンさんは人皮で変装してるんですよ。」
「そこ!少しお静かに。」
「えー、この度5人目の新人怪人として参画頂くのがこちらにいらっしゃるアレグラ・バイロン様です。アレグラ様のご実家のバイロン家は日々、怪人協会を厚くご支援頂いており、その縁にてご助力頂けることになりました。皆様、失礼の無いようにお願いいたします。それではアレグラ様一言ご挨拶をお願いいたします。」
そう言うとライ雷オンは隣の幼女に傅き、前にどうぞとジェスチャーをする。アレグラ様と呼ばれた幼女が一歩前に出て言葉を発する。
「わたくしはアレグラ・バイロンと申します。気高き吸血鬼一族、そして吸血鬼の中でも由緒正しき名家バイロン家の者で御座いますわ。わたくしが怪人協会へ参画する時を同じくして協会に入られた皆様は非常に幸運で御座います。わたくしに仕え、ときにわたくしと共に働ける事を光栄に思って下さいませ。これも何かの縁。新人怪人の同胞の皆様、これからよろしくお願い致しますわ。以後お見知り置きを」
小さな体躯、可愛らしさ笑顔、幼子の仕草、外面だけで見ればおませな子供といったところだが、節々から発せられる重圧はとても子供の物とは思えなかった。微かに頬に冷や汗が垂れるのを感じる。
俺だけでなく、他の3名も同様なのだろう……
「アレグラ様、大変失礼ながら私は歓迎会の最終準備に向かいますので、この部屋でお持ちください。新人
怪人同士で親睦を深めて頂ければと存じます。準備が完了次第またお呼びに来ますのでそれまでご歓談下さい。」
「えぇ、わかったわ。ご苦労様、ライ雷オン」
ハハッと述べるとライ雷オンは部屋を出て行った。扉が閉まると、アレグラは部屋の中央にある椅子に深く腰掛け、脚を組みながら俺たちに話しかける。
「同胞諸兄のあなた方のお名前を教えてくださらない?自己紹介でもしていただけるかしら。そうね……まずは若い貴方から」
指名されたのは凹凹マンだった。
「拳闘怪人凹凹マンです。自分は5年程、雑魚戦闘員をやっていました。先月、怪人に昇格出来たばかりです。1週間ほど前に行われたカズノコホテルを襲撃する試験にて合格し怪人協会に入れたといった感じです。気高き吸血鬼の一族のアレグラ様と共に働ける事を至上の喜びと感じる次第です!以上です。」
「ふふっ殊勝な心掛けね。貴方はわたくしの眷属にしてあげても宜しくてよ。次はそうね……そこのフードの貴女。」
キャットシーが指名され自己紹介を始める。
「化猫怪人キャットシーにゃ、期間を忘れるくらいは怪人をやっ……」
「貴女、そのフードは取らないのかしら?」
「にゃ?」
「礼節を知らない方であれば自己紹介は結構よ。わたくしも同胞とは認められないわ。下がりなさい。」
「あっ?」
キャットシーがイライラしているのが伝わってくる。おもむろにフードを取ると、端麗な顔立ちの女性が現れる。隣にいる凹凹マンは見惚れているようだ。
「これで良いわけー?」
「あら?どんなバケモノが登場するのかと期待したのだけれどガッカリね。」
「あにゃたには大人の礼儀ってもんを教えにゃいといけにゃいみたいねー。」
今にも飛びかかりそうだったので凹凹マンと俺でキャットシーを抑え宥める。落ち着いたのか、軽く咳払いをして自己紹介を再開する。
「改めて、化猫怪人キャットシーにゃ。期間を忘れるくらいは怪人をやっているにゃ。半年前のカズノコデスマッチで怪人協会にスカウトされて入ることを決めたきゃ。あにゃたみたいなマセガキが世界で一番嫌いにゃ。次にあたいをイラつかせたら、容赦なくボコすにゃ。覚えておくにゃ。以上にゃ。」
「覚えておくかどうかは貴女の働き次第ね。わたくしは心が広いのよ。次はそこの無愛想な貴方」
「……烏賊怪人スルメンだ」
「……怪人は3年くらいやってる」
「……半年ま」
「はぁ、遅い!全く話の内容も退屈だし、もう少し早く話せないの? もういいですわ、最後の貴方はマトモな自己紹介をして下さるわよね?」
ピキピキとスルメンが怒っているのが隣にいる俺に伝わってくる。俺の自己紹介前をしようとするとスルメンが続けて発言をする。
「……別にどうでも良い事だが俺の位置からだと下着がまる見えだ」
「……偉ぶりたいならもっと大人のパンツを履くべきだ」
それを聞いたアレグラは椅子から立ち上がり丈の短いワンピースを抑える。そして、顔を真っ赤にさせながらワナワナ震えてスルメンを睨みつける。キャットシーは大爆笑しながら凹凹マンの肩を叩いている。
おい、この流れで俺の自己紹介はキツいぞ……
「あー、俺は屍怪人GUYコツ……」
「そんな事より! あ、貴方も……わたくしの……パッ、パ……(少し考え込む)下着を見たのかしら!?」
「見てない、見てない。」横からスルメンがボソッと俺に聞こえるくらいの声で囁く「……兎がプリントされてる白いパンツ」、それにつられて俺は言葉を続ける。
「兎がプリントされた白いパンツなんて俺は見てないぞ。」
少しの静寂の後
ひっく…う…うわぁぁぁぁぁん……
さっきまでの威厳は何処にいったやら、目の前の幼女は年相応に大泣きだてしまう。周りを見渡すと際ほどまで大笑いしていたキャットシーまでこちらを蔑むようにドン引きして見ている。
これで今回の新人怪人が5名全員揃った訳だが、なんとも濃いメンツが集まったものだ……先が少し思いやられる。




