体育館の牢獄
陽平の視線は空から落ちてきた黒い影を追っていた。
それは、そのまま重力に沿って落ちいく。
黒い影の落ちたいく先は、校長の亡骸を何とかしようと何人かの先生達が集まり話あっている檀上だった。
何人かの生徒も黒い影に気が付いたのか檀上にる先生に声をかけだす。
「先生―! 上から何か落ちてきてます!!」
「上!! 上!!!!」
そんな生徒たちの言葉もあってか先生達も壇上から一目散に下がって事無きを得たようだ。
陽平は目を凝らして見るも、黒い物体の正体は遠目ではわからなかった。
しかし、相当な重量があったのだろう。大きな振動と共に、地面を揺らして床にめり込んでしまった。
皆は突然の落ちてきた物に小さな悲鳴が零れてくる。
新しいハプニングの火種にも関わらず、先生は直ぐに正気を取りもどしたようだ。
「皆、落ち着て! 先生の言う事を聞いて行動してください!!!! 今は整列して待っててください!」
直ぐにスピーカーからはそんな言葉が聞こえてきた。
生徒達がパニックにならずに行動出来ているのは、先生方への信頼の現れもあるのだろう。
校長の不審死という事故や謎の飛来物という突然の問題が起きても落ち着いて対処をし始めている。
(落ち着いて行動するってのは大切だよなぁ……ん?)
スリスリ
はぁ~~
はぁ~~
隣から手を摩る音と息遣いが聞こえる。
横を見ると、ミュエが手を摩りながら時折掌に息を当てている。
「どうしたの? ミュエっち?」
「うーん。なんか寒いなぁって……」
言われると確かに肌寒い。
周りを見渡すと、多くの生徒が身体を摩っているようだ。
「陽平君は寒くないの?」
「言われると寒いような。」
「まるで冬だよ。もしかしたら雪でも振ってきちゃったりして。」
ミュエは笑って言うが、現時点でも確かに室温はどんどん下がっているような気がする。
「あはは。まだ雪の季節には遠いぜ。」
早く終わってくれ。との祈りを込めるように再び檀上に目をやる。
壇上の上では一人の先生が空から落ちてきた物体がめり込んだ床を覗き込んでいた。
するとその穴からは一本の太腕が伸びてきて先生の顔を鷲掴みにする。
「なっ!?」
先生は頭を掴んだ腕を引きはがそうと呻きながらもがいているが、力が足りていないのだろう。全くビクともしていない。
次第にめきめきと何かが軋む音が強くなっていく。
それと同時に掴まれた指の隙間から赤い液体が垂れてくる。
何が起きたのかは想像するのは容易だ。
先生がばたばたと動かしていた足から力が抜けてぴくりとも動かなくなってしまった。
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
誰よりも早く耳を劈く悲鳴が響いた。
しかし、それはただの序章に過ぎない。
壇上に出来た穴から這い出てきたのはライオンの顔を持つ怪人。
ゆったりとした様子で姿を見せると片手に持っていた先生の身体を生徒たちが整列する目の前に投げ捨てる。
先生の顔があった場所には赤黒く染まった肉塊と変化していた。
後ろに居る陽平には様子が分からないが、突然現れた怪人と冷静な対応を促していた先生が消えた事で、列の前方では大きな悲鳴と混乱が起きているのだろう。
後ろに逃げようとする生徒たちが、我先にとどんどん後ろに駆け出してくる。
「逃げろ!! 逃げろ!!! 怪人だ!!!」
「ミュエっち!」
逃げようとする勢いよく走りだした生徒たちから守るように陽平はミュエの体を引きよせる。
「なに? 何が起きてるの?」
ミュエも混乱しているようだ。
体育館の入口を開けて外に出ようとする生徒達は愕然とする。
外は猛吹雪が吹き荒れ一面の雪景色になっていたのだ。
一人の生徒は外に飛び出すと、雪の山から狼の顔を持つ怪人が突然現れ、その生徒の体を真っ二つに引き裂いた。
白い雪の上に鮮血が飛び散り、赤く染める。
その場に居た皆は悟る。
逃げ場はないのだと。
恐怖しその場に崩れ落ちる者。
友達の死を悲しむ者。
状況を飲み込めずにその場に棒立ちになる者。
色んな反応をしている先生や生徒たちに向かい壇上に居たライオンの怪人は声を上げる。
「君たちは人質なのですよ。なに、抵抗をしないなら、直ぐには殺しません。落ち着いて我らの言う事に従いなさい。」
突然の事態に騒然としていた会場の空気が一変した。




