サボり
「皆、突然でごめんね。今日、朝はね。全校集会をやることになったの。だから体育館に移動ね。」
薫の教室には、朝礼に顔を出した担任の寺田真理がほわほわとした様子でクラスに伝える。
教室の中では「えー。」とか「先生ー、今日は始業式でもないのになんでー?」といった不満の声が出ていた。
そんな様子にたじたじとしながら、
「私もよく分からないんだけど……」
っと言い淀みながら、「校長先生の提案なのよー。うーん。なんでもー、『最近の怪人事件を鑑みて生徒たちに危機管理を促す』って言ってたわ。」っと答えた。
校長先生。いつも話の長い中肉中背のおじさんが頭が薫の脳裏をよぎる。
「それじゃこれで今日の朝礼は終わり。 それじゃ、委員長の野村君、体育館まで皆の先導よろしくねー。先生は準備しなきゃいけないことがあるから先に行くわ。」
それだけ言うと、真理はクラスを後にした。
先生が居なくなったことで、クラスの中は騒然としだす。
――だりぃ!
――マジかよ。
――朝から校長の話とか拷問かよ……
薫のクラスの一時間目は古典だったのだ。
そのため、クラスの中で不満が爆発しているようだ。
ちなみにクラスメイトは古典が好きというよりも、古典の先生なら寝ていても怒らないので、人気なだけなのだが……
黒淵の丸眼鏡をかけたクラス委員の野村が立ち上がり、「皆、文句ばっかり言ってもしょうがないよ。先生の言ってた通り、体育館に行くので廊下で整列してください。」と先導を始める。
どうやら先生に言われた事を真面目により遂げようとしているようだ。
それにつられるようにクラスの廊下側の席の人から順番に廊下に出来ていく。
「真面目ねぇ」、大きな欠伸を手で隠しながら薫はそんな事を思っていた。
既にみんなが出てしまい残っているのは薫とその隣の席に座る友達だけになった。
薫も流れに従い席を立とうと思った時に隣に座る友達が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、かおるん。校長って話長いしだるくない?」
薫の隣座る草薙凪がそう話かけてくる。
校則違反と言われて仕方ないほど短いスカートに化粧がされた顔。
クラスの中でも特に不真面目な子だ。
「だるいよねぇー。やっぱ、ナギナギもそう思う?」
軽く相槌を打ち友達の意見を肯定しながら、凪と話し始めた。
「思う思う。それにさー。怪人事件が出るとか言っても、ほら、ウチらの学校にはタマキキャットちゃんが居るって話じゃん。隣のクラスのタマキさんだっけー? ならさ、別に私らがどうこうする必要ないと思うんだよねー。かおるんもそう思わん?」
「それな!」
人差し指を向けつつ笑顔で返事をする。
しかし、今は家庭教師の勉強合宿に行っていて、この学校にタマキキャットはいない。
もしも、今この時に怪人の襲撃があったならば大惨事は避けれないだろう。
敢えて、そのことを伝える必要はない。
薫がヒーローであることをクラスメイトには隠しているし、いざとなったらタマキキャットの代わりに自分がもっと頑張れば良いのだから。
「はぁ……こんなことならもっと遅れてくるんだったよー!」
凪が大きく溜息を吐きながらやれやれと首を振る。
「ナギナギの気持ちはわかるけど、しゃーなしでしょ。急に決まったっぽいし。ほら、体育館にいこっ。」
「サボろーよ。」
「えぇ……流石にサボるのはどうかと思うわ。」
「だって、本当ならお休みタイムだった訳じゃん。それが校長の変な提案で変わった訳っしょ? ウチらには眠る権利があると思うのよね。」
無茶苦茶な理論だが、ここまで強く言わるとそうなのかもと思えてしまう。
確かに今日は朝から古典があるからと、昨日は夜遅くまでドラマを見て睡眠時間を削っていた。
あらがいようのないほど強い睡魔が薫を襲っていた。
そんな薫にとっては一理あるというだけで、容易に意見が傾いてしまう。
「……言わるとそうよね。」
「おっ! そうだよ。かおるん。いいねー。」
「よっしゃ、なら……」
薫は隠れる場所を探すため教室をキョロキョロと見渡す。
「かおるん。ロッカーに隠れよー。」
二人は狭いロッカーの中に隠れた後、野村が「残っている人は、早く列に並んでください!! もう皆並んでますよ!」と言いながら廊下から顔を出した。
野村がのぞいたクラスの中には誰も居なかった。
「うん。居ないですね。」
ちらっと見ただけで委員長は廊下に戻り、クラスメイトを引き連れて体育館へと移動し始めた。
その姿を見送って、薫と凪はロッカーから出ると、睡魔に負けるように自席に突っ伏して寝始めた。




