綻び
―――おい。
―――おきろー。
ううん……
あたまいたい……
ゆさゆさと体が揺らさる。
うぅ……
「こんなところで眠ってどうしたんだい?」
男に声をかけられて、重たい瞼を徐々に開けていく。視界に入った見られぬ真っ赤な床に気が付きはっと目を覚ます。
「んんっ? ミュエ……あれ?」
次第に絨毯のチクチクとした感触が頬を刺激する。
ここは? どこ?
そんな疑問が浮かび、ばっと上体を起こして辺りを見渡す。
なんとも豪華な部屋だ。
頭を小さく叩きながら自分の行動を思い出す。
「ゼクス様が電話してて――頭が痛くて――校長室に来て――メールを貰って――」
(そうだ! ミュエはゼクス様に呼ばれて急いで校長室に来たんだよ!?)
更にキョロキョロと見渡すと椅子に座るゼクスが見えた。
主の姿を見て顔から一気に体温が逃げていく。
「あわわ……ミュエ、寝ちゃってた!? ゼクス様から来いって言われて急いできたのに? なんでこんなミスをしちゃうの……」
あろうことか主の前で昼寝をしてしまっていたらしい。
ぽこぽこと頭を叩きながら、反省をしていると、ゼクスが優しい微笑みを浮かべながら近づいてくる。
その様子が無性に怖くなり、ミュエの体がビクリと跳ね上がる。
そんなミュエに手を差し出す。
「良いよ。君を呼んだのは、ちょっとティータイムをしながら近況を聞こうと思ってね。慣れない学校生活で疲れているだろう?」
「――っ! ううん! ミュエ、学校大好きだよ! お友達も一杯できたし、陽平君と薫ちゃんも凄く優しくしてくれるもん!」
「そっか。そっか。うんうん。いいねぇ。それじゃ、積もる話を聞かせてくれるかなぁ?」
「うん!!」
ゼクスに誘導されるままに椅子に座りお茶をすする。
(あれぇ? でもさっきなんか有ったような?)
言い知れぬ漠然とした疑問が浮かんでくる。
しかし、ミュエは気が付かない。既にこの部屋に来て三十分も時が過ぎていた事に――
☆☆☆
「ミュエっち遅いわねー。」
ミュエが出て行ってから一時間が経過していたが、なかなか戻ってこない。
薫が心配の声を上げる。
「まさか、誘拐されたんじゃ……」
「それはないでしょー。」
「ほら、ミュエっちって可愛いじゃん……ファンクラブとかできつつあるみたいな噂も聞くし……」
「陽平……必死過ぎるでしょ。ウケるんだけど。」
やれやれと薫は手を振りながら冷ややかな顔をしている。
「ミュエがでていくときに誰からの電話なのかは聞いとくべきだったな。」
GUYコツの意見は薫の「あんたねぇ~。女の子のプライべートに突っ込むとか嫌われるわよ。やめときなさい。」という言葉にばっさりと切り捨てられてしまう。
「いやな。心配なだけだって。他意はちかってない。……だからあまり睨むなよ。陽平。」
ふぅっと息を吐きながら、「まぁ……心配なのはわかるけど。」
っと、薫がぼそりとつぶやいた時に部屋の扉が開く。
「来るの。遅くなってごめんね!」
部屋に入ってきたのはミュエだった。
「ミュエっち! 何してたんだよ!」
いの一番に声をかけたのは、ずっと心配をしていた陽平だ。
「えーっと……」
ミュエは言い淀む。
それは校長室を出る前に前にゼクスより受けた指示があったからだ。
『今日、私と話していたことは皆には内緒にしていてねぇ。』
言葉に詰まるミュエを見てGUYコツが口を開いた。
「電話の相手は誰だったんだ? もしかしてさっきの奴か?」
GUYコツの質問の意味がミュエには全くわからなかった。
『電話の相手』も意味が分からないし、『さっきの奴』が誰なのかミュエにはさっぱり分からない。
「司君、どういう事?」
それは正直な感想だった。
「ミュエに電話をかけて呼び出した奴がさっき部室に来た奴か?って事だよ。」
全くわからないという表情をしているミュエに薫が「多分、GUYコツが聞きたいのは、ミュエっちはゼクスさんに呼ばれたのか?って事よ。」と、小さな声で助け舟をだす。
ゼクスがこの部室に来ていたなんて初耳だ。
電話も貰った記憶はない。
なのになんでそんな質問が飛んでくるのか? 返答に困ってしまう。
しかも、否定も肯定もできない質問に、吃りながら答える。
「あぅ、えっと、あぅー、クラスの男の子! そう、クラスの男の子から呼ばれたの!」
そんなミュエの返答に反応をしたのは陽平だった。
「クラスの男!!! なんで!!???」
「陽平、必死すぎ。ウケるんだけど」
陽平が煩く騒ぎ、薫が陽平を揶揄うという流れになったことで、その後の細かい追及は無かった。
ほっと胸を撫でおろしながら、陽平と薫のやり取りをニコニコと見つめる。
そんな、ミュエにGUYコツが話かけてきた。
さっきの変な質問の後だ。少しだけ身構えてしまう。
「ミュエ、何かあったなら相談しろよ? 抱え込みは良くないからな。陽平や薫でも良い。悩みは誰かに話すってのが大事なんだ。」
「うん。分かった。」
「もしも、言いにくい事があればこっそり携帯電話でも使えばいいさ。」
「じゃあ、もしも司君にこっそり相談したいときはどうればいいの?」
さっきの意趣返しも兼ねて回答に困るような質問をぶつけてみた。
「そういえばミュエとは連絡先を交換してなかったけか?」
しかし、GUYコツは素直にそう言うと、GUYコツは自分のポケットから、携帯電話を取り出して番号を見せてくる。
ミュエも自分の鞄から携帯電話を取り出した。
ふと、画面に移った発着履歴にゼクスからの物が目に留まった。
その日付は今日で、しかも一時間前に貰っているのだ。
(あれ? この時間ってミュエはどこで何してたっけ?)
怪訝そうな顔をするミュエにGUYコツは「どうした?」と聞くも「ううん。なんでもないよ!」っと返事が返ってきただけであった。




