日常
玉置家の家の前に着き、インターホンを鳴らす。「カテキョーカイの小宮です。」と伝えると前と同様に母親が玄関から顔を出す。
「小宮先生さん、お久しぶりです。お越しいただきありがとうございます。どうぞおあがり下さい。」
そうしてリビングまで通される。リビングに着くと「少々お掛けになってお待ちください。今、梢を呼んできますから。」そう言って母親は階段を上がっていく。
2階で休んでいたのであろう少し乱れた服装の梢がドタドタと音を立ててリビングに来る。
「宮ちゃんせんせー、おひさー!」
梢を見つめ前と特段変わらない様子に安堵していると、「宮ちゃんせんせー、ジロジロ見過ぎ!あんま見られるとちょっと恥ずかしいよ……」と梢から注意されてしまう。あらあらと母親もリビングに来ると、「先生さん、今日もよろしくお願いします。」と頭を下げる。それにつられて梢も「しまーす。」と頭を下げる。
そんなこんなで梢の部屋に行き、仕事開始となった。ファンシーなアイテムが積まれた部屋の中に不相応な骨をデフォルメされたぬいぐるみが置いてある。それを見て、なんとなく俺の方が恥ずかしい気持ちになるが、気をとりなおして勉強を始めることにする。
***
勉強は問題なく進んだ。梢は思っていたより、地頭がいいタイプだなと感じた。恐らく、勘が鋭くて、教えた事の吸収速度と応用する力が高いのかもしれない。うん、うん、頷きながら俺の言う事を聞き、すぐに解答や質問をしてくる梢を見てそんな事を思った。そして梢の前でヒーローや怪人の話をするのは危険かもしれない、そんな事も感じた。
1時間ほど続けて化学の勉強をしたので一服入れる事になった。勉強道具の代わりに梢の母親が準備してくれた飲み物とおやつをテーブルに置き、休憩がてら梢との雑談タイムになる。
「そうそう、今度ね。部活の合宿でイクラシティに行くんだよ。宮ちゃんせんせーにも、おみや買ってきてあげるね。」
「部活で合宿?梢はどんな部活に入ってるんだ?」
「あたしね。ヒーロー研究会って部活に入ってるの!」
「へ、へぇー」
出来るだけ避けようと思っていたヒーロー関係の話題が急に出てきてたじろく。
「宮ちゃんせんせーはヒーロー嫌い?」
少し悲しげな表情でこちらを見てくる。この表情は先のホテルの一件を思い出す。なんとか平静を保って応対しないと…
「いや、俺もヒーローは好きだよ。特にドリームレンジャーってヒーローが好きだよ。」
「ドリームレンジャー?そんなの居たかなぁ……研究会でも名前を聞いた事ないかも……」
数分の沈黙のあと、考え込んだ梢が言葉を続ける。
「あたしも知らないヒーローを知ってるとか、宮ちゃんせんせーってもしかして、ヒーローにめちゃめちゃ詳しい?他には好きなヒーローはいるの?」
早くこの話題を切り上げたい。俺はヒーローに詳しくないし、知ってる名前も多くな……ここで、俺は1つ悪戯を思いついたので、知ってるヒーローの名前を告げる。
「あと、最近は魔法少女タマキキャットが好きかな。」
梢は顔を真っ赤にして返答に詰まってるようだ。「へ、へぇー。ま、まぁ、魔法少女系のヒーローは可愛いもんね。男の人も好きな人多いらしいね。あたしも魔法少女のヒーローは大好き。ハルミエレファントさんが特に好きかな。」
突如、知らないヒーローらしき名前を出されて少し困惑する。この話題は少し危険な感じがしたので話題を変える事にする。
「梢はヒーローが好きなんだな。梢もヒーローになりたいのか?」
少し考え込んでから「宮ちゃんせんせーは進路の相談に乗ってくれるだろうから言うんだけど……」と前置きを言った後に回答を絞り出す「ぅん、あたしはヒーローになりたぃ……で、でもおかーさんには絶対内緒ね!おかーさんはあたしがヒーローになる事に大反対だから!宮ちゃんせんせーもヒーローが好きならやっぱりヒーローになりたいよね?どうかな!?」
これは余計に藪蛇だったか……梢は目を輝かせてこちらを見てくる。あまり下手な返答をするとボロを出しそうだ。
「まぁ、人並みには…かな?ただ、俺はヒーローのなり方がよくわからないし、諦めたよ……」
「あっ、ごめんなさい……ただ、諦めなきゃ誰だってヒーローになれるはずだよ。宮ちゃんせんせーがヒーローなら、あたし多分ファンになっちゃうと思う!」
チラッと骨のぬいぐるみが目に入る。まさか……な。
「ハハハ、ありがとう。梢は優しいな。ただ、俺の事はあんまり気にすんな。それに今の生活は気に入っているんだ。梢の面倒も見てて楽しいしな。」
あははと二人で笑い合いこの話題はなんとか終了した。
「イクラシティでの合宿って何をやるんだ?」
「実は……合宿という名の旅行なの。皆で遊んでー、観光してー、美味しいもの食べてー、温泉入ってーって感じ!」
「いいじゃないか!それは楽しそうな合宿だな。そんじゃ今は身を入れて勉強をやるか。確かテストも近いんだろ?」
うん!っと大きく頷き梢は机に向かう。その後ろで俺はふーっと一息こぼれそうになる。多分、怪しまれずに切り抜けられただろう。
***
見送りされながら玉置家を後にする。雑談でヒーローが好きと言ってから梢はちょくちょくヒーローの話をしたがった。
ただ、ヒーローの情報を全く持っていない俺にはついていけない事も多々あり、怪しまれたりもした気がする。誤魔化すために「俺は今のヒーロー事情にあまり詳しくないから教えてくれな」と言ったら喜んでぶ厚いヒーロー図鑑を持ってきて、これで勉強しておく事という宿題を貰ってしまった。梢に疑われないためにもヒーローの情報は調べとかないとな。
チャーラーチャーラーラー
突如、メールの着信音がなる。携帯電話でメールを見ると、怪人協会から新人歓迎会の案内なるメールが届いている。
○
件名:新人歓迎会のご案内
宛先:
本文:
このメールは関係者にBCCで送信しています。
怪人協会所属 怪人各位
平素、格別なご支援を賜り厚くお礼を申し上げます。
本題ではありますがこの度の厳正な入会試験の結果、5名の新人怪人が我らが怪人協会に所属する事になりました。
その新人達との交流を兼ねて新人歓迎会を開催する運びとなりました。下記のスケジュールと場所で歓迎会を開催します。
◽︎明後日の日付が書かれている
◽︎時間が書かれている
◽︎怪人協会本部(場所の住所と下に地図が記載されている。)
※明後日という急なスケジュールとはなってしまいますが、可能な限りご参加のほど何卒よろしくお願いします。
※欠席のご連絡は怪人協会本部事務局まで明日までに一報頂きますようお願いしたします。
※新人怪人は全員参加です。欠席の場合は怪人協会からの脱退と扱います。
よろしくお願いいたします。
メールを見終わると携帯電話をしまう。やれやれ、なんだかデジャブを感じつつ帰宅するのであった。




