来訪者
そこに居たのは、優一の後を引き継ぎ、今、ヒーロー研究部の顧問をやってくれている寺田真理先生だ。
彼女は優一とは異なりヒーローとは無縁の存在。
ただの管理者として形式上の顧問になっているにすぎず、あまり部室に顔を見せることもない。
でも、今はその顔色が少しだけ暗いように見える。
「あれ? 先生どうしたの?」
「あのねー。ヒーローの研究部を見せて欲しいってお願いがあったのよー。」
おっとりした喋りで薫に説明をする。
恐らくこのお願いというのは、ヒーロー協会から形を変えてやってきた指令なのだろう。
「そうなんだ。それっていつ頃なの?」
「えっとーね……」
言い淀む先生の後ろから細見の男が姿を見せた。
「今すぐなんだよねぇ~。」
「今すぐ!?」
薫は思わず息を飲む。現れたその男はゼクス。
「ごめんね~。事前に言うべきだったんだけど、先生、気付かなくて……」
「全く、マリィちゃん。管理はちゃんとやってねぇ。それじゃありがとねぇ。後は大丈夫。大丈夫。」
ゼクスは怒った様子はなく、軽口で先生に注意をするも、立場が上の人に指摘されたためか、先生の顔は少しだけ青ざめているようだ。
何度もペコペコと頭を下げながら、職員室へと戻っていった。
「「ゼクスさん……」」
「ゼクス様……」
来訪者がゼクスだと知ると、ミュエは陽平の裾を掴みながら後ろに小さく隠れる。
陽平は伝わる震えを解すように、ミュエに告げる。
「ミュエっち? ゼクスさんは良い人だぜ。」
突然、現れたゼクスは相変わらず飄々としている。
「あの。今日はどんな用ですか? 今ちょっと立て込んでまして……」
「まぁまぁ、SUMOライダー君。ちょっと失礼するねぇ。あれ? 今日はタマキキャット君は居ないのかなぁ?」
部屋にいる人物を目を通して聞いてきた。
「こずこずなら、今は勉強合宿に行ってるそうです。」
「そうなんだねぇ。それは残念。また会いたかったのにねぇ。まぁ良いか。それじゃ失礼するよぉ。」
そう言いながら、ゼクスは無理やり部室の中に入りこむと部屋を見渡す。
「ん? 等身大の人骨模型? 何ともヒーローらしくないものが置いてあるねぇ。」
「あっ、それは……」
言い淀む薫をフォローするように陽平が口をはさむ。
「俺が買ったんです。やっぱ、ヒーローやってると怪我とか多いし、応急処置でも治せるようになればって。だから、人体の勉強でもしようかなぁって……」
「ビートブルー君も頑張るねぇ。殊勝な心掛けだよぉ。」
「どうしたんですか? 怪人がらみのトラブルでもありましたか?」
「何個か用事があるんだけどねぇ。」
「一個目は、君たちへのプレゼントをしたいなぁって。ほら、君たち大変な時期に一杯頑張ってくれたでしょう?
アクセル君もビット君もエレキ君も居なくなったのに、前回の怪人騒動の時も一杯働いてもらっちゃったじゃない?
私からも何かお礼をと思ってねぇ。何か欲しい物はないかなぁ? なんでもいいよ。」
「急にそんな事を言われても……」
薫が言い淀む。
「そっか。じゃ考えといて。決めたら、マリィちゃんに伝えてねぇ。」
「なんでもって、なんでもいいんですか? 例えば、百兆円とかでも。」っと陽平。
「うん。なんでも良いよ。」
うんうんと頷きながら即答してゼクスは言う。
「二つ目は私の送ったメイドは役に立っているかい?」
「役にというと?」
「評価はどうって質問の方がいいかなぁ?」
「ミュエっちは良い子ですよ。」
「そうだぜ! 勇二や菊水が来なくなっても寂しくなかったもんな。ミュエっちのおかげで学校も華やかになったぜ。」
「そっか。それは良かった。役に立っているようで何より。メイドの方はどうかな?」
ビクっと体を震わして、「薫ちゃんと陽平君には一杯お世話になってます。」っとだけ返答をする。
ゼクスの細い目からは何を考えているのかはわからないが、ミュエの回答には何も答えず話しを進める。
「三つ目は本題。」
「君たちは既に知っていると思うけど、怪人のヒーローを知ってるかな?」
「……っ!!!」
いきなりの質問に薫と陽平は息を飲みこむ。
「……あの、シラセから玉置を助けてくれた奴ですよね?」
「そうそう。私はアレがどこに居るのかの情報が欲しいんだよねぇ。」
「あのぅ、一応聞きたいのですが、なんでそんな質問をされるんですか?」
「アレはこの町に潜んでいるんではないかって予測されたんだよねぇ。なら、この町でヒーロー活動をやっている君たちなら詳しく知っているかなぁって思ってさぁ。」
ゼクスの話ぶりを見るに薫や陽平がGUYコツを匿っているから聞いてきている訳ではないらしい。
ならば、今出す回答は一つ。
「……いえ、知りません。私達も――というよりも、こずこずが探しているのですが、手がかりはないです。」
……沈黙が流れる。
もしもゼクスが薫たちがGUYコツを庇っていると知ってるなら、どうなるかはわからない。
しかし、その返答は、安心できるものだった。
「そっかぁ。怪人のヒーローを見つけたらすぐに報告してねぇ。要件は三つだけだったんだよねぇ。それじゃ、私はそろそろ行くねぇ。」




