奇妙な自己紹介
目の前の現れた少女と少年は拳を前に出してファイティングポーズを取る。
敵意はむき出しだ。
「まぁ!? この子ったら戦う気満々ですわ。」
口を抑えながらアレグラは惚ける。
「どうします?」
「……なぁ、あんたら、ここで戦う気か?」
そういう黒ずくめの男。
そう、ここは人の多いデパートのフードコート。
少年の悪戯や、少女の叫び声で、何やら、争いが起きたのかと、注目があつまり、野次馬達が現れ始めていた。
彼らの多くは先の戦いで怪人に居場所を奪われた人だ。
少しの荒事にも敏感になっているのだろう。
薫が辺りを見渡した後、自分たちの置かれている状況を改めて認識する。
目の前の奴らが怪人であると知っている薫からすれば、ヒーローとして怪人を倒すのは当然の義務ではあるものの。
今、目の前にいる奴らは怪人には見えない。
どう見ても人だ。
だからこそ人のいざこざに見えてしまい、狂乱に発生することなく関心が集まってしまったのだろう。
今、人の視線が自分たちに集中している。
ここで変身をすることは自分がヒーローであると明かすようなものであるのだ。
薫は不満気な顔をして、拳を下ろした。
「おい! 花村! どうして?」
「周り見なさいよ。」
陽平が回りを見ると、人の視線が自分たちに集まっていることに気が付く。
「めっちゃ見られてるな……」
視線に気づいた陽平も拳を下ろして小さくなった。
「……で、俺らになんの用だ? 戦う気が無いなら、さっさとどっかに行ってくれ。俺らだって暇じゃないでな。」
「原ってば、小さい子に酷いわ。暇だから、ふーどこーとに来たんじゃない。」
「お嬢の方が小さいですけどね。はっはっは。」
「わたくしはこの中では精神的には一番の大人ですもの。問題なしですわ。」
お嬢と呼ばれた少女と大量のハンバーガーを貪っていた大男がのほほんと笑い合う。
薫はそんな二人に毒気を抜かされてしまった。
少女の目の前の空いていた椅子に腰を掛けて、優しく話しかける。
「あら。目の前にヒーローがいるってのに、大分余裕なのね。」
「おい!? 花村! アブねーぞ!?」
「大丈夫よ。こいつらには戦う気はなさそうだし。陽平もミュエっちも、いつまでも突っ立てないで座っちゃいなよ。いつまでも立っていると人目が気になるわ。」
薫に言われて、陽平とミュエも近くの席から椅子を持ってきてテーブルを囲った。
すると、トラブルが去った事に安心したのか、周囲で見ていた野次馬達も注視をやめて、各々が自分達の会話に戻る。
人目もなくなり、安心をしたところで、薫は視線を怪人達に移す。
すると話かけてきたのは小さい少女だった。
「うふふ。ヒーローって良いですわよね。わたくし大好きですわ。」
まさか怪人に好きと言われるとは思っていなった薫は、驚きと照れの混じった顔でアレグラを見る。
そして、出来てきたのは正直な感想だった。
「怪人の癖に、変な子。」
「一番、変なのは俺っち達のリーダーですけどね。怪人なのにヒーローに変身しますしね。」
怪人のヒーロー。薫は心当たりがあったので、大男に質問をする。
「それって、あの骨の奴?」
「そうです。そうです。」
「……おい。鉄男。喋りが過ぎるぞ。こいつらはヒーローなんだ。一応敵って事は忘れるな。」
『一応。』
明らかに、格下に見ている言葉に若干の苛立ちを感じながら、薫は今の状況を冷静に分析をし始めていた。
(この黒ずくめの奴にはどうも警戒されてるっぽいわね。でも、うまく誘導できれば、大男と女の子からは骨の怪人の情報が聞けるんじゃないかしら?)
「ねぇ。こうして話すのも何かの縁よ。自己紹介でもしましょうよ。私は花村薫よ。白いライダースーツの『SUMOライダー』ってヒーローをやってるわ。」
「おい、花村!? 正気か? 何、正体、明かしんだ!?」
「……おいおい、何を馬鹿げた事を言ってるんだ。」
陽平と黒ずくめの男が薫を行動に疑問を投げかけてくる。
しかし、一番に応じたのは、小さな女の子だった。
「あら! それは面白そうね、薫。それなら、わたくしから自己紹介しましょうか?」
手を叩きながら少女がにっこりと笑っている。
そして直ぐに下の名前で呼ぶ慣れ慣れしさに驚きつつも、
(食いついた!)
っと、相手にわからないように少しだけ口角を上げて、「ありがとう。」と淡白な返事を返す。
「わたくしはアレグラ・バイロンよ。吸血鬼の真祖にして最後の生き残り。ラスト・ヴァンパイアなんですわ。そして、怪人名は『吸血怪人バンパイアー』よ。次は、原、貴方よ。」
「……おいおいアレグラ嬢よ。本気か?」
「わたくしはいつでも本気ですわ。仲良くなるには、こちらの情報開示は大事だわ。」
「……向こうが本当の事を言ってるとは限らんだろうに。」
「疑りは駄目ですわよ。この子もヒーローなんだから、そんなことしないわよ。」
そう断言して、アレグラは黒ずくめの男を諭すように話す。
この子のヒーロー観は一体どこから来てるのだろうか?
そんな疑問が湧いたと同時に梢が居たら盛り上がっていたに違いないと思うと小さく苦笑してしまう。
「……俺は、原だ。怪人名は『烏賊怪人スルメン』。あと、アレグラ嬢の思い付きで、ヒーロッ――痛っ!!?」
「何よ! 急に!?」
「……いやなんでもない。猫に蹴られただけだ。」
「猫?」
「……俺は以上、そっちの少年も正体を明かしてしてくれるんだろう?」
「俺も?」
「陽平、お願い。」
陽平は薫の目から何かを訴えるようなものを感じ取った。
それを察して、陽平も自己紹介を始める。
「分かった。俺は立松陽平だ。ヒーローは『音響戦隊ビートレンジャーのブルー』をやっている。戦隊って名乗ってるけど、今は俺だけしかいないけどな。次はミュエっちにパスするぜ!」
「う、うん。分かったよ。陽平君。えっと、ミュエって言うの。ミュエはヒーローじゃないよ。今はお手伝いをやってるよ!」
ミュエが挨拶を終えると反応したのは大男だった。
「あんた、有翼人ですか?」
「!?」
大男の言葉でミュエは言葉が出ないほど驚いた顔を見せる。
「有翼人?」
陽平は首を傾げながら質問をする。
「その蒼い瞳に、大きな羽。有翼人の特徴じゃないっすか? ふぅーん。ヒーローも……」
「次だよ! ミュエの自己紹介は終わりなの! そこの大きな人がまだ自己紹介してないよ!」
「そうでしたね。俺っちは盾鉄男。怪人名は『鉄壁怪人テッペキン』です。」
「テッペキン……? あっ、お前、イクラシティで俺が戦った奴だったのか!!!!!」
陽平が鉄男を指さして、顔を膨らませて怒りを露わにする。
「もしかして、あんたがあの時の赤い糞野郎です?」
「……アイツはアクセルと名乗ってたぞ。」
「えーっと、すみません。君は俺っちと戦いましたっけ?」
「……最初にバラバラに分かれた時に戦ったんじゃないか? 俺の相手はこの女だったし。」
(指さすなし!!!)
そんな心の声が漏れてしまいそうだ。
「あぁ、俺っち雑魚には興味ないんで記憶から消えてますわ。」
笑うテッペキンに陽平は顔を赤くして殴りかかりそうだ。
「この野郎!!!」
「どうどう。気持ちはわかるわ。陽平、怪人に礼儀やモラルなんて期待するのが間違いよ。」
薫は陽平の肩を叩きながら宥める。
「ごめんなさいですわ。鉄男はちょっと礼儀知らずの困ったちゃんだから許してあげてくださると嬉しいわ。」
「お嬢、それは酷いですよ……」
「……まぁ、今のはお前が悪い。で、これで自己紹介も終わりだな。じゃ、解散って事で良いだろう?」
原が会話を打ち切ろうと手を払う動作をする。
「待って! あんた達のリーダー、骨の怪人は一緒じゃないの?」
「……アイツは、今は俺らの基地で拘束中だ。あの馬鹿は前の戦いでボロボロになった上、怪人とバレたしな。外に出して騒ぎは起こしたくねーんだわ。」
「で、それがどうかしたんです?」
「あの、あんたたちは怪人だけど……ほら、前の戦いで私の大事な友達を、シラセの奴から守ってくれたじゃない? でもお礼を言う前に、怪人に攫われちゃったから私達も心配してたのよよ。」
「あら? あの司を連れて行った怪人もわたくしたちの仲間ですのよ。ご安心なさいですわ。」
「そうなのね! 安心したわ! あのね、私はあの骨の怪人に直接俺が言いたいって考えてるのよ。駄目かな?」
「なら、わたくし達と一緒に基地まで来ればいいんじゃないかしら?」
「お嬢、それは駄目じゃないですかね?」
「大丈夫よ。きっと司はヒーロー達が来たら喜ぶわ。」




