怪人達の災難
薫が立ち上がり、怪人達に話かけに行く少し前の事。
アレグラ、テッペキン、スルメンの三人は買い出しのために、学校のアジトから近くにあるデパートに来ていた。
アレグラに付き合った長かった買い物も終わり、今は三人でフードコートで休憩をすることにしたのだった。
「……鉄男。それは、食いすぎだろ。」
百個のハンバーガーを持ってきた着席したテッペキンにスルメンは呆れたようにつぶやく。
「いやいや、こういうファーストフードは人の作った最高の食事ですからね! こういう時に一杯食べておかないともったいないですよ。」
「限度という物があるでしょうに。全く、鉄男は食いしん坊さんね。」
「限度というなら、お嬢の買い物の量もどうかと思いますけどね!」
テッペキンはアレグラの後ろにある紙袋の山を見る。
今日の買い出しで買ったアレグラの服や靴、それに部屋に飾るための小物の山だ。
「だって、可愛いものが多いんですもの。見てたら欲しくなってしまったんですわ。古今東西、女の子は可愛いものが好きなんですのよ。それに、あの部屋は殺風景ですし、何かが無いと寂しいもの。ねぇ? 原もそう思わないかしら?」
「……まぁ、そうかもな。」
「ほらぁ、原もこう言ってるわ!」
「原はお嬢に甘いですからね。」
「……甘いことはないと思うが……そうだな。そうかもしれないな。」
「わたくしは優しい原が良いと思いますわ! 鉄男はもっと女心を知るべきですわね。」
「ははっ、お嬢が女心を語るなんて、まだまだお子ちゃまじゃないですか。」
「あら? あらら? その物言い、美衣子と仲直りはまだまだ先のようですわね。」
アレグラは引いた顔をしてテッペキンを煽り返す。
「……まぁまぁ、二人とも落ち着けって。あんまり目立つ行為はするなよ。厄介事に巻き込まれるだろう。」
「「はぁい……」」
アレグラとテッペキンは小さい声で返事をする。
「とは言っても、後は帰るだけですし――」
テッペキンが言いかけた時にひとりの少年が席の近くにやってきて声を上げる。
「大量のバーガーだ!!! すっごーい。おじさんそんなに食べられるのー?」
突然話かけられた事で、テッペキンは驚いてしまう。
その横では、スルメンが帽子を深く被り直して、溜息を吐きだす。
「……はぁ……」
「ははは。このくらいの量を食べるなんて余裕だよ。無限の胃袋を持っているからね。」
そう言ってテッペキンはハンバーガーを口に頬張り始める。
「おじさん、すっごーい!!!」
少年は、笑顔になり手を叩く。
「あのっ、ごめんなさい!」
そんな少年の後ろから若い女性が謝りながら駆けてきた。
「いえいえ、気にしないでください。」
テッペキンが紳士な態度で応じる。
「この子ったら、もう! 本当にごめんなさい…… ほら行くわよ!!!」
女性が少年の手を引っ張り無理やり引きずりだす。
「やだやだ!!!」
少年が暴れた拍子に、座っていたスルメンの被っていた帽子に手が辺り帽子を吹き飛ばしてしまう。
「あぁ! すみません!!!」
「あっ、ごめん……」
スルメンは帽子を拾いながら、少年の頭に手を乗せる。
「……坊主、気を付けな。」
少年とその母親は謝罪をしながら去っていった。
「まさか、子供に絡まれるとは……」
「なんか、わたくし嫌な予感がしますわ。」
「……全くだな。俺はこういう厄介事に巻き込まれるのが嫌だったんだよ。早く帰ろうぜ。」
「うぃ。すんません。じゃ、これは持ち帰って食うことにします。姉御と兄貴と博士へのお土産にしようと思います。」
アジトへ戻るためにテッペキンは残ったハンバーガーを袋に詰めだす。
「ちょっと! あんた!」
制服姿の少女が怒り顔で話かけてきた。
アレグラとテッペキンは急に話かけられて驚いてしまう。
「誰です……?」
「えっーと? どなたでしょうか?」
話かけてきた少女、薫を見ながら聞き返す。
少女はまっすぐにスルメンを見ているようだ。
その視線に誘わるように、アレグラとテッペキンはスルメンを見る。
「……どちらさんか知らないが、急にあんた呼びは失礼じゃないか?」
否、このスルメンのセリフは嘘である。
スルメンはこの目の前の少女が、イクラシティで対峙したヒーローの卵である事を覚えていた。
「へぇ、しらばっくれるつもり?」
「……おいおい。しらばっくれるもなにも知らないものは知らない。それ以上の回答は出来ないだろう。俺達はもう帰るつもりなんだ。邪魔しないでくれないかな?」
「ふぅん。ずいぶん、饒舌になるじゃん。怪人さん?」
薫の発言でアレグラとテッペキンはこの目の前の少女が発する言葉、こちらの正体に気付いたうえで話かけていることを確信する。
アレグラとテッペキンはスルメンに耳打ちで問いただす。
「ちょっと、原、どういうことですの? この子一体誰です?」
「なんかこの子、俺っちらの正体を正体に気付いているっぽくないです?」
「……イクラシティで戦ったヒーローの子供だ。さっき帽子が落ちた時に顔を見て俺の正体に気付いたのかもしれない。」
薫に聞こえないように小さな声でスルメンは返事を返した。
「いやいや、怪人の顔が見られても人皮を被ってりゃばれないでしょ?」
「……あんときの俺はまだ人だったからな……人皮を着ても面影が残っていたんだろう。」
「どうしますの? 厄介事が起きちゃいましたわ…… 嫌な予感はしたんですの。」
「……策はある。任せてくれ。」
軽い話を閉めて、スルメンは薫に返事をする。
「……いいがかりやめてくれ。それとも何か? 君は俺が怪人である証拠を何か出せるのか?」
「白々しいっ」
薫は口を噛みしめて悔しそうな表情を浮かべている。
そう自分の記憶では確実に目の前の男は怪人だ。
しかし、証拠はない。自分の記憶だけだ。
「おーいっ! 花村!! どうしたんだよ? 急によ。」
少女の後ろから少年と少女が駆け寄ってきた。
「陽平! こいつらは怪人よ。」
「花村? マジで?」
「……君、この子の友達かい? 全く突然、言いがかりをつけられて困っているんだ。証拠もないのに、俺が怪人だと全く迷惑な事だよ。」
しかし、陽平の目はそんな薫の言葉を完全に肯定している事が分かる。
「マジもマジ。しかもイクラシティで暴れた奴らだよ!」
その言葉で陽平の目の色が変わる。
「そういや、あの時、何匹か仲間もいたよな? こいつらが全員そうか?」
陽平の目線がアレグラとテッペキンに向く。
「あら? わたくしたちにも凄い殺意を向けてくるのね。」
「この女の子があの時のヒーローって事は、もしかしてこの後ろから来た男の子と女の子もあの時のヒーローって事じゃないのか?」
「あわわ……どうするの? どうするの? ミュエに何かできることない?」
ヒーローと怪人の間にバチバチと火花が散る。
スルメンは観念したように手を上げた。
「……ふぅ……やれやれだ。分が悪い訳か。でもな。俺も叫んでもいんだぞ? お前らがヒーローだってな。」
「私らも騒ぎを大きくしたい訳じゃないわ。このデパートは今はこの街唯一の買い物できる場所だもの。それよりも――」
薫は息を吸い込む。
そして敵を見据えて小さなでも覚悟のこもった言葉をスルメンに向けて発した。
「聞かせなさい! ここで何をしているのか!! あんたたちの目的をね!」
「……こりゃ厄介なこって。」




