玉置宅にて
薫、陽平、ミュエの三人は、梢の母に誘わるがままに家に上がり、ダイニングテーブルで梢の母から話を聞いていた。
「薫ちゃん、陽平君、折角来てくれたのにごめんさいね。梢も折角お勉強をやる気になってくれててね。私も急な事でびっくりしちゃったけど、梢がやる気なら応援しようって思ったから合宿に行く事を許しちゃったのよね。」
梢の母親は三人分のお茶を出しながら謝る。
「そっちの子ははじめましてよね?」
梢の母はミュエを見てほほ笑む。
「ミュエだよ。最近こっちに引っ越しきたの。梢ちゃんとは同じ部活が一緒なんだよ。」
「そうなのね。名前からすると外人さんかしら? 梢をよろしくね。ミュエちゃん。」
「うん!」
ミュエが元気よく挨拶をする。
うんうんと頷きながら、改めて薫に話かける。
「それで、梢の事で連絡が伝わってなくてごめんなさいね。」
「いえいえ~、でも私らも凄く心配してたんですよ。最近、勇二や歴の件もあって、梢ちゃんも部活を辞めちゃうんじゃないのかなぁって思って。」
薫は軽い調子で返事を返す。
それを見ていた陽平がミュエに囁く。
「花村の奴、さっきまで怒ってたのに、スゲー切り替えだな……」
「陽平君、女の子はそういうものだよ。」
ミュエはすまし顔で陽平に伝える。
「うへー……まじか……こわっ……」
「陽平も心配してたよね?」
薫の表情は笑顔を作ってはいるが、目は全く笑っていないのが陽平には分かった。
(地獄耳だ……こわっ!)
薫の様子を察して苦笑いをしながら、陽平は激しく頷きながら「……そうそう。」っと相槌を打つ。
「あはは。心配しなくても梢は部活を辞めないわ。寧ろ私が辞めなさいって言っても聞かない子だから。
ただ、今回の件は三日前、新しい家庭教師の先生さんが来た時にいきなり決まった事でね。薫ちゃん達に連絡も取る暇もなかったんだと思うわ。許してあげてね。私から学校には連絡してたんだけどね。」
「玉置とは違うクラスだから、俺達は知らなかったのかもな。」
「でも、そんなにいきなり合宿なんてするもんなんですかね?」
「色々あったからねぇ。それに、前任の先生がいきなり辞めちゃったから、空いちゃった期間分の補償も兼ねてって事らしいわ。」
(前任の先生。その人がこずこずの探す骨のヒーローの事なのかな?
でも、梢のお母さんの話ぶりから、三日前に来た人は別人っぽいよね。)
薫が考えていると、陽平が横から耳打ちしてくる。
「これってさ。玉置の奴は前任の骨のヒーローを探すためにその合宿とやらに参加したっぽいな。」
「そうよね。」
薫と陽平が小さく話す。
ふと、思い立ったように薫は質問をする。
「そういえば、その前任の人が辞めた理由とかお母さんは知ってるんですか?」
「私も知らないのよね……ほら、プライバシーとかもあるじゃない?」
「そうなんですね。」
「でも、あなた達も前任の先生の小宮先生の事に興味あるのね。」
「興味って言うか、いつも梢ちゃんが話してくれるので、どういう人なのかなぁって思ったんですよね。」
「そうだったのね。そうよね。梢もかなり懐いていたようだし、あの先生さんに教えて貰ってた期間は短いけど、梢の成績も上がっていたし、私としても続けてお願いしたかったところなんだけどね。ごめんなさい。私は何も知らないのよ。」
「そうなんですね。」
(まぁ、こずこずのお母さんが情報持ってれば、こずこずも知っているし当然だよね。)
薫がそう思ったときに、よこからミュエが梢の母に質問をする。
「でも、梢ちゃんのお母さん、あなた達ってどう言う事ですか?」」
「新しくきた先生さんも小宮先生から何か連絡が来てないかを聞いてきたのよね。私は『聞いていません。』って答えたけど、聞かれたのが意外で印象に残ってるわ。」
(どういう事? なんで、こずこずのお母さんにそんな事聞いたの? それに、それって家庭教師側でも居場所を知らないって事? つまり、こずこずは骨のヒーローを探して合宿に行ったわけじゃないって事なのかしら?
よくわからないわね……)
薫が陽平の方を見ると難しい顔をしている。
同じように梢の目的が分からないと思っているのかもしれない。
何はともあれ、梢が勉強合宿とやらに行ったという事を知れて薫は安心していた。
「そうなんですね。確かになんか変ですね。なんで生徒の人に自分のところの従業員がどこに行ったかをわざわざ聞いたんでしょうね?」
「私にはよくわからないけど、色々あるのかしらね。
小宮先生さん、あっ前任の方なんだけどね。彼は失踪みたいな感じで消えちゃったのかもしれないわ。
前に梢がイクラシティの方に部活の方で合宿に行ったときがあったでしょ?
あそこから戻ってきてから、梢が『小宮先生さんは消えた』とか言ってたのよね。
でも、前の怪人の事件の時に、梢のピンチを助けてくれたのが小宮先生さんだとも言ってたのよね。
あの子は何を見てるのか私にはよくわからないわ……」
「お母さんは、あの時の中継の映像を見てないんですか?」
「途中までしか見てないのよね……いろんなところでニュースになってるけど、私には刺激が強すぎて見れないわ。画面の向こうで泣いてる梢を見るのはもう嫌だもの……」
「そうですよね。でも、あの時は梢ちゃんが無事でよかったです。」
「でも、梢ちゃんはこのままヒーロー研究部を辞めちゃうのかな?」
「あはは。ミュエちゃん、それは無いと思うわ。母親が言うのも何だけど、あの子のヒーロー好きは止めろと言われてやめるものじゃないもの。私が何度も言っても、あんな事件にも巻き込まれたのに、まだヒーローは辞めないって強情だったし。」
膨れる母親の様子が梢にそっくりだ。
そして、その様子から梢が母親はかなりの大喧嘩したのだろうと薫は思った。
「そうだ。最近の梢の様子はどう?」
いきなりの切り出しに薫は飲んでいたお茶を零す。
「どうと言いますと?」
梢の母親は大きく息を吐き出して、
「ほら、あの子はヒーローをやってるじゃない? それで何か面倒なことに巻き込まれていないかなぁとか心配になっちゃうのよ。もしかして薫ちゃん達は梢がヒーローをやってたって知ってたのかしら?」
「いえ私達は前の怪人の襲撃事件の中継で初めて梢ちゃんがこの街のヒーロー、魔法少女タマキキャットと知って驚きました。でも、最近は一緒に居たのでヒーローみたいな危険な事はやってないと思いますよ。」
息を吐くように嘘を吐く。
ヒーローを隠すという事はこういうことだ。
少しだけ痛む胸を押さえて薫は笑顔で答える。
「そうなのね。梢とずっと一緒に居てくれてありがとう。安心したわ。もしもあの子が無理をするようなら引っ叩いてでも止めて頂戴ね?」
「私達そろそろお暇しますね。梢ちゃんもどこ行ったかのか分かったので安心しました。梢ちゃんが帰ってきたら連絡を貰えると嬉しいです。連絡もないなんて心配しちゃうじゃないですか。」
「分かったわ。多分二、三日後には帰ってくると思うから、梢には連絡入れるように言っとくわ。」
梢の母親から話を聞いた三人は改めてお別れを告げて、一度部室に戻ることにした。




