邂逅
「なぁ、今日も玉置来ねーの? 勇二の引っ越しの噂ってどこから聞いたのか聞きたいんだけどよ。」
机に腕を持たれかけながら、陽平は薫に話しかける。
場所はいつものヒーロー研究会の部室。
だが、所属するメンバーの半数が来ないという事もあり、手狭な部屋が今は広く感じる。
「いやー。実は私もわからないんだよね。全く連絡無いのよ。こずこずにメールしても一切返事もこなしさ。」
三日前、新しい家庭教師が来るからと言ってヒーロー研究会に顔を出さずに帰宅してから梢は部室に顔を出してこない。
「そんなにカテキョーが大事かねぇ。」
陽平はぼやく。
当然、薫にも同じ思いはある。
二人が悶々とした思いが積もらせているとミュエが横から声を上げた。
「梢ちゃんって勉強熱心なんだね。ミュエはお勉強嫌いだからすごいなぁ。」
「いや、俺の知ってる限り玉置は勉強嫌いなはずだぜ。あいつの読む本はいつもヒーローのものばっかりだったしな。」
「そうそう。こずこずは勉強よりも骨の怪人の行方を追うのに一生懸命なんでしょ。全く、少しくらい私らを頼れって話なのにね。ほんと、歴も勇二もこずこずも、一人で抱え込みすぎ。」
「まぁまぁ、ヒーローあるあるだな。花村の気持ちもわかるが、文句言ってても解決しないからな。」
「わかってるけどさ。少しくらい愚痴らせてよ。こずこずはあれだけ勇二や歴から連絡ない事をキレといて、自分も私らに同じことするとかある?」
「不機嫌を俺にぶつけてくるなよ。」
陽平も薫の気持ちを理解しつつも、不満のはけ口にされるのはたまったものではない。
少しだけ、機嫌の悪いようなつっけんどんな対応をしてしまう。
「ごめん。」
流石に陽平の声色から薫は謝罪をする。
部室の空気はいつにもなく重い。
その空気を打ち破るかのように、
「まさか、梢ちゃんは事件に巻き込まれて誘拐されちゃったとか? あはは。」
と、ミュエが冗談混じりにつぶやいた。
空気が一瞬変わった。
「あ、あれ? 何この空気? 冗談だよ! じょうだん! 重い空気を変えようとしただけだよ!」
しかし、ミュエの発した事は薫と陽平にとっては考えていなかった選択肢だ。
「あはは。ミュエっち、流石にそれはないって。玉置はヒーローだぜ? 事件には巻き込まれるまんじゃなくて、自分から飛び込むもんだぜ。」
「だ、だよねー。もうっ、陽平君も薫ちゃんもいきなり黙りこむんだもん。驚いちゃうよ。」
笑うミュエと陽平の横で、
「でも、私、その可能性は考えてなかったわ。」
薫は目を丸くしながら答える。
「誘拐……そうね。こずこずがタマキキャットと分かった上で、犯行に及んだなら、相手は相当の手練れになるわね。」
「花村、玉置みたいなちんちくが誘拐されるとかマジであると思ってるの?」
「陽平君、それは、すっごい失礼だと思うな。」
ミュエに注意されて、陽平は「すまん。つい、いつものノリで……言葉の綾ってやつだよ。」と気まずそうにフォローする。
そんなたじろぐ陽平を余所に薫が話を続けた。
「こずこずも可愛い女の子だからね。あの子って無防備だし……それに連絡もない状況を考えると可能性はゼロじゃないと思うわ。」
「じゃあさ。今日は梢ちゃんのお家に行こうよ!」
「そうよね。うん。それが良いかも。」
「でもよ。花村は玉置の家への行き方知ってるか? 俺は知らないんだよなぁ。」
「実は私も覚えてないわ。こずこずの住んでるところって入り組んだ住宅街だったから、案内が無いと無理だわ。」
「だよな。せめて住所の場所さえわかればな。」
薫と陽兵はため息を吐く。
「しらみ潰しかぁ……」
そんな中を、
「住所が分かればいいの?」
ミュエが首を傾げながら聞いてくる。
「まあ、住所が分かれば、地図でわかるし。って、ミュエっち何か知ってるの?」
「二人ともちょっと待ってて。聞いてくる。」
「ちょっ、誰に?」
薫の質問にも答えずにミュエは部屋の外に出て行ってしまった。
「おいおい。まさか先生に聞いてくるとかじゃないよな? ミュエっち時々常識ないからな。」
「まさか。流石に教えてくんないでしょ。」
二人が心配していると、ミュエが携帯電話を片手に戻ってきた。
「ミュエっち、何やってたの?」
「ちょっとね。ゼクス様に聞いてきたの! メールで梢ちゃんの住所教えてくれたよ!」
画面を二人に見せる。
そこには住所が記載されていた。
「マジ?」
陽平が驚きながらも住所を地図で調べてみると、確かに住宅街の一点を指し示しているようだ。
「それじゃ、まずはここに行ってみるか?」
「当てなく進むよりもそれの方が良いわよね。」
「よーし! しゅっぱーつ!!!」
三人は地図を頼りに目的の場所に辿り着く。
そこにある家には、玉置という札が掛けられていた。
つまり、ミュエのもってきた情報は正しい訳で……
「マジで玉置の家だな。」
陽平がつぶやき、薫も不安な表情を浮かべながらぼやく。
「えっ、ヒーローってプライバシーないわけ? それこそ勇二の件、ミュエっちに聞いた方がいいんじゃない?」
「それな。」
「勇二君の事?」
「ほら、引っ越しするとかなんとかって噂の件。」
三人が玉置の家の前でわちゃわちゃと話をしていると後ろから女性に声をかけられる。
「あら? もしかして、あなた、薫ちゃんじゃないかしら?」
薫が後ろを振りくと、そこには梢の母親が立っていた。
薫は礼儀正しく挨拶を返す。
「あっ、梢ちゃんのお母さん、こんにちは。」
「お友達と一緒なのね。こんなところで何しているのかしら? もしかして、梢に会いに来たのかしら?」
「そうなんですよ。私、梢ちゃんと連絡付かなくて……」
「あら~。そうなのね。 ごめんなさいね。 梢は今、カテキョーカイの勉強合宿に行っちゃったのよ。」
「学校を休んでですか?」
「そうなのよ。 あっ、積もる話もあるならお家に上がっていきなさいよ。粗茶とお菓子で良ければ出せるから。」
薫と陽平とミュエは梢の母に案内されるままに、梢の家に上がることになった。




