新しい家庭教師
梢と薫が話をしていると、合同体育の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
バスケットの試合も終わりコートからそうそうに退出していってしまう。
「あぁ、チャイム鳴っちゃった。よーへいとは話せなかったぁ……」
「まぁまぁ、私の方で勇二の事は聞いておくわ。」
「うん。かおるん、よろしくね。」
二人で話していると、後ろから薫を呼ぶ声がする。
薫のクラスメイトだろうか。
声をかけた人を見た後に、薫も親しげに手を振り返した。
薫は服を叩きながら立ち上がり、梢に告げる。
「それじゃ。骨の人の行方で何か分かれば相談してね。私も協力できることがあれば協力するから。」
「うん! また、明日ね!」
薫が自分のクラスに戻っていった後、見送っていた梢の元に真理絵や加奈子がやってきて共に、教室に戻っていった。
その後、梢は今日来る家庭教師の人を思い描き、ぼんやりと授業を聞いていたのだった。
☆☆☆
学校も終わり、急いで帰宅する。
既に日も落ち初め、辺り一帯が夕焼けの色に染まっていた。
慣れた通学路を一目散に駆けていき、自宅に到着する。
「たっだいまー!」
元気よく挨拶をしながら玄関を開けて家に入る。
玄関にある見慣れない革靴と居間の方からほんのりと紅茶の良い匂いが漂ってくるのを感じる。
耳を澄ますと、母の笑い声が聞こえてくる。
母が誰かと話をしているようだ。
急いで、靴を脱ぎ棄てて居間に向かう。
そこにはあの人がいるかもしれない。
期待を胸に抱き、梢は顔を出した。
「ただいま!」
「梢、おかえりなさい。そうそう昨日言ってた新しい家庭教師の先生さんがお見えなのよ。挨拶しなさい。」
「うん。」
手で誘導さえた先に見えたのは、思っていた人ではなかった。
母の前には体格の良い男性が座っている。
「初めまして。玉置梢君ですね? 私は|戸神十王〈とがみじゅうおう〉。先任に代わりカテキョーカイから派遣された者です。本日より先任に代わり君の家庭教師をやらせてもらう者です。」
粗暴な見た目と刃裏腹に丁寧は言葉遣いに少しだけ困惑しつつも、先生の変更があった事実が告げられて梢はショックを隠し切れなかった。
それが顔にも出てしまっていたのだろう。
「こら! 梢! 初対面の先生になんて顔するの! 折角ご挨拶にきてくれたのに!」
母の叱責を受けて、我に返えると十王にぺこりと頭を下げる。
「戸神先生さん、ごめんなさい。この子は勉強が嫌いな子でして……」
「いえいえ、気にしてないですよ。梢君には何やら他にも思うところがあるようですしね。もしかしたら、急に先生が交換になってしまった事を気にされているのかもしれません。十分に連絡ができていなかったのは、我々、カテキョーカイの不徳の致すところです。小宮も大変反省をしておりますので……」
「もしかして、戸神先生は、宮ちゃんせんせ、あぅ――小宮先生に連絡が取れるんですか!?」
「まぁ……ね。同じ企業に勤めていますからね。」
「あの! あのっ!」
梢が言いかけた時に戸神は手の平を広げて話を遮り、梢に耳打ちをする。
「小宮の事を聞きたいなら授業の中で込み入った話になりますので、授業の中でというのはどうですか?」
宮ちゃんせんせーの話を聞ける。
それは梢は色々聞きたい話なのだ。
戸神は手を叩きさも今思いついたかのような提案を母に対して話しだす。
「そうだ。梢君が良ければ今日から授業再開でも良いですかな? 遅れている分を取り戻す必要もありますしね。」
「うん! あたしは今日からでも大丈夫だよ!」
それを梢もすかさずフォローする。
「あら~ご挨拶だけって話でしたけど、戸神先生さんが良ければ、是非ともお願いします。梢も珍しくやる気になっているみたいですし……」
「そうですか。それは良かった。では勉強場所は?」
「あたしの部屋に案内します。 こっちです。二階にあるんです。」
梢は階段の方に進み始めて、手招きをして戸神を案内する。
☆☆☆
梢の部屋に入ると、先に口を開いたのは戸神だった。
「ヒーローのグッズが一杯ですね。梢君はヒーローが好きなんですね。」
突然、ヒーローの話をされて、梢は小宮が最初に来た時の事を思い出し戸惑っていた。
その後も戸神は授業を開始する様子もなく部屋の中を様子を見ているようだ。
そして、フィギュアが並べている棚をじっと見つめている。
「あの、戸神先生? そんなにヒーローの棚を見てどうしたんですか? もしかして! 戸神先生もヒーローが好きなんですか?」
「いや、私はヒーローが苦手ですよ。」
「そうですか……」
梢が小さく悲し気な表情を浮かべていると、戸神は続ける。
「でも、興味深いものがありました。あのヒーローの棚にある骸骨のフィギュア。あれは、小宮……いや、GUYコツのつもりですかね?」
「戸神先生、貴方は一体? 宮ちゃんせんせーはどうしたんですか?」
不敵に笑いながら戸神は告げる。
「そうそう先ほどは二つほど嘘をつきました。すみません。まず、私も今は小宮をGUYコツを探している身です。奴の居場所は私も知りません。二つ目は初めましてではなかったですね。お久しぶりですね。タマキキャットさん。」
ヒーロー名を言われて体が震える。
初めてあった人にヒーロー名が言われたのは初めてだった。
もちろん、シラセとの戦いを見ていた可能性はある。
しかし、見ず知らずの人が断言できるほどのものではないはずだ。
戸神を覆う人の皮が破れだして、中からライオンの顔を持つ大きな怪人が姿を現す。
「貴方は!?」
以前、小宮と相対した後に、街の裏路地で出会った事を思い出した。
戦いこそはしなかったものの、常軌を逸した強大なオーラを纏った怪人だったため印象に残っていたのだ。
「改めて自己紹介を。私は百獣怪人ライ雷オン。今は怪人の組織を束ねる怪人の王です。」
目の前の怪人から放たれるオーラにはシラセのものとは異なり嫌な感覚はない。
しかし、絶対的な力が込められている。
間違いなくシラセレベルの強敵だ。
ライ雷オンは口を開く。
「タマキキャット。貴女には恨みもないですが……」
ライ雷オンは敵意を込めた視線を梢に向ける。
迫りくるプレッシャーを跳ねのけるため、梢を息を吸い込み口を開く。
「『変身』!!!」
…
……
………
しかし、何も起きない。
タマキキャットへの変身が出来ない。
もう一度深呼吸を入れてから、念じるように「『変身』……!!!」と発声するも、やはり変身は出来ない。
梢は力が抜けてしまいその場に崩れ落ちてしまった。
「な、なんで、変身できないの……」
「そうですか。賢い子ですね。下手な抵抗をしないでくれるなら助かります。大人しく私の言う事を聞いてもらうとしましょう。なぁに、君はGUYコツをおびき寄せる餌ですので乱暴はしませんよ。」




