転校 別れ
梢は授業を一日中上の空で聞いていた。
昨日の母の新しい家庭教師が来るという言葉を思い出して、胸の高鳴りが止まらないからだ。
午前中はずっと続き、気付けばお昼休みを知らせる鐘の音が聞こえて来る。
「玉置ちゃん、一緒にお昼ご飯食べよ?」
梢の前にはクラスメイトの少女二人がお弁当を持って立っていた。
クラスの中で梢と仲の良い子達だ。
噂好きの真理絵と、おとなしい加奈子。
「うん。良いよ〜。」
梢の笑顔で返事もしながらお弁当を取り出して机の上に出す。
この二人は梢の正体がタマキキャットである事を知っても、変わらず仲良くしてくれている。
そして、ヒーローについての質問攻めも二人からはなかった。
守秘義務の多いヒーロー活動は散策されるのが非常に辛く、何も聞かれないのは梢にとってもありがたい事なのだ。
だから、二人には感謝しかない。
お弁当を広げながら、真理絵が噂話しだす。
「隣のクラスでね。今日、転校生が来たんだって!」
「真理絵ちゃんは情報通だなぁ。」
「伊達に記者目指してないわ。」
真理絵は得意げな顔をしながら答える。
真理絵と加奈子の盛り上がりを見ていた梢は首を傾げながら聞いてみる。
「そうなんだ。転校生ってどんな子なの?」
「金髪美女だって噂だよ。なんでも羽の生えたメイド服を着てるんだって! キャラ付やばいでしょ!」
金髪、羽の生えたメイド。
梢には一人の人物が思い当たる。昨日ヒーロー研究会に来たミュエだ。
そんな事を考えていると、加奈子が呟く。
「今の時期に転校生とか珍しい。」
「だよねー。」
梢も頷いて同意をしていると、真理絵が口を挟んでくる。
「でも、転校といえば隣のクラスの榊君もでしょ? あんまり珍しく無いんじゃない?」
「えっ! 私、聞いてない!」
真理絵の言葉で梢は思わず驚いて席を揺らす。
想像以上の反応に真理絵もつられて驚いてしまう。
「玉置ちゃん、知らなかったの? あっ、そっか。ずっと皆に捕まってたもんね。榊君はなんでもあの超高級住宅街キャビアストリートに引っ越しするらしいよ!」
「そういえば榊君って梢ちゃんと同じ部活入ってもんね。そっか。聞いてなかったんだ。やっぱり榊先生を亡くしたのが大きいのかなぁ。学校もあんまり来なくなってたらしいし……」
二人で勇二の話では盛り上がってる時に加奈子が梢の顔を見るとかなり不満げな顔をしていた。
その顔を見て、この話題は変えた方が良いと思った加奈子は違う話題に変えるために、午後の体育の授業の話をしだす。
「そだ。午後はクラス合同の体育があるよね! 私、体育苦手だから、ちょっと億劫だよ。」
「そうだよね。私は逆に色々の噂仕入れるチャンスだから楽しみだけどね。そうだ玉置ちゃんはクラス合同のところで他のクラスの人から、榊君について、もっと具体的な話も聞けるんじゃないかな? 私は噂の金髪美少女の転校生に取材しよー。学校新聞に載せてやるんだ。」
「うん。聞いてみる。」
梢は小さく答える。
真理絵に上手くまとめられてしまったが、なんとか穏便にするでよかったと加奈子が安心した。
「あとね。玉置ちゃん! もう一つ噂があるんだよー。聞きたい?」
「なになにー?」
そう梢が真理絵から噂を聞こうとしたところで、体育の授業のためにクラスのみんなが移動し始めるのを見て、加奈子が声をあげる。
「皆、移動始めてるね。私たちも行こうよ。」
真理絵の話そうとしていた噂も気になる所だが、今は陽平や薫に勇二の話を聞くのが先だと思い、梢も加奈子に同意する。
☆☆☆
午後も多くのクラスが合同に集まり体育の授業が行われていた。
今は体育館で陽平がバスケットの大会が参加しいたのでそれを観客席の所からぼんやりと眺めていた。
そんな時後ろから声がかけられる。
「やっ、こずこず!」
「あっ、かおるん。探してたの!」
「私たちは休憩だよ。こういう体育の授業も偶には良いよね。楽できるし。」
「そうだね。」
「どうしたの? そんなにぼんやりしちゃって。さては、部室にある溜まってる書類を考えてるな~。それとも、ミュエっちの部屋に行くのが楽しみだった?」
心配そうに見てくる薫に梢は話を切り出した。
「ねぇ、かおるんはゆーじが引っ越すって知ってる?」
「そうなの? 私は知らない。クラスも違うし。」
「なんかね。引っ越すらしいよってお昼に友達に言われたの。」
「まぁ、あいつの最近の出席状況じゃしょうがないのかなって気はするけどね。歴なら何か知ってるかもだけど、歴も学校来ないし、連絡取れないしなぁ」
「はぁ……あたしがヒーローバレしちゃった所為なのかなぁ。」
「それはないでしょ。それなら私や陽平はなんなんだって話だし。」
「ありがとね。かおるん。よーへいなら知ってるのかな?」
「うーん。昨日の調子じゃ知らないんじゃないかなとは思うけど……」
「まっ、聞いてみるのは良いんじゃ良いかな?」
「うん!」
「あとそうだ。ごめん! 今日はあたし部室に寄らず帰るね。」
「何かあったの?」
「うん! 今日は新しい家庭教師の人が来るんだよ!」
「こずこずってそこまで勉強好きじゃないのに、家庭教師が来るの嬉しいわけ?」
「あのリボーンさん……あっ、あの骨の怪人さんなんだけど、あの人、あたしの家庭教師やってくれていた人だったの! だから何か情報聞けるかもしれないから、会いたいんだ! それに、もしかしたら、本人が来るかもしれないでしょ!?」
「そうなんだ。分かったわ。」
「かおるん、昨日の今日でごめんね。」
「私は別に良いって。でも溜まった仕事は片付けないとなぁ。陽平にぶん投げよう。あいつミュエっちが来てからやる気にあふれてるし。」
二人の視線の先では、男子達がバスケットの競技の中で、ちょうど話題に出ていた陽平がスリーポイントシュートを決めるところだった。
両チームの間の点差も開いており、陽平のチームが大差をつけてリードしているようだ。
「あいつ、あんなに体育頑張る奴じゃないでしょうに。」
陽平の手を振る先にはミュエが立っている。
いつものメイド服だ。小さく手を振る姿は愛らしい。
それ受けて陽平の顔は少しだけ赤くなったように見える。
「陽平のやつ、絶対、ミュエっちに気のあるやつね。からかってやろう。」
キョトンとする顔をする梢に薫は
「まぁ、お子ちゃまのこずこずにもそのうち分かるよ。きっと。」
と、小さくこぼした。




