日常からの急点直下
毎週日曜にアップロードします。
荒れ果てた大地の上で佇む男が一人。
俯きながら声を絞り、目の前のことが信じられないと言うように、呟き続けていた。
「どうしてこうなった?」
「何が起こった?」
「何故、失敗した?」
男はヒーローになりたかった。
世界を取り戻す為に仲間を連れて、巨悪を討ち滅ぼした。
その後、起きた事はまるで悪夢だ。
仲間もーー
悪もーー
正義もーー
守りたかったもの全ては跡形もなく消え去った。
世界を取り戻す為の行動が、世界を滅茶苦茶にした。
目の前の何もない光景がそれだけを男に伝えている。
後悔の念に潰されそうになりながら男は一人死に絶えた街を歩き出した。
***
運命の悪戯はいつも唐突に起こる。
男の名前は小宮 司。
この物語の主人公である。
別にやりたい事もないまま、歳だけ重ねて、今は死にたくないから生きている。我ながら自分の人生は波風も立たないものだ。嘲笑混じりの独り言が溢れる。
対して大きくも小さくも無い普通の会社に入り、そこで事務仕事に従事している。
世間一般ではホワイト企業と言えるのかもしれないが、やりがいなんてものはない。
殆どの作業がルーティーンだ。
その日も、司はいつものように退屈な日常を過ごしていた。
朝五時に起きて、同じように疲れた顔をした人が積み込まれた電車に揺らされながら、二時間ほどかけて通勤をする。
会社では眠たい目を擦りながら八時間ほどパソコンの前に座り、与えられた事務作業をこなして、また二時間かけて家に帰る。
家に帰ってから、近くのコンビニに行き適当に晩ご飯を買ってきて、それを食ってから、風呂に入って寝る。
今日もそんな何の変哲も無い日……のはずだった。
そう、コンビニに行く途中の横断歩道で赤信号なのに信号無視しながら、猛スピードで突っ込んでくる車にぶつからなければ……だ。
一瞬の衝撃だった。
身体は大きく吹っ飛び、地面に叩きつけられる所までは永遠のように感じられた。
突如、子供の頃の自分がフラッシュバックする。
日曜日の朝早くに起きて当時放送していた戦隊ヒーロー番組をテレビの前にかじりついて目を輝かせて見ている自分が見える。
あれだ。戦隊ヒーロー ドリームレンジャー――人の夢の中に入り込んで悪夢を見せる悪の組織ナイトメアーから人を守る為に戦う正義のヒーロー。
なんか最後あたりスケールが大きくなって子供の頃は全く理解できなかったな……
なんだっけ?10億の夢の統合世界を支配するだっけ?
一緒にドリームレンジャーごっこをしていた中澤雅雄君や鳥海翼君は今何してるかな……
俺が転校して遠く離れてから疎遠になっちまったんだよなぁ。
思えば、あいつらが俺の最初で最期の友達だったっけ。
これが走馬灯ってやつか。しかし思い出すのが小学生の時の記憶って……
転校してから、俺の馴れ馴れしい性格が災いしてか、周りから避けられるようになってしまったからな……
……
グシャ……
そんなことを思っていたら地面叩きつけられる。鈍い痛みとともに俺の意識は現実に引き戻された。
「アァァァアアアアア!!!!」
ここは、人通りの少ない道。交通の便も悪い。
俺の叫び声は空に消える。
「し、死にたくねぇ……だ、誰か、たす助けて……」
血で、気道がふさがり、声にならない声で助けを求めるが、周りには誰もいない。
車の運転手らしき細身でガリガリの白い白衣を着た老人が俺のそばに寄ってきた所で、痛みとともに俺の視界は黒くなっていった。
――
俺はヒーローになりたかった。
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