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朱莉ちゃんのストーカー

こんにちは、姫木心優です。


誰かに見られている。

背後に誰かいるって思って振り返るって事は、誰にもある事ですよね?


大抵、気のせい?で、終わらせてしまいますよね。


本当に気のせいだったんでしょうか?


もしかしたら、それは死者からのメッセージかも知れませんよ。




* * * * * * * * * * * * *



「ーーでは、今日の授業はこれまで」


「起立・気をつけ・例」


日直の当番の合図で一斉に教室から飛び出す児童たち。


「おーい、廊下は走るんじゃないぞ!」


担任の先生の声を無視して無邪気に笑いながら下校へと向かう。


「ねえ、今日一緒に帰ろう」


「うん、いいよ朱莉(あかり)ちゃん」


友達に声をかけた朱莉と呼ばれた女の子は安堵(あんど)の表情を浮かべた。


朱莉には、最近気になる出来事が頻繁に起きていて一人で帰るには不安でいっぱいだった。


「おう、悪いな朱莉さん。ちょっと帰り職員室に寄ってくれないか?」


「えっ!!・・・あっ、でも」


下を向きもじもじしている朱莉。


「ちゃんと職員室に寄ってから帰ってくれ」


担任の先生は、そう言い残し教室を後にした。その姿を見て朱莉のは、ため息混じりに、


「ごめんね、せっかく一緒に帰ってくれるって言ってくれたのに。先生に呼ばれちゃった」


「うんん、大丈夫だよ。じゃあ、先に帰るね、バイバイ」


「・・・バイバイ」


朱莉は、寂しそうな表情を浮かべ友達が去って行く後ろ姿を見つめていたーー。




「失礼します」


小さな声を出し、そっと職員室に入る朱莉。そんな朱莉の姿を見つけ担任の先生が、


「おう、朱莉さんわざわざ放課後に来てもらって悪いな」


担任の先生は、悪ぶれる素ぶりもなく淡々と話しはじめた。


「この前配った、家庭訪問の日時の連絡だが朱莉さんの家が一番最後を希望していたよな?」


「はい。パパの・・・父の仕事の関係でーー」


朱莉は、申し訳なさそうに俯く。


「多分、五時頃になると思うのだけど大丈夫か聞いてほしい。もっと、遅くしてほしいならなるべく希望は叶えるつもりだ」


「はい、ありがとうございます。父に伝えておきます」


「・・・その、何だ。大変だと思うけど頑張れよ」


「ーーはい」


担任の先生は、気を遣ってくれたのだろうが、その言葉が朱莉の胸に突き刺さった。



七月のこの時期はまだ夕暮れでも、陽が長く明るい。


朱莉は、周りをキョロキョロしながら恐る恐る自宅に向かい歩いてる。


彼女には、気がかりでならない出来事が最近起こりはじめたーー。



★ ★ ★



「娘が何者かに着き惑わされている」


「ストーカーとか?警察に相談なされましたか?」


「はい。しかし、ストーカーらしい人物も何も確認出来ませんでした」


「ーーなら、安心じゃないですか」


依頼人の父親は、首を左右に振り、


「娘が、警察が警護している間も付き纏っていたそうで・・・」


「警察にその話はしたのですか?」


「は、はい。ーーですが、相手にしてもらえず今度は、探偵事務所に捜査依頼をお願いしました」


「探偵事務所ね・・・」


「あっ、何かすいません」


「いえいえ、お気になさらず。ーーっで、結果はどうだったのですか?」


「は、はあ・・・やはり何も確認出来ませんでした。それでも毎日のように付き纏っていたり窓の外から誰が覗いていると娘が言うので、私自身も何だか恐ろしくなってしまい。最後の望みを込めてこの探偵事務所に来たのです」


「ーーなるほど、調べてみましょう!


「宜しくお願いします」


父親は、立ち上がりカケルに頭を下げた。それと同時に、部屋の扉が開いた。


「パパぁぁ」


小学低学年生位の女の子が父親に駆け寄った。父親は、中腰になり女の子の頭を撫でた。


「心優ちゃん、ご苦労様何か分かったかい?」


「うん。いろいろお話ししてくれたわ」




「女の子の名前は、野原 朱莉(のはらあかり)ちゃん。市内の小学校に通う一年生。現在、父親と二人暮しです。昨年、【母親を病気で亡くしています】」


「・・・なるほど」


「ストーカー被害が始まったのは、ここ一ヶ月位だそうです」


「女の子自身、何か変わった事をしたり、どこか変わった場所に行ったりしていないのか?」


「はい。特に何もしていないそうです」


「んんん・・・そお遠くもないから現場を一応確認しておくか」


「はい!!」



「この辺りも女の子の通学路に当たるんだよな?」


「えーっと・・・そうですね。いつもこの道を通っているみたいです」


カケルは、辺りを見回しながら何か考え事をしながら歩いている。


しばらく二人は、無言のまま商店街を歩いて行くと、


「あっ、見えました!あの白い壁の家が朱莉ちゃんの家です」


心優の指差す方向に白い壁の洋風な造りの家が見えた。その家は、商店街を抜け、大通りを渡り少し開けた所の住宅地の一角にあった。


大通りを渡り住宅地に入った所でカケルの足が止まった。


「・・・カケル君、どーしたんですか?もうすぐ朱莉ちゃんの家ですよ」


カケルは、【何かを悟った】表情を一瞬浮かべたが再び、真顔になると、


「心優ちゃん、この案件は心優ちゃんに預けるよ」


「ええっ!わ、私ですか?!」


「ほら、僕って小さな女の子とか苦手じゃん。明日から朱莉ちゃんのボディーガードとして学校の登下校を一瞬にしてあげてよ」


「わ、分かりました!朱莉ちゃんをストーカーから守ってみせます」


心優は、カケルに向かって敬礼のポーズを取ると、カケルも敬礼のポーズをし、


「宜しく頼むよ!父親には、僕からボディーガードの件連絡しておくよ」


カケルの口元が緩み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


★ ★ ★


「お、お、おは、おはようございます!か、かん、神崎心霊探偵事務所から来ました、姫木心優と申します。宜しくお願います」


心優は、深々とお辞儀した。若干人見知りの面があるので、緊張していて今にも口から胃が出てきそうだった。


「お姉ちゃんおはよう!」


元気よく朱莉が玄関のドアから飛び出して来ると、そのまま心優に抱きついた。


「おはようございます、朱莉ちゃん」


朱莉の笑顔に、心優の不安と緊張は消し飛んだ。


「おはようございます。わざわざすいません」


腰の低い父親がペコペコと何度も頭を下げながら心優の前に現れた。


「いいえ、大丈夫です。神崎より朱莉ちゃんを守るように命じられていますので。それにーー、こんな可愛い女の子を恐怖に陥れている奴を許せないですから!!」


「お姉ちゃん、早く早く」


心優の腕を引っ張り、急かす朱莉。


「はい、はい行きましょうね。じゃあ、学校へ送って行きますので」


苦笑いを浮かべながら父親に手を振る心優。


「すいません、宜しくお願います。朱莉ちゃんとお姉ちゃんの言う事を聞くんだよ」


「分かったあ!行ってきまーすパパ」


元気良く手を振り小走りで家を飛び出す朱莉、それをあたふたと追いかける心優。


そんな二人を遠い目をしながら見つめる父親だったーー。


★ ★ ★


本当は、直ぐに朱莉ちゃんを付けていたストーカーの正体が何者か分かっていた。


心優も何となく【そうじゃないか】と勘付いていると思う。


しかし、ただ単に脅かす為や怖がらせる為に、朱莉ちゃんを付き纏っている訳じゃないと思う。


時に、【何かの警告】を促す為や【伝えたいこと】がある為、そしてーー、


「朱莉ちゃんを狙っている【何者】から護るため・・・か」


心優と朱莉ちゃんが仲良く手を繋いで、大通りのある横断歩道を渡っているのを物陰から見つめるカケル。帽子を深く被り、マスクをし顔を隠している。


「今のところ異常なし・・・」


朱莉の家から学校までは、子供が歩いて十五分程で辿り着く距離にある。商店街を抜け少し登り坂を上った先に学校はある。


心優と朱莉は、楽しそうに歌を口ずさみながら商店街を順調に歩いて行く。


二人の後をコソコソと見つからないように付いて行くカケル。他の人から見たら、ストーカーは自分じゃないかと思ってしまう。


「・・・心優のヤツ、ちゃんと周りに気を張ってろよなあ!」


舌打ちをしながら心優と朱莉の後を付けるカケル。このまま何事もなく学校に辿り着くかと思っていた。


しかしーー、


商店街を抜け学校への登り坂に差し掛かった辺りで異変を察知するカケル。


「ーー何か変だ」


商店街までは他の小学生たちがたくさんいて同じ方向へ歩いていたのにこの登り坂になった瞬間に心優と朱莉以外の小学生・・・いや、人が一人も居なくなっていた。


カケルは、キョロキョロと周りを見渡す。


「空間の捻じれーー誘い込まれた、ヤバい!!」


慌ててマスクを外し投げ捨て、心優と朱莉の元に走る。



心優と朱莉は、何も気付かずにゆっくりと登り坂を仲良く手を繋ぎ歩いていると、目の前に黒い筒のようなシルエットが立っていた。


「お、お姉ちゃん・・・」


その異様な光景と雰囲気に心優に抱き着き朱莉は震え出す。突然、気温が下がったのか寒気すら感じる。まだ、朝日が昇ったばかりだというのに夕暮れのように薄暗く感じる。


「朱莉ちゃん、お姉ちゃんから絶対離れないで」


それは音もなく筒のようなシルエットは、不気味に瞬きをする度に近づいてくる。


「ーーこれ以上、この子に近づいてみなさい!!この私が許さないわよ!!」


心優は、一枚のお札を筒のようなシルエットに向ける。その札には、複雑な紋様が描かれている。


悪霊や妖怪ならこの札の紋様を見れば大抵は逃げ出すのだ。何故なら、この紋様は払い屋の証であり、霊力が練り込まれているのでこの札で触られた悪霊、妖怪は消滅してしまうのだ。


筒のようなシルエットは、近づきながら型を変えていくーーぐにゃぐにゃとそれは色んな型になりやがて、黒いローブを身に纏った悪魔に姿を変えた。


「な、何でーーし、【死神】」


余りの衝撃に腰を抜かす心優。


「そ、そんな何で?朱莉ちゃんを付き纏っていたのは・・・」


「お、おねえちゃーん」


今にも泣き出しそうな声で心優に抱きつく心優。


黒いローブを身に纏った死神は、大鎌を背中から取り出し構える。


「ーーーー」


黒いローブを身に纏った死神は、心優や朱莉には聞こえない小さな声で何事か呟くと、大鎌を朱莉目掛けて振り下ろしたーー


「ーーーー!!」


「くっ!朱莉ちゃんには指一本触れさせないんだから」


心優は、紋様の入ったお札を空中に浮ばせ、半透明な壁を目の前に造り、大鎌を防いでいる。


「お姉ちゃん凄い!!」


「一応私も【払い屋一族 姫木家】の血筋を受け継いでいるんだからね!」


「ーーーー」


黒いローブを身に纏った死神は、そんな状況を物ともせず何度も何度も大鎌を振り下ろす。心優の造った半透明な壁は、徐々に剥がれ落ちて行く。


「ううう、ヤバいです。お札の効果が切れてしまいそうです」


次の瞬間、黒いローブを身に纏った死神の一撃が半透明な壁を砕き、朱莉に向かって大鎌が振り降ろされるーー


「朱莉ちゃーん!!」


肉体に突き刺さる鈍い音が響き渡る。心優は思わず目を閉じてしまった。恐る恐る目を開くと、朱莉の上に覆い被さるように小柄な女性が大鎌の犠牲となっていた。


「う、う・・・」


「朱莉ちゃんのお母さん大丈夫ですか!?」


心優は、大声で叫び駆け寄る。


「え、ママ?ママなの?」


朱莉の声に、ゆっくり顔を上げる朱莉の母親。


「そ、そうよ。朱莉のことが心配でずっと見守っていたのよ」


「ママあ、ママー」


「朱莉ちゃんのことを付き纏っていた【ストーカーの正体】は、【朱莉ちゃんのお母さん】だったのよ」


「そうなの?そうなのママ」


苦しそうな表情を浮かべながら、


「朱莉の周りをそこの死神が狙っていたのを目撃して・・・う、」


「朱莉ちゃんのお母さん、もう喋らない方が良いですよ」


「良いんです。私は、もうこの世には居ない存在ですから。こうやってまた朱莉と話すことが出来ただけで幸せです。それにーー」


口から血を流し、それでも笑顔で朱莉を見つめる母親。


「朱莉の為に死ねるならそれは、親として一番の本望ですから」


「まま・・・」


大粒の涙を流す朱莉。


黒いローブを身に纏った死神は、そんな親子の会話などお構い無しに再び、大鎌を朱莉目掛けて振り下ろすーー、母親が立ち上がり盾になろうと大鎌の前に立ち塞がる。


「ママー!もうやめてーー!!」


大鎌は、朱莉にも母親にも届く事なく粉々に砕け散った。


「親子の感動的な会話は、最後まで聞いてやるもんだろ?それにそんな物騒なモン小さな女の子振り下ろしてんじゃねーよ!」


「ーーーー!!!」


黒いローブを身に纏った死神は、その男が現れた瞬間に明らかな動揺が見られる。


「カケルくん!」


心優の表情から緊張が消え、安堵の表情が浮かぶ。


「くくく、よお、死神くん。あんたのランク幾つだい?この女の子の死期・死相が見えるから魂を抜こうとしているんだろ??」


その言葉に後退りする死神。明らかに動揺している。


「ーーそれに、その動揺明らかに僕のこと噂とかで聞いちゃってるパターンだよね」


死神は、筒のシルエットに慌てて戻りこの場から逃げ出そうとしている。ーーが、カケルは何もない空間から銃のような物を取り出すと死神に向け構える。


「おいおい、これじゃあ私【低ランク】ですって言ってるのと同じだぜ!」


筒のようなシルエットは、そのまま姿を消し逃げ出したと思われた瞬間。


「他の人間の目は、誤魔化せても僕の目からは逃れられないよ!」


片目を閉じ更に、狙いを定めるカケル。


「永久に彷徨う此の世ならざる者よ 浄化の力により消え去りたまえ 《魔弾ラグナ・リボルバー》」


銃口より放たれた閃光により辺り一面が光に包まれる。周りの風景に溶け込み逃げようとしていた死神があぶり出され身に纏っていた黒いローブが消滅し、死神を装っていた人物が倒れている。カケルがゆっくりと近寄ると、


「やっぱり、ただの使いパシリだったか」


「カケル君、どういう事?」


首を傾げる心優。


「死神にも【いろんなランク】やらがあって、大変らしいのさ」


「じゃあ、この死神は偽者なの?」


「ーー低ランクあるいは、雇われて死神の格好をしているだけかもしれない。どっちにせよ。【ポイント稼ぎ】に付き合わされているのは確かだ」


「え?カケル君何言ってるか分からないよ」


「あっ!この人朱莉の学校の担任の先生だよ」


心優に張り付いていた朱莉が倒れている人物を指差す。


「君が標的となる根拠は、最初からあったんだよ」


「ーーそう言えば最近、放課後良く職員室に呼ばれて一人で帰ることが多かったかもしれない」


「そうやって、機会を伺っていたのかもしれないな。どっちにせよこれでストーカー被害はなくなるだろう」


背中を刺された母親がゆっくりと立ち上がり、


「これで私もやっと成仏出来ます」


「ママ・・・」


「朱莉、パパと仲良くするのよ。ワガママばかり言って困らせないでね」


「うん」


「どうもありがとうございました、朱莉元気でね」


「ママーー」


辺りは明るくなり、七月らしい爽やかな朝陽が降り注いでいた。


★ ★ ★



「ーーっで、担任の先生って奴から何か聞き出せたのかよ?」


「それが、全くこれまでの記憶がないって言っていて何も聞き出せなかったです」


「それは、絶対嘘だろ?」


「ーーそれに、今現在行方不明になってまして・・・」


「ーーーー」


「学校に登録の住所から年令・名前全て架空のデタラメだったみたいです」


「ーーそれは、ちょっと【マズイ話】になってるかもな」


「えっ?」


心優が口を開けたままにしていると、


「まっ、何でもねーよ!昼飯でもどっか食いに行くか」


「はい!」


二人は、探偵事務所の扉から外へと出かけて行ったーーそれは、七月の爽やかな昼下がりだった。

今回で投稿は終了します。

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