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冬物語


こんにちは、姫木心優(ひめらぎみゆう)です。


もし、神様がいるのならあなたはどんな願いを叶えて欲しいですか?


大金持ちになりたい、アイドルになりたい、人生をやり直したいなど色々あると思います。


今回の依頼主は、少し変わったお客様です。


願い事は、決まりましたか?


あなたの願い叶えて差し上げます!!




* * * * * * * * * * * * *




「助けてもらった彼にもう一度会いたい・・・とな」


ソファーにもたれ、足を組んだカケルが面倒くさそうな顔で、心優が作成した依頼書を見ている。ーーそれとは対照的に、目をるんるんに輝かせ身を乗り出す様にカケルに詰め寄る心優、


「この子の気持ち、この想いを叶えさせてやりたいんですよ!このままでは成仏したくても成仏出来ないですよ」


心優は、必死にカケルにアピールする様は、まるでインチキ商品を売り付けるセールスマンのようだ。


「ーーけどなあ。何で僕が【コイツ】の為に貴重な時間を割かなくちゃならない?」


「カケル君お願いします。何とか出来ないでしょうか?」


必死で頭を下げる心優。その姿を見て大きくため息の吐くカケル。観念したのか頭を掻きながら、


「これは【禁忌】(きんき)に触れる行為だ。魔法では無いし必ず解ける。それに絶対に守ってもらう【約束】もある。ーー分かったな?」




* * * * * * * * * * * * *



「優しい探偵さんが願いを叶えてくれました」


『昔、助けてもらったあの人にもう一度、逢いたい。』


これが、私の一生に一度の願い。会ってお礼が言いたい。


ーー但し、約束があります。


自分の正体を相手に明かすこと。それと人間とのくちづけで、この【呪印】(じゅいん)は解けてしまう。



それは、 寒い日の夜・・・私は車に引かれました。


誰にも、 気付かれずに何時間も倒れていました・・・。



私は泣いたーー叫んだ、 けれど誰も助けてくれない。自分でも冷たくなっていくのが分かる。


( もう・・・私、 死ぬんだ・・・)


意識が無くなりかけた時、 突然暖かな感触が伝わってきました。


ーー 今でも覚えてる ・・・。


彼が巻いていたマフラーを私に巻いてくれたこと。


抱き締めて暖めてくれたこと。


病院まで連れて行ってくれたこと。





優しい探偵さんのおかげで、彼と会うチャンスが出来た私は、あの日の記憶と、彼の顔を頼りに必死で彼の居場所を捜しました。


ーー そして、 遂に見つけました。


彼は喫茶店の店員さんでした。


私は、毎日通いました。


あの人に会うことができ、楽しい日々が続来ました。


そして、私は彼とお付き合いを始めました。

私にとっては夢のような日々でした。


いつか逢いたいと思っていたあの人にお礼を言いたかった。今まで一度足りとも忘れたことはなかった。


ーーそんな彼と毎日一緒に居られる。


大好きな彼と毎日、この日々がずっと続けばいいな。




突然、彼から付き合ってほしいと言われました。


涙が溢れたーー嬉し過ぎて・・・。


私、幸せになっていいのかな。


彼とずっと一緒にいていいのかな。


私、彼に抱き締められた。


ーー嬉しい。あの時もこんな風に抱きしめてくれたよね。


今も、覚えてる。この暖かい感触。


キスを迫ままれたーーダメ!! 思わず突き離してしまった。


彼はびっくりしてる。


彼は自分の何がいけなかったかと聞いてくる


「違うの、 違うの。 そうじゃないの」


彼は、 話を聞いてくれない。


「どうして? ねえ、 話を聞いてよ」


彼は、プレゼントに用意していた指輪を私に投げつけて部屋を飛び出して行きました。


「私が、幸せを欲張ってしまったからなのかな?」


彼に会えたことが何よりの幸せだったのに。


それ以上を望んでしまったからなのかな。


「あっ・・・ダメだよ。 まだ・・・行かないで・・・」


私は、走ったーー彼を追いかけて、


「私、 まだ伝えてないよ」


彼はまだ道の向こう側を歩いてる。


大好きな彼・・・


「まだ怒ってる?」


彼の名前呼んでるけど、 気づいてくれない。


もう一度呼んでみる。


振り返ってくれたーー気付いてくれた。


私は、 慌てて走りながら道を横切る。


彼はもの凄く大きな声で叫んだ。


「何て、 叫んだの?」




















私、 また車に引かれちゃった・・・


















薄っすらだけどーー覚えてる。


彼が、泣いてたこと。


私を抱き締めてくれたこと。



そんなに自分を責めないで、私の不注意だから。


私、彼に言ったの。






接吻(キス)して」







最初で、最後のキスは彼の優しさがいっぱいだった。



呪印が解けてしまう前に彼に伝えたかった言葉。



ーー 『助けてくれて ありがとう』ーー




彼は、泣いてました・・・子猫の私を抱き抱えていつまでもいつまでも。






* * * * * * * * * * * * *



「私は、あの子に余計な事をしてしまったのかな?こんな悲しい結末になるなら、何もしなければ良かった」


心優は、肩を落とし顔が青ざめている。まるで、取り返しのつかない絶望に陥ったように。


「本当にそう思っているのか?あの時は、あの子に少しでも元気になってほしかったんだろ?彼に一目でも合わせて成仏してほしかったんだろ?」


「・・・うん」


「結果は、結果だろ。間違った行動はして無いんじゃないかな?最終的にそれを判断するのは依頼主だけだ。依頼主が満足してくれてるならどんな結末であったにしろ、心優ちゃんの行動は間違ってない事になるよね」


「・・・あの子はどんな気持ちで最後を迎えたんだろ?」


心優は、空を見上げた。


濃い灰色の曇り空からひらひらと雪が舞い降りる。


「ーー僕には、分かんねーな」


カケルと心優は、子猫が引かれた道路に置かれた花束を横目に粉雪が舞い落ちる中帰路へと歩くのだった。


ーー探偵さん、心優ちゃんありがとうーー


カケルの耳には、微かにそー聞こえた。



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