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深淵・3
アシュル。
少年窃盗団の中で、お前みたいにすばしっこい奴はいなかった。
ハイネ傭兵団の中で、お前みたいに頭の良い奴はいなかった。
連邦軍の正規兵になってから、お前ほど、勇敢な奴はいなかった。
お前がいたから、俺は今まで生きてこられたんだ。
本当の弟みたいに、思っていたよ。
だから、お前を死なせたくなかった。
どんな姿になっても、お前に生きていてほしかった。
ブラウンが、フェンリルと同期出来る兵士は、お前しかいないと言ったから。
他の兵士のようにフェンリルに脳を喰われる可能性が一番低いと、ボリスが言ったから。
何より、お前が、フェンリルに搭乗すると言って聞かなかったたから。
だから、
その全てを信じて、
俺は、俺は…。




