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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第七章 創造者たち
291/303

巨大ドロイドα・ω(アルファ・オメガ)

コンテナの中から姿を現した巨大ドロイドが戦闘を開始する。

各方面にミサイルが放たれたのを知ったヤノシュは行先を変更する。


291部分書き直しました<(_ _)>

 西に傾く太陽を背にして屹立する巨大ドロイドの異様な姿に、ブラウンは息を飲んだ。

 センサーカメラが隙間なく埋め込んである球体の頭部。頭を支えるのは、細長い鉄管のような首だ。極端ななで肩は、センサーの精密度を上げる為だろう。肘から下の腕が機関銃になっていて、銃身の上と下に日本刀に似た片刃の長剣を装着してあった。

 足は腕と同じくらいの長さがあり、爪先と踵に大きな蹴爪が一本突き出ている。手足の複雑な造作とは対照的に、胴体は単純な箱型だ。


(あの形、腹部と背中に武器が内蔵されているな)


 推測を巡らしているブラウンの表情がドロイドを畏怖していると映ったようだ。


「どうだ。最終兵器と呼ぶのに、ふさわしい姿をしているだろう?」


 得意満面のヘーゲルシュタインに同意するように頷いた。


「確かに。地獄を徘徊する怪物の如き醜悪な姿だ」


 大地の振動が止まった。ドロイドから一定の距離を取って停車した戦車を眺めながら、ブラウンは胡坐を崩すと、アスファルトからゆっくりと腰を上げた。


「プロシア国防軍第一親衛隊の戦車か」


 車体の横に描かれた紋章に、眦を鋭くする。


「プロシア国の最高権力者を護衛するのが第一目的の部隊が、討伐隊の先頭を務めるのか」 


 放射状に包囲した巨大ドロイドに主砲を向ける戦車の砲塔の上に、機関銃を構える兵士数人の姿が目に入った。狙撃兵だ。その銃口の全てが、ヘーゲルシュタインに向けられている。


「両手を上げろ、ヘーゲルシュタイン」


 戦車の上からヘーゲルシュタインの額にライフルの銃口を向けている兵士が命令した。腕に、少尉の階級の紋章がある。ヘーゲルシュタインが大人しく両手を上げた。


「プロシア国家の転覆を企む極悪人め。ノイフェルマン閣下の命により、今からお前を銃殺の刑

に処す」


 少尉の男が高々と叫ぶ。腹心の友が造反したと知ったノイフェルマンは、問答無用でヘーゲルシュタインを銃殺する命令を親衛隊に下したのだ。


「戦車の砲弾で原形を留めぬほど粉砕するのではなく、ライフル銃でこの身体を穴だらけにして殺してくれるのか…。ノイフェルマン、それがお前の温情というわけだ」


 寂しげな笑みが口元に浮かんだのは、ほんの一瞬だった。ヘーゲルシュタインは喉元を逸らせると、自分を取り囲む戦車団に向かって大声を放った。


「聞け、プロシアの兵士達よ!私は反逆者ではない!私はノイフェルマンと共に、プロシアの硬直した国家制度を変革し、貴族支配から人民を解放するべく、限定戦域戦での軍事同盟との戦いに、獅子奮迅してきた。だが、奴は私を裏切った!」


 自分に狙いを定める狙撃兵一人一人睨み付ながら、大音声(だいおんじょう)を轟かせる。怒りで顔を赤く染め、肩まで上げていた手を硬く握り込んで、怒声と共に頭より上に突き上げる。


「クーデターを起こし軍事政権を樹立して、独裁者となり、この国を自分の支配下に置いた!一体、誰が反逆者なのだ?!」


 ブラウンはヘーゲルシュタインに罪状を告げた少尉に目をやった。

 男は、自分よりもはるか身分の上のヘーゲルシュタインに強い視線を当てられても、全く動揺せずに、銃口をターゲットであるヘーゲルシュタインに向けていた。

 ヘーゲルシュタインの血を吐くような訴えも、ノイフェルマン親衛隊の心を動かすことは出来なかったようだ。


(まずいな。このままでは、俺も巻き添えを食らって蜂の巣だ)


 少尉はライフルだが、他の狙撃兵は機関銃を構えている。八ミリ近くの弾で頭を撃ち抜かれでもしたら、軽く半分は吹っ飛ぶだろう。ブラウンは、後ろに停車している戦闘車に素早く視線を流した。

 運よく車両の下に転がり込めれば、助かるかも知れない。だが、後ろ手に拘束されている状態では、可能性は恐ろしく低い。


(それでも、ゼロではない)


 この場に成す術もなく突っ立ったままでいれば、死ぬ確率は百パーセントだ。


(一か八か、掛けてみるか)


 ブラウンはヘーゲルシュタインに気付かれないように、戦闘車に向かってゆっくりと後退りし始めた。


「ふむ。さすがはノイフェルマンの猟犬どもだ。よく躾けられておる。α(アルファ)・ω(オメガ)よ、誉れ高き奴隷どもに、名誉ある死を与えよ!!」


 ヘーゲルシュタインが高々と上げた右手の指を開き、ぱちんと鳴らした。

 次の瞬間、ブゥンと言う鈍い音が、空に響いた。

 はっとして空を見上げると、戦車隊の上に浮かぶ円盤状の黒い物体が目に入った。


「戦闘ドローン!」


 ブラウンが叫ぶより早く、円盤から発せられた白いレーザー光線が機関銃を構えている狙撃兵のヘルメットを貫いた。一瞬の出来事だった。呻き声も発することなく即死した狙撃兵達に、少尉が茫然とした表情をする。


「さらば忠犬ども」


 弛緩して半開きになった少尉の口元を薄ら笑いで見つめながら、ヘーゲルシュタインは指を鳴らした。

 銃口を上に向けようとした少尉の頭に、円盤から閃光が穿たれた。即死した少尉が、ライフルを握りしめながら身体を後ろに仰け反らせた。

 狙撃兵の異変に気付いた戦車が、ヘーゲルシュタインに砲口を向けた。

 砲弾を撃ち込まれるのを覚悟したブラウンの耳に、ガキンと大鐘を割ったよう音が轟いた。見ると、横一列に並ぶ戦車の戦車砲が根元から切り取られ、地面に落ちている。無力化された戦車の砲塔の上にドロイドが飛び乗った。

 後方の戦車からロック・オンされる前にドロイドが動いた。

 ドロイドの巨大な身体が重力に反して軽々とジャンプする。攻撃目標の戦車の上に飛び乗ると、目にも止まらぬ速さで長い両腕を放射状に動かした。戦車は一回も砲弾を発射することなく、ブリキで作られた玩具のようにあっという間に切り刻まれた。


「国防軍の戦車がとなっていくのを見るのは、多少なりとも胸が痛むな」


 ヘーゲルシュタインはそう(うそぶ)くと、軍服の塗値ポケットから正方形の箱を取り出した。圧倒的な火力で戦車を破壊していく巨大ドロイドを、声もなく見つめるブラウンの胸に押し付ける。


「これは?」


 五センチほどの厚みがある驚いたブラウンが自分の胸元を覗き込んだ。


「弾避けのシールドだ。中心の窪みを押せば、シールドフィルムが広がって全身を覆う。お前が死んだら、元も子もないからな」


 ヘーゲルシュタインは、右手を払うように外側に動かした。

 頭上を浮遊していた円盤ドローンが、戦車の砲塔目掛けて小型ミサイルを撃ち込み始めた。唯一の弱点をミサイル攻撃された戦車隊に反撃の機会はない。内部爆発を起こして砲塔を空へと吹っ飛ばしていく戦車隊に、ブラウンは言葉を失った。

 ヘーゲルシュタインが右腕を下げた。戦車から離れた円盤ドローンが、巨大ドロイドへと飛んで行く。背中の中心が開いて、ドロイドの内部に格納された。


「残るは、最後方の戦車一両だけだ」


 最後に残った漆黒の戦車に、α・ωを背にして仁王立ちになったヘーゲルシュタインは鬼のような形相で大声を放った。


「ノイフェルマン!お前の年貢の納め時が、とうとう来たようだ」





 衝撃波が地震となって大地を揺らす。衝撃波で激しく振動する窓の脇で空を見上げるミアに、危険を感じたハインラインが小屋から飛び出した。


「危ない、ミアさん!」 


 ハインラインの声にミアが振り返る。直後、窓ガラスが割れ、破片がミアに向かって飛び散った。悲鳴を上げながら地面に蹲ったミアに、ハインラインが覆い被さった。ハインラインの背中に割れた窓ガラスの破片が降り注ぐ。

 激しかった振動が止んで、ハインラインがミアの背中から身体を離した。


「ミアさん、怪我はないかい?ガラスの破片で君の美しい顔に傷が付いたら一大事だ」


「ありがとうございます。ハインライン様」


 頬をほんのりと赤く染めながら礼を言うミアに、先に立ち上がったハイラインが笑顔で手を差し伸べる。


「俺の妹に何しやがる!この天然スケコマシが!」


 怒り心頭のヤノシュがハインラインの背中に飛び蹴りを食らわせた。派手によろけたハインラインに、ミアが声を荒げる。


「兄さん!乱暴しないでって、あれほど言ったでしょ!」


「いやあ、ヤノシュ。随分と元気になったな。よかった、よかった」


「ああ、お前のお陰だよ、ハインライン。俺が元気でいなけりゃ、大事な妹が貴様に何をされるか分かったもんじゃないからな」


 盛大に鼻を鳴らしたヤノシュがハインラインを横目で睨み付けてから、手に持った双眼鏡を両目に当てた。


「ガグル社から派手に煙が上がっている。さっきのミサイルが本社の超高層ビルに命中したようだな」


 ヤノシュは西を指差してから、くるりと後ろを向いた。


「オーストリア上空に大量の煤煙(ばいえん)が空に立ち上っているのが見えるぞ。かなり広範囲で大火災が起きているようだ」


「大火災だって?」


 ヤノシュの言葉にハインラインの顔が瞬く間に青くなった。


「南東の空にも煙が立ち上っている。方向からすると、モルドベアヌ山にあるアメリカ基地だろう。アメリカ軍からのミサイル攻撃を察知したガグル社が報復措置を取ったんだ」


「どうして、こんな事になったんだ?」


 茫然と立ち尽くすハインラインに、ミアがおずおずと口を開いた。


「新兵器の登場で、戦争を限定戦域内に留めておくことが出来なくなったからです。ましてや弾道ミサイルを手中にしてしまったら、戦争拡大に歯止めが掛かりません」


 ミアの説明にヤノシュが捕捉を入れる。


「地震かと思うくらいの衝撃波だったろう?あれは大型の極超音速誘導ミサイルだ」


「ご、極超音速、ゆ、誘導ミサイル?」


 初めて聞く兵器の名称に、ハインラインが滑舌悪く聞き返す。


「ガグル社とアメリカ軍が保有するエンド・ウォー以前の技術で開発された最終兵器だ。あれが空に放たれたら、迎撃するのは極めて困難だ」


「…それって、あのミサイルがエンド・ウォー以前の世界を滅ぼしたってことかい?」


「まあ、それに近いことが起きた」


「近いだと?世界が破滅するような戦争がまた起きようとしているのか?」


「…否定はしない」


 冷静なヤノシュに、怒りで顔を赤くしたハインラインが声を張り上げた。


「否定はしないだと?そんな恐ろしい事をよくも冷静に言えるもんだ!ヤノシュ、ウィーン近隣の市街地に幾つものミサイルが落とされたんだぞ?!それも一般の市民しかいない、老人や子供が大勢住んでいる街に!!」

 

 最後は涙声になって肩を震わせるハインラインの腕に、ミアが後ろからそっと両手を添えた。いつもは明るい銀色の瞳が悲し気な灰色になっている。


「冷静になって聞けよ、ハインライン。ガグル社とアメリカ軍は、互いに己の戦闘力を誇示するだけで、一撃で基地を吹っ飛ばすミサイルを撃つなどあり得んのだ。奴らだってエンド・ウォーの再来なんか真っ平御免の筈だからな。こりゃあ、かなりヤバい。ミア、俺達の行先を変更するぞ」

 

 ハインラインに寄り添うよう妹を面白くなさそうに眺めながら、ヤノシュが命を下した。


「プロシア領限定戦域にある前哨基地ヤガタだ。護衛と車をすぐに用意しろ」


「ヤガタへ行くって?何でだ?ベルリンに戻るんじゃなかったのか?」


 変更された行先に、ハインラインがぽかんとして首を傾げた。その無邪気な表情に、ヤノシュは眉間と鼻の両方に皺を寄せながら盛大に舌を鳴らした。


「事態は俺が想像していた以上に切迫しているようだ。ハインライン、きさまも連れて行ってやるから、大人しくしていろよ」





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