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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第五章 武器を抱いて炎と踊れ
218/303

モルドベアヌ基地第四ハッチ

アメリカ軍の攻撃を受けながらも、G―1はモルドベアヌ基地の侵入口へと到達する。

意味深な話をオーリクにするアシュケナジ。

基地の中ではユーリーがアシュケナジを待ち受けていた。


 アメリカ軍の機械兵器が待ち受けている十メートルほど先の切り立った岩肌に、オーリクはG-1の鉤爪を打ち込んで張り付かせた。

目の前に破壊対象が飛び込んできた機械兵器が、すぐさまロケットランチャーの発射ボタンを押す。

 G―1の目前に砲弾が飛び込んできた。

 十分に砲弾を引き付けてから、垂直に近い岩肌を目にも止まらぬ速さで駆け登った。

 着弾直前で目標物を見失った砲弾が、大きな破壊音を立てて岩に穴を穿つ。

 G―1を仕留め損なった機械兵器は、自分の真上にいるG-1に再度ロケットランチャーを発射した。

 オーリクはGー1を崖から素早く真横にスライドさせると、その背後から瘤のように隆起した大岩が現れた。

 機械兵器にはサル型生体スーツのような俊敏さはない。

 狭い岩場に逃げ場はなく、己の撃ち放った砲弾で崩落してきた岩石に直撃されて、遥か下の谷底へと落ちていった。


「オーリク、さすがはガグル社私設軍曹長だ。なかなかの手並みだったぞ。機械兵器を墜落させるのに、六十秒と掛からなかった」


「お褒め頂き光栄です」


 オーリクはG―1をうやうやしく一礼させてから、その掌をアシュケナジの前に差し出した。掌にひらりと飛び乗ったアシュケナジを肩に置くと、険しい山腹を軽々とよじ登り始めた。

 あと少しで山頂というところで、突然、戦闘ヘリ型ドローンが現れた。

 その数、五機。

 エンド・ウォー以前のアメリカ軍で活躍したアパッチ戦闘機の特色を色濃く残したドローンは三分の一に縮小された大きさだ。

 それでも、攻撃力は熟練のパイロットが操作する攻撃ヘリコプターとほぼ同等の代物である。


「スーツのレーダーが捕捉できなかった。敵機が山頂のすぐ近くから飛び出してきたということか」


 ドローンが機体の両脇の短翼(ウイング)に備え付けてある単身砲で攻撃を開始した。


「ロケットランチャーではなくて、攻撃力の小さい単身砲で撃ってくる。もしや…」

 

 G―1の人工脳が敵機の攻撃対象を瞬時に弾き出す。思った通り、アシュケナジが第一攻撃対象になっていた。

 アシュケナジは最初から承知していたようだ。ローブを大きなマントに変化させて、頭から足の爪先まで覆っていた。

 液体の性質を持つナノ金属繊維は、その形を自由自在に変化する。無論、強度の防弾機能も備えていて、機械兵器の弾丸程度なら撃ち浴びせられたとしても、大したダメージは受けない。

 オーリクはG―1の後ろ足の爪を岩にしっかりと食い込ませ、背中から機関銃を引き抜くと、前後左右から攻めてくる五機のドローンに向かって掃射した。

 ローターを撃ち抜かれたドローンは飛行不能になって岩壁に激突し、炎と黒煙に包まれながら石だらけのガレ地に落下していった。

 次の攻撃を受ける前に一気に峰を駆け上がる。

 登って来た側の反対方向に、突如、巨大な穴が現れた。

 切り立った崖は五メートルほど内側に削り取られて、洞窟のように見えた。

 人工洞窟の脇を滑り降りるようにして一番下まで行くと、G-1は両手の爪を穴の縁に引っ掛けて中を覗き込んだ。

 一番奥に、巨大な正六角形の形をした金属製の扉がしっかりと嵌め込まれてある。


「あれが目標地点ですか」


 スーツの中で瞠目(どうもく)しながら、オーリクはアシュケナジに尋ねた。


「正式名称はモルドベアヌ基地第四ハッチ。厳密に言うと、このハッチは目標通過点だ。最終目標地点に最短経路で到達する為の侵入口となる」


 六角形の内径は、優に十メートルを超えている。

 異質な建造物を目の当たりにしたオーリクは、思わず嘆息(たんそく)した。


(何だ、あれは?)


 削るにしても、峰の頭頂部近くにどうやってこんな大穴を開けたのか想像もつかない。

 だが、アメリカ軍の持つ技術がガグル社と遜色ないものだと理解するには十分だった。

 オーリクの心情に気付いたのだろう。アシュケナジが訥々(とつとつ)と説明を始めた。


「トランシルバニアアルプス・モルドベアヌ基地。ここはエンド・ウォーの災厄から逃れて来たアメリカ人が、モルドベアヌ山を中心として、山脈の内部を幾層にもくり抜いて作った要塞だ。要塞の内部は、岩石に含まれる炭酸塩を無定形炭素と特殊結合させて作った建造物が延々と連なっている。その壁には放射能を通さない塗料が厚く塗られている。当時の科学技術の粋を集めて造ったコロニーだ」

 

 そこまで話すと、アシュケナジは遠くを見るように目を細めた。

 

「この穴蔵は、初代の住民にとって、まさに地獄だったろう。しかし、どれだけ人間らしさを失ったとしても、人類の命を繋ぐことが出来たのは間違いない」


 言葉を失っているオーリクに構わずに、アシュケナジは独り言のように喋り続けた。


「私がここを訪れなくなってから、三十年以上が経つ。ユーリー達によって、内部通路が改造されていないといいのだが」


 G―1が峰の上から滑るように降りていくと、ゲートが開いて中から複数の機械兵器が姿を現した。


「あいつらは私が引き付けておきます。アシュケナジ様は早く基地に侵入して下さい」


 オーリクの叫びと同時にアシュケナジがG―1の肩から飛び降りた。

 それが合図のように、G―1が四つ足で急峰から駆け(くだ)る。

 機械兵器が放つ銃弾を素早く避けながら突進し、その顔面へと両肩に装着してある小型迫撃砲で攻撃を食らわせる。

 G―1から離れたアシュケナジは人間が走る五倍の速さで第四ハッチに向かった。

 ハッチのゲートが半三分の一ほど開いた。飛び出して来たヘリ型攻撃ドローンがアシュケナジに機関銃を撃ち浴びせる。

 銃弾がアシュケナジの羽織ったマントを貫通しないのを見て、ドローンはミサイルランチャーを発射した。

 ミサイルは小型だが、人間一人を跡形もなく吹っ飛ばすには十分過ぎる威力を持っている。

 アシュケナジは自分に飛んで来る小型ミサイルを首だけ曲げて避けると、後ろに飛んでいくミサイルの方向に腕を突き出した。

 マントからローブに戻った長い袖の中から、しゅんと音を立てて鞭が現れた。

 ミサイルの後尾に巻き付き、そのまま腕を大きくスライングさせると、ヘリ型ドローンにミサイルを投げつけた。

 ターゲットが自分の放ったミサイルを投げ返すという行動は半自律型ドローンの防御データには入力されていないのだろう。

 ゲートの中央で静止しながら飛んでいるドローンは方向感覚を失ったミサイルと呆気なく衝突して爆発した。

 その爆炎の下を潜るようにして、アシュケナジがハッチに取り付いた。

 ゲートの僅かな隙間に両手の指を差し入れると、パワードスーツの腕に渾身の力を込めた。

 スーツの腕の関節の接合部分が青く光り、軋んだ音が人工洞窟中に響いた。

 アシュケナジの指が扉の金属を握り潰しながら、ゲートの扉が徐々に左右に開いていった。





「アシュケナジめ。やはり侵入して来たか」


 ユーリーは手にしたタブレットを見つめながら呟いた。

 第四ハッチから灯った赤い点滅が、基地の通路を進んでいく。進路に迷いは全く見当たらない。


「こいつは…。明らかに目標地点が決まっているようだ」


 恐らくアシュケナジは最短距離を取る為に第四ハッチから入ってきたのだろう。

 だが、それがどこなのか現時点では分からない。

 ユーリーはゲートの上に設置されている監視カメラで写したアシュケナジをタブレットの画面の中で拡大した。十年前、自分がガグル社を出奔した時と、容姿はあまり変わっていないように見える。

 マントから覗いている五本の指に目を移すと、それは繊細な蛇腹に包まれて金色に輝いていた。どうやら特殊合金でできたパワードスーツを装着しているようだ。


「ガグル社の(CEO)であるあの男が、俺と対決する時が来るとはな」


 夢にも思わなかった。それはアシュケナジも一緒だろう。

 自分の意思を引き継ぐ者として造り育てた自分の分身(マリオネット)が反逆した挙句に、敵基地の中で戦いを挑んでくるなどとは。

 

 タブレットの中の赤い点滅がこっちに向かって一直線に進んでくる。


「アシュケナジ。ここが貴様の墓場だ」


 ユーリーはゆっくりと立ち上がった。



書き直しが多くてすいません<(_ _)>

風邪引き込んでいて、思考力が落ちてる……(^^;)


追記。説明不足と思われる文章を修正・加筆しました。

宜しくお願いします。


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