表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の戦域    作者: 綿乃木なお
第五章 武器を抱いて炎と踊れ
209/303

ウォシャウスキーがユーリーの計画に沿って作戦を開始する。

ロシア軍ミサイルの攻撃対象となったチームα。




「我が軍のミサイルが全て迎撃されました」


 通信兵が緊張した声で状況を報告するのを聞きながら、ウォシャウスキーは中央モニターの大画面を睨み付けた。


「ふん。また、やられたか…」


 白い煙が漂うばかりとなった青一色の画面に舌打ちする。ノイシュタットに対空ミサイルが装備されているという情報は、一時間前にユーリーからもたらされていた。





「なに?プロシア軍がミサイルを装備しているだと?」


 テレビ電話に映るウォシャウスキーの顔が、見る見るうちに険しくなる。


「はい。生体ドローンで偵察を行ったところ、ノイシュタットにそれらしきものを発見しました。コンピュータで映像を処理したところ、地下格納型のミサイル基地だと判明した」


 老将軍の眉間にくっきりと刻まれる皺を眺めながら、ユーリーは淡々と説明した。


「ノイシュタットだと?ここ、ウクライナにまで、すぐに届く距離ではないか。極秘裏に進めていたはずのミサイル基地開発が、あちら側に漏れていたという事か」


 ウォシャウスキーが怒りを露わにした声と共に、ぐるりと指令室を見渡した。

 粛正の文字が頭に浮かんだのか、兵士、特に士官達が顔を真っ青にして石のように固まった。ロシア軍兵士であれば、恐怖に息も出来なくなる独裁者の声と表情だ。

 モニター画面に映る鬼のようなウォシャウスキーの表情を正面から見つめながら、ユーリーは眉一つ動かさずに静かに答えた。


「そのようですね。恐らく、ガグル社がプロシアに情報を流したのでしょう。ですが、ご心配には及びません。我々の切り札は別にありますから」


「そうか。期待していよう」


 薄暗い笑みを浮かべたユーリーが画面に向かって一礼している映像を見ながら、ウォシャウスキーは電話を切ったのだった。





「閣下、次のミサイルを発射しますか?」


 恐る恐る指示を仰いでくる兵士を睥睨しながら、ウォシャウスキーは首を振った。


「いや、まだだ。切り札が現れるまで待て」


「切り札?ですか」


 レーダーでプロシア軍のミサイルを観測していた二人の兵士が、ウォシャウスキーの言葉に戸惑ったように顔を見合わせる。

 突然、モニターで上空を注視していた兵士が大声を放った。


「四時の方向に未確認飛行物体発見!あれは…」


 映像を見た兵士が口を半開きにして、画面に視線を釘付けにした。


「やはり、あれを寄越したか。ユーリー。約束は守る男だな」


 兵士の様子に、ウォシャウスキーの顔に余裕の笑みが広がった。


「おい、何だ、あの飛翔体は?!」


 突如、上空に現れた物体に、ウクライナ基地の全ての兵士が、どよめきの声を上げた。

 作業の手を止めた工兵達が一斉に空を仰ぐ。目を凝らした先に、凶悪な姿のドラゴンがあった。想像を絶するほど大きい翼を羽ばたかせながら、漆黒の巨体が、高度三千メートルの上空を飛んでいる。


「アメリカの飛行生体兵器、ドラゴンだ!」


「凄いな。初めて見たぞ」


「あれが、アウェイオンで連邦軍を全滅させた、アメリカの最新兵器か」


 太古の世界を支配した肉食恐竜を彷彿とさせるニドホグの姿に、兵士達が口々に叫び、畏怖の溜息を洩らす。


「アメリカ軍が強力な援軍を寄越したぞ。目標にミサイルを放て」


 ウォシャウスキーの命令を受けて、ウクライナ基地の攻撃が再開された。





 遥か上空で巨大な弧を作りながら飛ぶドラゴンを眺めていたチームα(アルファ)に、生体スーツの人工脳が同時に警告を発した。

 操縦席のモニター画面に素早く視線を移動させたα隊の目に、重なり合った複数の赤い点滅が映る。


「ウクライナ基地から、またミサイルが発射されたぞ!数は十発か。随分増えたな」


 操縦席のモニターを見ながらビルが大声を出した。

 その声がチーム全員のイヤホンに伝わる間に座標を計算し終えたスーツの人工脳が、ミサイルの着弾地点をモニターに表示する。


「着弾地点はがベルリンに一基、二基がノイシュタット、あとの七基は…うわっ、俺達に落とすつもりかよ?!」


 驚いたダンが、操縦するガルム2と共に空を見上げた。発射されたばかりのミサイルは、まだプロシアの上空には姿を現していない。


「そりゃお前、驚異の排除ってやつだよ」


 ジャックがガルム1の機関銃を空に向けて構えた。


「じゃあ、俺達チームαが、一番脅威ってこと?それは光栄だな」


 ダンはガルム2のブレードを引っ込めて、背中に装着してあった機関銃を引き抜いた。

 

「全員、機関銃を持て。攻撃態勢を維持してミサイルに備えよ」

 

 ダガーが、ビッグ・ベアとキキ、フェンリルに指示を飛ばした。


「「「了解です(イエス、サージェント)!」」」


「ダン、お前は戦闘車を守れ。中佐、チームαはミサイルの迎撃態勢に入ります。爆発の衝撃を避ける為に、隊をミサイル着弾地点から出来るだけ遠くに移動させて下さい」


「了解した。ウレク、戦闘車を出せ」


了解です(イエス、カーネル)!」 


 ガルム2を前方に、戦車を後方に従えて、戦闘車が全速力で走り出した。


「フィオナの奴、俺達がどう動くか窺っているみたいだな」


 安全距離を保ちながら大空で悠々と大きな弧を描くドラゴンを睨みつけながら、ケイはフェンリルのブレードを手首から出現させたままにして、機関銃を構えた。

 ロシア軍の放ったミサイルが自分達の頭上に落ちてくる直前になって、フィオナがニドホグの弾丸で攻撃を開始するのは一目瞭然だ。

 ケイは隣に立つリンクスにちらりと目をやった。

 リンクスも右ブレードを出したままで、機関銃を空に向けている。ダガーも自分と同じ事を考えて攻撃態勢を取っているのが分かった。


「あと十秒で、ミサイルはこの地点に着弾します」


 ジャックがカウントを取り始める。目視できるようになったミサイルに、スーツが機関銃の照準を合わせた。


「スーツの機関銃は戦車砲弾と同じ威力がある。射程内距離に入れば、大型ミサイルだって破壊できる」


 そう言いながら、ビルが機関銃の引き金にビッグ・ベアの指を掛けた。

 遥か上空を飛んでいた敵の誘導弾が各自の目標に向かうべく三方向に分かれ、亜音速(あおんそく)で飛ぶミサイルが、第一目標の生体スーツへといち早く下降を始めた。

 それと同時にドラゴンが弾丸を放った。弾丸はミサイルより早い速度で、チームαの頭上に急降下してくる。


「ビル、ハナ、ケイ!お前らは七機のミサイルを破壊しろ。ドラゴンの弾丸は、俺とジャックで引き受ける」


「「「了解です!」」」


「ミサイルは五秒で地上に到達しますっ!」


 ジャックが叫んだ。ダガーとジャックが同時に機関銃の引き金を絞り、先に攻撃してきたドラゴンの弾丸に銃弾を撃ち浴びせる。


「ミサイルが射程距離に入った!今だ!」


 ビルがうおおと咆哮を上げた。ビッグ・ベア、キキ、フェンリルが、一斉に機関銃の引き金を引く。スーツの放った銃弾が、ミサイルの先端部分の信管とТNТ火薬の詰まった弾頭を絶妙な角度から見事に撃ち抜いた。

 時間にして二秒。

 地上から三十メートルの上空で、ものの見事に七基のミサイルが爆発した。

 頭上が真っ白になり、強い光を放った。


「衝撃波が来るぞ、伏せろ!」


 ビルの怒鳴り声がチームαのイヤホンに響く。次の瞬間、強烈な爆風がスーツに襲い掛かった。

 爆風が生む凄まじい風圧に、スーツ隊は地べたに押し付けられるような格好で道路の上に屈みこんだ。


「あははは!あんた達のその無様な勘違いを待っていたのよ」


 フィオナは高らかに笑うと、ニドホグが数発の弾丸を大空に放った。

 弾丸が空に舞い上がっていくのを見てダガーが叫んだ。


「しまった。俺達は(おとり)のミサイルに踊らされたぞ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ