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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第五章 武器を抱いて炎と踊れ
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ブラウン隊vsティンダロス

 歩兵戦闘車の後ろ、兵士を収容する為の下開き式ランプドアが開く。

 先に部下の機械化歩兵達を車内に搭乗させる。最後に自分も乗り込もうとして、マディはふと足を止めた。

 人が踏み締めたことのない柔らかい地面から、規則的な振動が伝わってくる。


「隠れていた敵の戦車か?」


 咄嗟に機関銃を構える。直後、どすんと大きな音と共に、巨大な怪物が戦闘車の正面に現れた。


「な、なんだ?!この、とんでもなくでかい犬は!」


 突然現れた巨大な犬を、マディは茫然と見上げた。

 牙を剥き出して戦闘車を見下ろしている姿から、ドラゴンと同じ生体兵器だとは認識できる。だが、その巨大な犬が、創造主によってティンダロスと命名されていることも、ロシア兵に地獄の犬と呼ばれているのも、マディには知る由もない。

 誰かがマディの背中を思い切り突き飛ばした。

 思わずよろけて戦闘車の脇に尻もちを付いた。

 開きっぱなしのランプドアから一人の歩兵が飛び出して森の中へと逃げて行く姿がある。パニックを起こしているようで、兵士が携帯している武器は腰に据えられた一丁の拳銃だけだ。


「馬鹿!戻れ!」 


 怒鳴り声に我に返ったのだろう。

 兵士は足を止めて、恐怖に歪み切った青い双眼をマディに向けた。

 配属された兵士の中で一番若い男だ。二十歳(はたち)に手が届くかどうかの年頃の。

 青年の背後に灰色の悪魔が迫っているのを、マディは声もなく見つめた。

 青年はマディに顔を向けたまま巨大な犬に咥え上げられた。自分の喉から断末魔の悲鳴を迸らせる前に胴体を噛み砕かれた。

 血飛沫と共に、青年の二つに分離した肉体が地面に落ちる。


「くそ」


 マディは立ち上がると手に持った機関銃を怪物に向けて掃射した。

 銃弾が小さ過ぎて、撃ってもあまり効果がないようだ。機関銃の銃弾を浴びていた犬がぶるりと身体を震わせると無数の弾丸が灰色の皮膚からぽろぽろと落ちた。


「援護しろ!」


 絶叫するように叫ぶと、ロケットランチャーを担いだ兵士が戦闘車の中から出てきて、小型ミサイルでティンダロスを撃った。犬は、驚く程の速さでミサイルを回避した。


「避けたぞ!」


 驚愕に目を剥いている暇はない。

 もう一人の兵士が担いだランチャーからミサイルを放つ。犬が瞬時に地面に臥せる。ミサイルは犬の背中を掠めて後ろの大木に命中した。

 折れた大木が横倒しになり、木っ端と葉が大量に飛び散らせながら犬の背中に覆い被さってくる。

 犬が怯んだその僅かな隙に、マディは戦闘車に飛び乗った。砲塔の天辺にある戦闘室ハッチを開けると、備え付けてある口径十二・七ミリ機関砲で犬を連射した。


「早く後ろのドアを閉めろ」


 重機関銃での攻撃はさすがに効力があるらしい。グヮン、と醜い声で犬が吠え、戦闘車から飛び退いた。


「すぐに車を前進させろ!」


 五十口径の機関銃をティンダロスに撃ちながら、マディが叫ぶ。操縦士が戦闘車を急発進させた。


「よし、超信地旋回(ピヴォット・ターン)だ。あの化け物に機関砲と対戦車ミサイル連装ランチャーをありったけぶち込んでやれ」


 怪物に対峙する為に回れ右する(アバウトフェイス)や否や、巨体を跳躍させたティンダロスが戦闘車の面前に迫っている。


「撃て!撃て!撃て!撃て!」


 機関砲と、砲塔の横に設置されている自動装填式のロケットランチャーがティンダロスの顔目掛けて、一斉に火を吹いた。

 鈍い破裂音と共にティンダロスが細切れになって吹き飛んだ。





  木々の間を縫うように走り、飛び跳ねながら、灰色の巨大な怪物が戦車に突進して来る。


「あれか。時速八十キロも出している。すぐに戦車砲を撃て」


 接近距離が一キロを切ったのをレーダーで確認した車長が狙撃手に命令した。

 声が裏返っているところを見ると、かなり焦っているようだ。顔に大量の汗を掻き、呼吸も荒い。見たこともない巨大な犬にパニック寸前なのだ。


「し、しかし、木が障害物になっているのと、敵の動きが早過ぎて弾着点を設定することが出来ません」


「でかくてもあれは犬だ。威嚇すれば驚いて逃げるかも知れん。早く撃て」


 戦車の主砲が火を吹いた。マッハ五の砲弾が木々の幹を削りながらティンダロスに飛んでいく。着弾するのに一秒も満たない砲撃を、犬は真横に跳躍して難なく回避した。


「あの動き、まるで生体スーツと一緒だな」


 恐怖に髪を掻き毟る車長の脇で、ブラウンが驚いた様に呟いた。


「中佐!感心していないで、あの化け物を退治する方法を考えて下さいよっ」


 車長がブラウンに縋りつこうとした瞬間、もの凄い衝撃が戦車を襲った。座席から放り出されそうになるブラウンの腕を車長が掴む。


「戦車の横っ腹に体当たりしたな」


 低く唸るブラウンに、車長は顔を真っ青にした。


「あの化け物、特殊装甲板で覆われた戦車に体当たりしたっていうんですか?」


 あの速度でぶつかったなら、普通の生き物であればダンプカーに撥ねられた鹿のように骨は砕け肉が飛び散る筈だ。

 なのに、モニター映像に映る犬の五体にはどこにも損傷らしきものは見当たらない


「どうやら、あの生体兵器の筋繊維は鋼のように硬質な物質で出来ているらしい」


「中佐、至近距離過ぎて化け物を攻撃出来ません!」


 砲手が絶望に満ちた顔をブラウンに向けた。

 二度目の衝撃が戦車を襲った。戦車が前よりも大きく揺れる。ブラウンは椅子から転げ落ちないように両足に力を入れた。

 頭上が不気味な音を立てて軋んだ。怪物が砲塔の上に飛び乗ったのが分かった。


「くそ、上に乗られたんじゃ手も足も出ない」


 怪物の乗った天井から金属の破壊音が絶え間なく降ってくる。搭乗員達は成す術もなく、恐怖の眼差しで見上げるしかない。


「何の音でしょうか?」


 首を竦めながら車長がブラウンに尋ねる。


「おそらく、砲塔に備え付けてある重機関銃に噛み付いているのではないのか」


 ガキンという一際大きな音がしたか思うと、案の定、主砲の前にくの字に曲がったM2HMG重機関銃が落下するのがモニターに映った。ブラウンは操縦士に叫んだ。


「天井の鋼板ごと持っていかれないだけ幸運(ラッキー)だと思え。犬はまだ上にいるぞ。急発進と急旋回を繰り替えして振り落とせ!」


 操縦士は必死でレバーハンドルを操作した。戦車の内部が渦を巻く。

 全員の胃がせり上がり、三半規管に限界がきても、犬は戦車の上にへばりついたままだった。

 ブラウンは装備品として壁に備え付けてある機関銃を手に取った。ブラウンの行動に車長が目を丸くする。


「中佐、何をする気です?」


「このままでは主砲が撃てない。私が囮になって引き付けるから、あの化け物に砲弾を撃ち込め」


 ブラウンはそう叫んで、砲塔の脇にあるハッチを開けて身を乗り出した。

 主砲の陰に潜むブラウンにティンダロスは気付かない。砲塔の脇から足元を狙って機関銃を連射した。驚いたティンダロスが、唸り声を上げながら戦車の前に飛び降りた。


「今だ!撃て!」


 戦車砲が火を吹いた。砲弾は犬の耳の先を千切っただけで、木々の間を器用に抜けて飛んで行った。


「しまった!外れた」


 ティンダロスが再び戦車に体当たりした。その衝撃でブラウンが戦車から転げ落ちる。地面に落ちたブラウンに気を止めることなく、ティンダロスは戦車を脇から激しく揺さぶり続けている。


「まさかこいつ、四十トン以上もある戦車をひっくり返す気じゃないだろうな」


 声に出してから、ブラウンははっとした。


(そうか。この犬型生体兵器は、ダガー達がモルドベアヌで戦ったものと同型だ)


 気付くのが遅れた。この犬は、戦車よりも破壊力のある兵器なのだと。

 ならば、まともに戦える相手ではない。

 ブラウンはすぐさま耳に装着した通信機で操縦士に連絡を入れた。


「すぐに退避しろ!」


「ダメです!操縦不能です!」


 操縦士からの鋭い悲鳴がブラウンのイヤホンに届いた。左のキャタピラが地面から浮き上がる。戦車がゆっくりと裏返しになるのを、ただ、見つめるより他はなかった。

 戦車を無力化した生体兵器の顔がブラウンに向いた。

 灰色の爛れた皮膚に張り付いている禍々しい目を息を飲んで凝視する。

 

 歯列を剥き出しにした化け物が、獲物に狙いを定めて身を低く屈める。

 その巨体がブラウンへと跳ねた刹那。

 犬の頭が胴体から弾け飛んだ。



花粉症の季節になりましたが、同志の皆様は、如何お過ごしでしょうか。

少しばかりマスクのストックはあるものの、やはり心もとない状態です。

花粉症の薬(病院で処方されたジェネリック薬、何か、あんまり効かないんだよね。市販薬のあれーぐらぁ、飲んだほうが良いんだろうか…)を飲んでいても、マスクは必需品ですからね。

どこの店に行っても、売り切れていてホント困ります。

めぐりずむの蒸気マスクは山のように在庫があるんですがね。

いざとなったら、アレを付けるしかないのだろうか?

蒸気で顔が蒸し蒸しになってしまいそう~笑。



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