森に潜む精鋭部隊
破壊されたビルの陰から飛び出して道の中央に立ち塞がったガルム2に、ロシア戦車が発砲を始めた。
戦車の砲弾がスーツに届く前に、ダンが機関銃を掃射して全て撃ち落とす。
自分に向かって飛んできたマッハ五の砲弾を速攻で避けながら、左手に構えた大型拳銃で狙いを定めた場所目掛けて引き金を絞った。
ダンが狙ったのは、戦車主砲の砲腔だった。
発射される砲弾を砲身の内部で撃ち抜くことで激しい爆発を起こし、砲塔を丸ごと吹っ飛ばそうと考えた。主砲の砲身だけが爆発した時には、砲塔の天辺にある重機関銃を壊せばいいだけだ。それで戦車は使い物にならなくなる。
ガルム2に向かって来る戦車を一両ずつ潰していくと、走行不能になった戦車で広い道路が塞がった。
「おお、ナイス!この手で戦車の通路を塞いでいけばロシア軍の侵攻を止められるぞ」
燃える戦車の後ろで慌てて方向転換する戦車に機関銃を威嚇掃射すると、ダンはガルム2をビル陰に寄せてリボルバーの装填をした。
隣の狭い道へと迂回して走る戦車の砲口を狙って拳銃を撃つ。
戦車は火を噴きながら、道の真ん中で停止した。
破壊された味方車両で進行を塞がれた戦車が急旋回して別の道路へと向かう。
ダンはその都度先回りして、戦車の砲口目掛けてリボルバーの引き金を引いた。
「さすが俺!あったまいい~。この戦法、ハナさんにも教えてあげよう」
ダンは意気揚々とハナに通信を入れた。
「ジャック、たった今、ダンから連絡が入ったわ」
襲いかかってくるティンダロスを切り伏せながら、ハナがジャックに言った。
「何です?救援要請ですか?」
ジャックはハナに怒鳴りながら質問した。
骨伝導イヤホンを使っているのでそれほど声を張り上げる必要はないのだが、ガルム1の肩に乗せたガトリング銃を連射しているせいで自然と声が大きくなる。
「違うわ。彼、一両ずつ敵戦車の主砲内部にリボルバーで銃弾を撃ち込んで、操縦不能にした戦車で道を塞いでいるそうよ。大型戦闘車の侵攻を阻止するのに効果がありそうよ。私達もダンと同じ戦法を取りましょう」
「了解です」
ジャックはガトリング銃をガルム1の背中に装着させると、腰から拳銃を取り出した。
突進して来る戦車の砲口に向かって撃った。砲塔を爆発させた戦車だが、車両は原型を留めている。
「あ、ホントだ。こりゃあいい。ガトリングだと大破しちゃっていた戦車の車体が残って道を塞いでくれる。ダンの奴もたまには使えるじゃないか」
「ジャック、今の言葉、聞こえたからな!たまにはって、何だよ!」
イヤホンからダンの怒声が飛び出してきたのにジャックは驚いた。
「あれ?どうしてダンと通信が繋がっているんだ?」
「ジャック、それ、私がダンとの交信を終了しないで、あなたと話したからだわ」
ハナの言葉に、ジャックが情けない顔になる。
「うわー。ハナさん、ダンとの通信を切ってから交信して下さいよ。俺の心の呟きがあいつに筒抜けになっちゃったじゃないですかぁ」
「何が心の呟きだ!しっかりと言葉にしているじゃないか。もしかしてお前、俺が出来損ないみたいなこと、いつもハナさんに言ってるのか?」
怒りが収まらないダンの声が、イヤホンを通してジャックの耳にキンキンと響いてくる。
「言っていないって。今回だけ。たまたまだよ」
「嘘つけ!」
きいきい怒るダンの声と、それを必死でなだめるジャックの声の両方を耳に入れながら、ハナは軽い溜息をついた。
「喧嘩は後にして。敵戦車の侵攻を阻止するのが我々の使命でしょ」
「大丈夫です。ジャックを罵倒してますが、ちゃんと手は動かしていますから」
ダンはハナと交信しながら、別の道に迂回した戦車を追い、その前方に飛び出すと拳銃で砲口を撃った。
「ダン、私達に襲撃を掛けていた犬型生体兵器が、一匹もいなくなったわ。もしかすると、ガルム2を攻撃する為にそっちに行った可能性がある。十分に気を引き締めてかかりなさい」
「了解です(ラジャー)」
能天気なダンに注意喚起すると、自分も戦車を攻撃すべく、ハナはキキのリボルバーを引き抜いた。
先陣を切って走行して来たロシア軍戦車を、ブラウン隊の戦車の砲弾が真横から貫通した。
弾薬格納庫に砲弾を満載していたのだろう、戦車は天を焦がすほどの大爆発を起こした。
激しい火炎が道路を覆い、破竹の勢いで進攻してきた戦車隊が次々と急停止し始めた。
目詰まりを起こしたように渋滞し出した戦車は格好の的となった。
「撃て!」
ブラウンの号令で、砲手が砲弾発射ボタンを連続操作する。オーバーライドさせた戦車砲が、次々と敵の車両を撃ち抜いてく。
「やった!中佐、今の砲撃で十両は潰しましたよ」
破顔した砲手が興奮気味に叫ぶ。
だが、その表情はすぐに強張った。敵戦車の砲口がずらりと森に向けられたからだ。
「圧倒される数だな。この戦車は砲撃しながら森の中を後ろ向きに全力走行させろ。作戦通りに動くんだ」
「了解です」
ブラウンの命令を受けた操縦士が操向レバーを力一杯引いた。戦車は細い若木を薙ぎ倒しながらバックを開始する。
森の中に姿を現したプロシア戦車に向かって、ロシア戦車が次々と砲弾を発射した。しかし、木々に阻まれて、森の奥へと逃げる戦車には当たらない。
「いいか、大木には気を付けろ!衝突して動けなくなったら元も子もないからな」
操縦士が必死の形相でバックモニターを睨みながら操向レバーを左右に動かす。大きな樹木の脇をすり抜けるようにして、ブラウンの戦車は後ろ向き走行を続けた。
道路からの攻撃が効かないのに業を煮やしたらしい。
数両のロシア戦車がブラウン隊の戦車を追撃しようと、森の中に入って来た。
「どのくらい食い付いてきた?」
マディに連絡を入れると、「五両」との返事が返ってくる。
「よし。ウレク隊、敵戦車に攻撃を開始」
「イエス、カーネル!ほら、行くぜ」
針葉樹の大木の枝の上から、マディが号令を掛けた。
機械化歩兵達が肩に担いだ対戦車砲で、敵戦車の真上に向けてトリガーを引く。死角の頭上に爆弾を落とされた戦車は反撃する手立てもなく、あっという間に撃滅していった。
「中佐、森の敵戦車は殲滅しました」
「了解した。恐らく敵は、己の隊の戦車が全部お釈迦になっているとは露ほども思っていないだろう。次が来る前に、ウレク隊は早く木の上から降りろ」
木の枝に掛けた縄を伝って降りてくる兵士を、戦車の上に回収する。そのまま走行して合流した戦闘車両に歩兵を移す。
「こちらブラウン。二号車両、状況を報告せよ」
「こちら二号車両。敵の戦闘車両は、ノイシュタットとアムシュッテン方面に分かれて幹線道路を走行し始めました」
一キロ先の丘陵の斜面に隠れている二号車両から無線通信が入った。
「なに?ロシア軍はノイシュタットにも進攻しているのか。あそこにはヘーゲルシュタインの大隊が駐屯しているんだぞ。奴ら、知らない筈がない」
敵の動きの目論見が外れて、ブラウンは険しい表情を少し緩めた。
「少将の部隊と真っ向から激突する戦術を取るとはな。ロシア軍は随分と火力に自信があるようだ」
(まあ、敵の戦力が二分するのなら、こちらとしては好都合だ)
ブラウンは口の端を微かに持ち上げた。
予備隊と称して主戦場から撤退し、自分は安全地帯で様子を戦況を窺っているヘーゲルシュタインにも汗を流して貰えると思うと、少しは胸がすく思いだ。
「中佐、敵さん、性懲りもせずに、戦車だけで森に侵入して来ましたぜ。俺らで始末付けちまって、いいですか」
マディからブラウンの戦車に連絡が入った。
「敵の数は?」
「少し増えて八両います」
ロシア軍は無防備だったオーストリア市街に大量の戦車を投入し、あっという間に制圧した。
プロシア戦車隊は第二首都が陥落しても、抵抗するどころか尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
そんな軍隊をロシア軍はもはや敵とは見なしていない。
一気呵成に進軍してくる戦車がそれを如実に物語っている。
侮りの方が勝るのだろう。
死兵を命じられた哀れな特攻小隊が敵の進軍を少しでも遅らせようと、森を防衛戦の場に選んだことに何の用心もない。
木々と生い茂ったシダの間に潜伏している敵の兵士に、至近距離からロケット砲で狙われたらどこにも逃げ場がないのに、だ。
「承諾した。マディ隊、敵戦車を全車両破壊せよ」
「仰せの通りに。マイ・ロード」
マディの不敵な笑い声と共に通信が切れる。直後、森の中で八回の連続爆発が起こった。
新型コロナウイルス、困ったことになっていますね。
花粉症なのでマスクのストックはあるんですが、もう少し補充しておこうと思ってお店に行ったら、もうどこにも売っていない( ̄▽ ̄;)
実家がそこそこ田舎なもんで、まだ残っているだろうと呑気に考えて、買って送って貰おうとしたら、ない。ドラッグストア五軒回っても一つもないし、どのお店も入荷未定だと。ああ、甘かった。
あんな田舎でコロナウイルス流行しないよ~。もしそうなったら日本の経済沈没しちゃうよ~。
武漢の映像見たら誰しも恐怖を感じてしまうから、仕方ないとは思うけど。