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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第一章 長い戦争(ロング・ウォー) 
15/303

攻防戦



「先導戦車は四両です。横隊形(ライン・フォーメーション)で攻撃してくるようです」



「この基地を取り囲んで一斉射撃するつもりだろう。戦闘準備、全員配置に着け!」


 一気に片を付けたいのだろう、戦車隊のスピードが上がった。


「すぐに敵の射程距離に入るぞ!気を付けろ!」


 先陣を切った一両の戦車から砲弾が発射され、基地の指令室の近くに被弾した。


「うわー、やばいっすね」


 大きく穴の開いた基地の壁を仰ぎ見ながら、ビルが素っ頓狂な声を上げた。どんな状況下でも軽薄な口調を変えない男だ。


「中には誰もいないんだ。構うな」


 ダガーは戦車を見た。また速度を上げたようだ。突進してくるのは確実だ。軍事同盟軍の戦車隊は今やはっきりと目視で捉えられるまでに接近していた。


「来ますっ!」


 ビルがロケット砲を構えながらダガーの命令を待っている。


「こっちも、一発お見舞いしてやりますか?」


「まだだ。あと少し引き付けろ」


 ダガーもグレネードランチャーのトリガーに指を掛けた。


「今だ。撃て!」


 ダガーの合図と共に、基地の周りに装備した対戦車砲が一斉に火を噴いた。横並びで進んで来た先発隊

の戦車を次々と破壊する。


「やりましたね。敵さんの先発隊は全滅だ。」


 ビルが嬉しそうに声を上げた。


「すぐに次が来るぞ。隊形を変えてくるから注意しろ」


 大破した戦車の間を縫って軍事連合軍の戦車が機関砲を打ちながら突進して来た。


「両サイドに回り込まれないように、攻撃の手を緩めるな!戦車の足を止めろ!」


 基地から一斉にロケット弾が戦車に向かって打ち放たれた。まともに砲撃を食らった戦車から黒煙と炎が同時に噴き上がる。


「三両の戦車に直撃、大破!数両のキャタピラを破壊しました!」


「気を付けろ!こっちもロケット弾をお見舞いされるぞ!」


 戦車は前進を止め、ハイランド基地に向かって砲撃を開始した。激しい応戦が始まった。互いを死に至

らしめようと、重火器の砲弾が空気を切り裂く音を立てて交差する。

 軍事同盟軍の迫撃砲の威力は凄まじく、基地のコンクリートの防護壁は見る見る穴だらけにされていく。内側の防護壁に備え付けられている大型の重火器は、幾両もの戦車に狙い撃ちにされて、瞬く間に戦力が失われていった。


「外のコンクリ壁が崩れそうです。もうあまり持ちません!」


 そう叫ぶ兵士の上に敵の砲弾が着弾した。


「さすがに限界ですかね」


 兵士の身体が粉々に吹き飛んだのを見て、ビルの口調も神妙になっている。


「そうだな」


 ダガーは、敵の戦車に対戦車砲の弾を打ち込みながらビルに返事をした。ダガーの対戦車砲で打ち抜かれた戦車が、火を噴いて爆発した。

 しかし、いくら高性能グレネード弾で一両ずつ破壊しても、次から次へと軍事同盟軍の機甲部隊が押し寄せてくる。

 狙い撃ちされないように場所を変えながら発砲したが、さすがに鋼鉄製の防護壁も、敵の執拗な攻撃であちこちに大きな亀裂を作っていた。

 防護壁を突き抜けて砲弾が直接飛び込んでくるのも時間の問題だ。

 敵の迫撃弾を何発も頭上から受けた基地の二階部分は完全に破壊されてしまっている。砲弾も尽きかけようとしている状況では離脱するしかない。


「ジャックは、どうなっている?」


「先程、無線連絡を取りました。大丈夫っす。準備は万端です」


「では、撤退開始の連絡を取れ。すぐさま基地後方から兵士を退避させろと、ジャックに伝えろ。俺たちは五分後に退避する。それまでは敵に攻撃を続ける」


「了解しました」


 ビルは砲撃の大音に負けないように、口元のマイクにあらん限りの声で怒鳴った。


「ジャック、撤退だ!」


 グレネード弾を打ち尽くしたダガーは重機関銃に切り替えて、軍事同盟軍の戦車に発砲した。


 ハイランド基地からの迫撃砲の攻撃がなくなったのを見て取った戦車が、砲撃を続けながら前進を始めた。

 基地の外防護壁が完全に崩れ、戦車が基地の敷地内に入り込んで来る。

 戦車はハイランド基地の内側防護壁の前方横一列にずらりと並んで、それまで以上に大量の砲弾を浴びせ始めた。


 鋼鉄製の壁も限界に達していた。大型のグレネード弾を撃ち込まれ、大穴が穿たれた。ダガーは機関銃を撃つのを止め、ビルと一緒に身を伏せて息を殺した。

 抵抗のなくなった基地に砲撃を止めて、戦車は様子を伺っている。

 一両がゆるゆると前進を開始した。基地の十メートル手前まで進行した次の瞬間、その戦車は轟音と共に吹き飛んだ。


「あいつ、思い切り地雷を踏みましたね」


 ビルがへへっと笑った。


「砂地が多いから地雷埋めるの、楽だったっすよ」


「これで敵も地雷に気を取られて、基地の後ろ側まで手が回らないだろう。逃げる時間が稼げたな」


 隣に身を潜めているビルの肩を、ダガーはぽんと叩いた。


「よし。俺たちも脱出するぞ」


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