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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
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レミィvsステルス戦闘兵器




「やった!撃墜したわ」 

 

 砂の上で派手に燃え上がる敵機に思わずガッツポーズを決め込むと、エマは上空を睨み付けた。


「残るステルス機も仕留めてやるからね」


 レミィは、ヤガタ基地を大きく旋回しながら飛んでいるステルス機に再びロケット砲の照準を当て狙いを定めた。


「やってくれたわね!」


 ハイパーソニックミサイルをヤガタ基地に撃つことも出来ずに撃墜されてしまったステルス機を見て、キャサリンは怒りの声を放た。

 脳内アームの画面の横に設置されているスイッチに視線を移動すると、脳波の電気信号の出力を上げてスイッチをオンにする。キャサリンの行動に気が付いたワンリンが酷く驚いた顔をした。


「やめろキャサリン!その装備はまだ試作段階だ。使用すれば脳の負荷率は未知数だぞ!」


「構わない。これで連邦軍の奴らを始末してやるのよ」


 ワンリンの忠告を無視して、キャサリンはスイッチを入れたまま脳内アームを引き続けた。

 突然、ステルスの両主翼の下から、ガトリング砲を持った腕が現れた。


「あれは、何?」

 

 驚きのあまり攻撃の手が止まったレミィの正面に、キャサリンがステルスを急降下させた。

 エマは高速で接近して来るステルスにロケット砲のトリガーを引いた。

 レミィが砲弾を発射させる。同時にステルスのガトリングも火を噴いた。

 ロケット砲より発射速度の速いガトリングに捕らえられた砲弾は、全て撃ち砕かれ爆発した。至近距離で爆風を浴びたレミィが射撃体勢を崩す。


「今だわ」

 

 生体スーツが見せた僅かな隙をキャサリンは見逃さなかった。

 ステルスは再び急降下してレミィにガトリングの弾を撃ち浴びせた。


「いかん!エマ、弾幕を張ってステルスの攻撃を防御するんだ!」


 予測していなかった事態にブラウンが叫んだ。

 エマはすぐに機関銃掃射に切り替えて弾幕を張った。だが、ガトリングの火力は凄まじく、弾丸はレミィの甲冑を貫通してその下の人工神経線維に食い込んだ。


「きゃあっ」

 

 撃たれた衝撃でレミィが吹っ飛んだ。

 砂漠の細かい砂を派手に巻き上げてから、レミィのボディが仰向けに倒れた。スーツの損傷が激痛となって、エマの身体を容赦なく締め上げた。

 動けなくなったエマの正面でステルスが着陸態勢を取った。胴体の後ろから現れたのは、車輪ではない。二本の長い脚だ。

 ジェットエンジンを腰の両脇に移動させた足が、砂上を滑るように着地する。

 大量の砂が巨大な波となって空中に舞い上がる。砂の波が収まると、ステルスの着陸した場所に、大型の機械兵器が直立していた。





「あわわっ。こんなのありか――?ステルス機がロボットに変形したぞ!」


 ミニシャが地下指令室から大声を張り上げた。

 メインモニターの大画面に映るのは、人型機械兵器へと完全変形したステルスだ。

 コクピットが頭部となって、機体の尖った先端が左右に開いて上半身が現れた。

 主翼は縦に折り畳まれて背中から両肩へと弧を描くように高く持ち上がり、横一列のランチャーにずらりとミサイルを搭載している。


「ステルスめ。空からの攻撃では生体スーツを倒せないと見て、地上戦に切り替えたな。スーツとステルス機械兵器、肉弾戦ではどちらの性能が勝るのか、とくと拝見するとしよう」

 

 両方の口角を上げたハンヌが瞳を輝かせながらパネルに視線を据えるのを見て、ミニシャは青褪めた表情で言った。


「…あんた、どっちの味方です?」





 ステルスはレミィの機関銃を足で踏み潰して破壊した。

 丸腰になったレミィの前に仁王立ちになって、その頭にガトリングの砲口を突きつける。


「これだけの至近距離からガトリングを食らわせれば、さすがの生体スーツも粉々になるよね?」


 高らかに笑いながら、キャサリンが脳内アームを操作してステルスのトリガーを引こうとした瞬間。生き残りの連邦軍戦車が砲塔をステルスに向けたのを感知した。


「死にぞこないが」


 キャサリンはすぐにステルスの第一攻撃対象をレミィから連邦軍戦車に変更した。

 ガトリングと共に両翼のランチャーからロケット弾を発射させて、連邦軍戦車を一撃で破壊する。一両だけ残った大型装甲車が動き出した。


「戦闘車ではないようね。そうか!あれは、基地外に設置した移動指揮所だわ」


 ステルスのコクピットのセンサーアイとリンクした画面をキャサリンは睨み付けた。

 大型装甲車の車体の上に据え付けられた二挺の重機関銃がパネルに映し出される。


「あんな貧弱な装備で攻撃を掛ける気なのかしら?」


 キャサリンは吐き捨てるように言ってから、脳内アームを動かした。


「全員戦闘態勢に入れ!重機関銃でレミィを援護する。撃て!」


 ブラウンの合図に大型装甲車は防御用の重機関銃でステルスへの連続掃射を開始した。


「邪魔よっ」


 キャサリンが大型装甲車に左のガトリングの砲口を向けた。刹那、足元から一筋の白い光が煌めいた。ステルスの上腕が切断されて、ガトリング砲と一緒に砂の上に落ちる。


「なに?!」


 驚くキャサリンの前で、再び白刃が舞った。

 慌てて回避したステルスの右足をブレードの先が掠めた。


「しまった。隙を突かれた!」


 砂地から上半身だけ起こしたスーツが、両腕から出現させたブレードを振り上げて下からステルスに攻撃を仕掛けてくる。

 戦闘態勢を立て直そうと、キャサリンはスーツの前からステルスを飛び退かせた。

 スーツから距離を取るや否や、装甲車からの銃撃を受けた。


「私のステルスが大人しく撃たれると思うのか!」


 キャサリンはガトリングを掃射して大型装甲車の重機関銃を潰してから、その横っ腹にロケット弾を一発発射した。

 ロケット弾が真横から貫通した装甲車が動きを止める。


「中佐!」


 エマがレミィのブレードを振りかざしてステルスに飛び掛かかろうとするのを、キャサリンはステルスのガトリングで撃ち払った。


「お前らの基地にミサイルを叩きこんで、木っ端微塵にしてやるからね!」


 スーツの攻撃を封じたその隙に、ステルスがヤガタ基地に向かって背中のランチャーから次々とミサイルを発射させた。


「これで終わりよ」


 キャサリンが微笑みを浮かべた顔をすぐに凍り付かせた。

 ステルスの放ったミサイルがヤガタ基地を破壊する直前で空中爆発を起こしたからだ。


「ミサイルが爆破された!一体、どうして!」


「ふう。間一髪で間に合ったぜ」


 数キロ後方で、ビルの動きを再現したビッグ・ベアが片腕で額を拭う動作をしている姿を、ステルスのセンサーアイが望遠で捕らえた。


「あのスーツに狙撃されたのか?!」


 驚いている暇はなかった。

 キャサリンが銃弾を浴びせたスーツとは別の一体が、ステルスに接近して来るのをセンサーアイが捕らえた。

 ブレードを構えている間の前のスーツと同じ乳白色で同型のものが高速走行しながら、機関銃をステルスに向かって掃射する。

 ステルスが反撃すると、スーツは素早く身を翻してガトリングの攻撃から逃れた。


「リンダさん!」


「遅れてごめんね。エマ、大丈夫?」


 ナナはレミィに素早く近寄ると、新しい機関銃を渡した。


「ええ。ずいぶん撃たれたけど、レミィの機能にはさほど問題ありません。それより破壊された移動式指揮装甲車が心配です」


 二人はナナとレミィの顔を指揮車に向けた。

 幸い出火は免れたが、横倒しになった指揮装甲車は見ただけで使用不可能と分かる。

 車体から投げ出された兵士が目に留まった。砂の上に横たわったまま動かない者も多くいて、ブラウン中佐の安否が気に掛かる状態だ。


「リンダ、エマ、早くブラウン中佐を救出してくれ―――!」


 二人のイヤホンにミニシャが悲鳴を放った。


「心配ない。私は無事だ」


 三人のイヤホンにいつも耳にしている低音の声が響いた。


「「中佐!」」


「よかった!ウェルク、生きてたかい!」


 ブラウンから無線連絡が入ってリンダとエマ、ミニシャがほっと胸を撫で下ろした。

 大型装甲車の通信機器は全壊だろうが、耳朶(じだ)に装着してある通信機能は無事だったようだ。


「ああ、何とか無事だ。リンダ、エマ、お前達は機関銃を掃射してステルスをかく乱しろ」


「はいっ」


「了解です」


 ナナとレミィは二手に分かれてステルスに銃撃を始めた。


「高射砲はまだ生きているか?」


 ブラウンは軽い脳震盪を起こしてふらつく身体を装甲車のキャタピラに寄り掛からせながら、高射砲兵に無線を入れた。


「はい、機能しています。射撃目標は捕えたままであります!」


「よし。私が合図するまで待機せよ」


 煤だらけになった顔に双眼鏡を当てながら、ブラウンは呟いた。


「今度こそ高射砲をコンテナに撃ち込んでやる」


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