ガルム2vs深緑の機械兵器
砂地にビッグ・ベアの腰を据えて照準器から爆発炎上する戦車を眺めた。
折り曲げた左足の膝に左腕を乗せ、その上に再びライフルを置く。
撤退を始めたアメリカ軍戦車に向けて再び引き金を引いた。
引き金を引いた数だけ、戦車の砲塔が火を噴いて爆発していく。
「さて、次は、あいつらか」
ビルは小さく独り言ちてから、ライフルの銃口を次の獲物へと向けた。
「もう防壁が持ちません!」
兵士からの無線連絡後、マディのイヤホンに爆音と悲鳴が重なった。
人型兵器からロケットランチャーを撃ち込まれたコンクリートの防壁は原型を留めないくらい穴だらけだ。
横殴りの雨の如く銃弾を撃たれている状況では撤退も出来ない。重機関銃の弾も切れかけている。絶体絶命の状況だ。
(青の戦域で戦死したら、すぐに天国に行けるんだったよな…)
銃弾が尽きた。
マディは人型兵器に全身を撃ち抜かれる覚悟をして、防壁に額を押し当てて目を閉じた。
機関銃の派手な連射音が途絶えた。
鼓膜をつんざく音が戻ってこないのに気が付いて、そっと目を開けた。砲撃ではない振動を身体に感じて、防壁から恐る恐る顔を覗かせる。
マディの目に映ったのは、全ての人型兵器が頭を撃ち抜かれて砂の上に転がっている姿だった。
「助かった、の、か?」
マディは、今にも崩れ落ちそうな防壁に寄り掛かって腰を落とすと砂の上に足を投げ出して大きく息を吐いた。
生きているのが信じられない。顔を上に向けると、真っ青な空が目に染みた。
「天国に行かなくて済んだ、な」
ぼんやりと空を見上げるマディの頭上に影が差した。
生体スーツが、どでかいライフル銃を肩に乗せて立っている。
スーツの胸元が開いて、幼い頃から見知った男が、中から上半身を突き出した。
「いよう、マディ!久しぶりだな。元気でやってるか?」
ビルの拍子抜けするくらい能天気な言葉に、マディは思わず苦笑いを浮かべた。
「やあ、ビル。お前のお陰で、何とか元気だ」
「あれは!」
ブラウンの合図で火を噴いた高射砲の砲弾がアメリカ軍の陣地に向かって飛んでいく。
ミラーは機関銃を重火器に変えて砲弾に照準を当てると、トリガーを引いた。
爆破された砲弾は、空に丸い黒炎となって斜め一列に並んだ。
「キャサリン、聞こえますか。連邦軍の奴ら、アメリカ陣地にあるコンテナ車を狙っている!すぐに高射砲を破壊して下さい」
「そうするわ。あいつら、ステルスを操縦する人間がどこにいるのか気が付いたようね」
キャサリンはいつまでも追尾してくる敵の高性能誘導弾に舌打ちしてから、ステルス機を急上昇させた。
上空へと垂直飛行するステルスの後をロケット弾が追尾する。ステルスは空中で縦に弧を描くと、すぐに急降下に入った。
敵機の降下する位置が高射砲の真上と知って、ブラウンが叫んだ。
「まずいぞ、レミィ、ステルスは高射砲の上に我々の誘導弾を落とすつもりだ!」
「対処します!」
エマが機関銃でロケット弾を撃ち抜いた。
破壊された誘導弾の爆風がステルスを襲う。爆風に機体を煽られたステルスに向かって、レミィが機関銃の引き金を引いた。
「ちいっ」
レミィの攻撃を避け切れなかったステルスの片翼と胴体に横一列の穴が開いた。
被弾したステルス機が速度を落としたのを見逃さずに、レミィがコクピット目掛けてロケット砲を撃ち込んだ。
さすがのステルスも、至近距離からの攻撃を避け切れなかった。
弾はコクピットに命中し、ステルスは真っ二つになって戦域の砂漠に墜落した。
「イーサン!ステルスが一機爆破されたわ。高射砲も破壊できていない!」
「俺がロケット弾をぶっ放して、お釈迦にしてやりますよ」
そう言うと、ミラーは深緑の機械兵器の肩に装備されている四連装ロケットランチャーを高射砲に向けて発射した。
突然、小高くなった砂の上に茶色と黒のツートンカラーのスーツが現れた。
手にした機関銃を連射して、ミラーの放ったロケット弾を次々と爆破していく。
「お前なんかに俺達の基地を破壊されて堪るかってんだ!」
ダンは歯を剥き出して唸り声を上げてから、深緑の機械兵器に機関銃の銃口を向けた。
「くそっ。こっちにもスーツの邪魔が入った。キャサリン、ヤガタ攻撃までに、少し時間が掛かりそうだ」
「了解したわ。イーサン、早くスーツを片付けてヤガタを瓦礫の山にしてやりましょう」
ミラーは撃ち尽くした多連装ランチャーを機械兵器から切り離して砂の上に落とした。機関銃のトリガーを引きながら、スーツに向かって走り出す。
ガルム2は片手で機関銃を掃射しながら機械兵器に向かって足を速めた。
「ガルム2のブレードでぶった切ってやる!」
「面白い。そんな短いブレードで、この俺の長剣とサシで戦おうってのか?貴様にデビル・ドッグ隊の実力を見せてやる!」
スーツの右腕から太いブレードが突き出たのを見て、ミラーは機械兵器の腰から柄を引き抜いた。
柄の中に折り畳まれていた刃が稲妻のような光を放って、長剣となる。
深緑の機械兵器とガルム2は弾丸を撃ち尽くした機関銃から手を離した。
互いを切り刻もうと、相手の正面に剣を構える。ガルム2が間合いを取る間もなく深緑の兵器が先に動いた。手に持った長剣を、ぶん、と音と立てて振り上げた。
「チビめ!貴様の頭にソードを叩き込んでやる!」
ミラーが自分の機械兵器より一回り以上体高差のあるスーツに長剣を振り下ろした。
ガルム2がもう片方の腕からもブレードを出現させる。
両刃をクロスして機械兵器の長剣を、頭上で受け止めた。
「ほう。両腕にブレードが仕込んであるのか」
深緑の機械兵器が長剣を力を込めて手前に引いた。
派手に火花を飛び散らせると、ミラーは再びガルム2に長剣を振り下ろした。
「おっと、危ねえ」
ガルム2は素早く後ろに飛び退いて、機械兵器の剣を躱した。
ミラーは機械兵器の足を前に踏み込ませ、力一杯、剣を縦横に振るった。
轟音を立てて迫ってくる長剣を防御し切れないガルム2の身体を、機械兵器の剣先が少しずつ捕え出した。だが、致命傷には至っていない。
「このまま切り刻んでくれるわ!」
ガルム2の顔面に剣先を突き入れようと、ミラーが思い切り腕を伸ばした。
身体を低く落としたガルム2の頭部を長剣の先が掠った。
「エマとの対人格闘戦で溜まったストレスをてめえに打ち込んでやるぜ!」
紙一重で剣を躱したガルム2は、左右のブレードで機械兵器の両足を膝下から一気に薙ぎ払った。
「なに?!」
一瞬の出来事に、ミラーは目を見張った。
両足を失った機械兵器の身体が、長剣を手前に突き出したまま、前のめりに崩れ落ちる。
制御不能になった機械兵器の胴体に、スーツのブレードが二本突き刺さった。
ガルム2はそのまま真横から機械兵器を一直線に裂いてから距離を取った。
「どうだ!ダン・コックス様の手加減なし本気モード攻撃は!…って、ギャラリー誰もいないのが残念」
動力部を深く抉られて、深緑の機械兵器から液体燃料が噴き出す。
ガルム2のブレードで断ち切られたコードから放たれた火花が微かに散った。
それがどれだけ小さな火花であっても、気化し始めた高可燃性の液化燃料に引火して大爆発を起こすには十分だった。
「まさか、そんな…。この俺が死ぬ、の、か」
ミラーは己の放った絶叫と共に、機械兵器から噴き出した炎に呑み込まれた。