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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
147/303

ドロイド襲来


 前線の数か所で大きな爆発が起った。

 

 砂に覆われた大地にオレンジ色の炎が灯り、黒煙が立ち上がる。暫くすると激しい砲撃音と銃声が途絶え、戦闘地域前線に静寂が訪れた。

 己の険しい表情を隠すようにマディは双眼鏡(ビノクラー)を両目に押し当てた。

 敵の戦車と戦闘車、それから走行兵器が、こちらに向かって進攻して来るのが見える。


(前衛部隊は全滅か…)

 

 濃い緑色に光る機械兵器が一体、機関銃を担いで最後尾から大股で歩いて来る。

 機械兵器の体長は十メートルはありそうだ。あの高さから戦車と同じ砲身を持つ機関銃で掃射されたら、ひとたまりもないだろう。


(あれがアメリカ軍の最新兵器か。俺達傭兵と連邦軍兵の混成部隊とでは、火力も機動力も差があり過ぎる)


 双眼鏡を外して後方に待機する兵士達に目を向けると、マディは思わず溜息をついた。


(あいつらじゃ、弾幕を張る手伝いくらいにしかならんだろうな)


 援軍に送られてきたプロシア兵は戦闘経験の浅そうな若者ばかりだ。

 彼らの殆んどが機関銃を握りしめながら急ごしらえの防壁(ぼうへき)から恐る恐る目を覗かせている。

 防壁といっても、高さ一メートル、長さが三メートル、幅六十センチの長方形のコンクリートを、三つ四つ繋げて砂地のあちこちに並べただけである。


(こっちの陣地は、あのバカでかい機械兵器から丸見えじゃねえか。即席の防壁なんぞ気休めにもならないぜ)


 プロシア軍総本部はポーランド侵略を開始する為にヤラスクに集結を始めたロシア軍を牽制する為に、東の国境沿いに兵力を増強していると聞いている。


(ったく。兵力を分断されちまった時点でプロシア軍は負け戦も同然だ。まあ、敗将の先頭に立たされる俺達が一番哀れって話だが)


 頼みはフォーローン・ベルト一と(うた)われるハイネ傭兵団の戦闘労力だけだ。

 だが、あのハイネですら敗れた。絶対防衛陣地を奪われるのも時間の問題だろう。


(あの世でおやっさんに顔向けが出来るくらいには、敵さんを道連れにしないとな)

 

 先に冥土へと旅立ったハイネの顔を思い浮かべながら、マディは重機関銃を構え直した。


「おや?」


 直進していた機械兵器が、急に進行方向を変えて走り出した。

 どうやら、激戦になりそうな防衛陣地の中央を迂回して、ヤガタに向かうらしい。


「そうか。奴は生体スーツと一騎打ちするつもりだな。だとしたら、俺達の勝機も、ゼロってわけじゃない」


 二足走行兵器の第一陣が射程内に入ってくる。その数三体。マディが高々と手を上げたてから力強く振り下ろした。

 一列になって待機していた無人のおんぼろトラックが二足走行兵器に向かって一斉に走り出した。

 アクセルに細工して、ただ前方に向かって走るだけにしたトラックだ。

 廃車寸前のトラックのよたよた走る姿が、走行兵器のセンサーアイにはかなり異様に映ったらしい。すぐさま攻撃順位を変え、連邦軍の兵士達に向けていた銃口をぼろトラックに移動して発砲し始めた。


「機械兵器め、まんまと騙されやがったな。よぉし、今だ!撃て―――!」


 すでに銃の引き金に指を掛けて敵兵器に狙いを定めていた傭兵どもが、マディが合図すると同時に一斉射撃を食らわせた。

 三体の二足走行兵器はセンサーアイを撃ち抜かれて、砂地に倒れ込んだ。


「機械脳め、ぼろ車を兵器と勘違いしやがった。上手く引っ掛かったぜ!」


「やったあ!」


 砂地に横たわって燃え上がる二足走行兵器に、マディの隣の若いプロシア兵士が興奮した声を上げて防壁から頭を出した。


「バカ!頭を出すな!狙い撃ちされるぞ!」


 その直後、兵士の頭がスイカを砕いた様に割れた。


「くそっ。言わんこっちゃない」


 マディは舌打ちしてから、お返しとばかりに、重機関銃を連射してこちらに向かって走って来る二足走行兵器の頭を撃ち抜いた。二足兵器を全て破壊された敵戦車隊がスピードを上げて突進して来る。


「あいつらに防壁を壊されたら俺達は丸裸だ。戦車隊前に出ろ!敵戦車を迎え撃て!」


 マディの号令で味方の戦車が轟音を響かせながら突撃を開始した。

 ロケットランチャーを抱えた傭兵達も軍用トラックに乗り込んで、戦車の尻に着いて走り出す。

 味方戦車の前に出て敵戦車にロケットランチャーを撃ち込むと、急ブレーキをかけてから再び味方戦車の後ろに隠れた。

 傭兵の乗った軍用トラックに撹乱(かくらん)されたアメリカ軍戦車の攻撃が僅かに遅れた。

 瞬きの差で連邦軍の戦車砲が先に火を噴いた。

 装甲板を貫かれたアメリカ軍戦車が急停車した。

 次の瞬間、大きな砲塔が空に向かって垂直に吹き飛んだ。燃料に引火して内部で大爆発を起こしたのだ。

 破壊された戦車の真っ黒な爆炎の中心から人の手足の機能を持った兵器が飛び出してきた。

 その数、六体。人型兵器は砂地を軽やかに走りながら、従来の二足走行兵器とは比べもにならない速度で手に持った機関銃で軍用トラックを掃射した。

 傭兵と軍用トラックを穴だらけにすると、一体の人型兵器が頭部の後ろから多連装ロケット弾を出現させて連邦軍の戦車に連射した。

 大爆発が起きて紅蓮の炎が上空へと舞い上がる。


「何だ、あの兵器は?!始めて見たぞ!」


「新型の機械兵器だ!弾幕を張れ!あいつらを防壁に近付かせるな!」


 驚く兵士達に、マディは怒声を張り上げた。兵士が必死でトリガーを引き絞る。

 連邦軍の猛攻をものともせずに人型兵器は一斉に連邦軍の防壁に銃口を向けた。


「バートン博士の最新作、変形型二足兵器ドロイド・1だ。連邦軍の防衛部隊などすぐに駆逐してくれるわ。俺達の出る幕はないだろうから、ここで高みの見物といくか」


 隊列を組んだ戦車隊に停止の命令を出して、コリンガム中尉は砲塔から上半身を出した。

 人型兵器は連邦軍戦闘車の機関銃掃射を躱して車両の上に飛び乗った。

 鋼板を破壊し操縦席に向かって機関銃の弾を撃ち込む姿を見て、マディが無線機に向かって大声を放った。


「戦車、装甲車!防護壁まですぐに後退しろ!」


 マディの命令も虚しく、一台、また一台と、戦車と装甲車が人型兵器の攻撃を受けて火だるまになっていく。

 六体の人型兵器が横一列に並んで機関銃を構えて防壁に迫って来た。


「伏せろ!」


 連邦軍兵士達の耳元に爆音のような射撃音が響いた。

 激しく撃ち放たれる弾丸にコンクリートの防壁が穴だらけになっていく。

 反撃しようとした傭兵が防壁から目を覗かせた瞬間、六体の人型兵器から一斉に銃弾を浴びた。

 頭を吹っ飛ばされた傭兵の身体が砂の上にぐにゃりと横たわった。


「くそっ!手も足も出ない」


 マディは無線連絡でブラウンに応援要請を出した。


「こちらハイネ団後方部隊。新型機械兵器の攻撃を受けて隊は全滅寸前だ!至急応援部隊を寄越てくれ!」


 返ってきたのはマディと同じ緊迫した声だった。


「ヤガタからの援軍は無理だが、今、ビッグ・ベアがそちらへ向かっている。何とか持ち堪えてくれ!」


 ブラウンの返答に、微かな希望を見いだせた。


「もうすぐスーツが加勢に来るぞ!それまでこの場所(絶対防衛圏)を死守するんだ!」


 スーツと聞いて勇気を得た兵士達が、防壁に機関銃を突き出してトリガーを引き始めた。

 連邦軍の反撃に、人型兵器がガトリング砲を取り出して大量の銃弾を撃ち込んでくる。

 コンクリート防壁の一角が破壊され、その後ろにいた兵士が肉片と化して四方八方に散らばった。


「うおおおおっ!」


 兵士達が絶叫しながら人型兵器に機関銃を撃つ。撃つ。撃ちまくる。

 人型兵器の一体が銃弾を顔面に浴びて仰向けに倒れた。

 味方が破壊されたのを見た人型兵器は、肩から多連装ロケットランチャーを出現させた。


「ドロイド・1よ。傭兵軍団など、早く全滅させてしまえ」


 コリンガムは戦車の車長席から顔を出して人型兵器と連邦軍の戦闘を悠長に眺めていた。

 ドロイド達がロケットランチャーを敵の防壁に向かって撃ち込み始めたのを鼻歌交じりに見ていると、下から軍服の裾を強く引っ張る者がいる。


「どうした?今からが見ものだってのに」


 身を屈めて戦車の操縦室を覗く。乗員が真っ青な顔をしてコリンガムに報告した。


「十メートル級の大型スーツが、五時の方向からライフルを構えて、こちらを狙っています」


「なな、何だと!」


 乗員よりも青くなった顔で、コリンガムが叫んだ。


「何やってんだ。早くライフル砲で迎撃しろ!ドロイド・1も呼び戻せ!戦車隊の前に配置させて防御に当たらせ…」


 ドンという音と共に、戦車に衝撃が襲った。


「隣の二両が大破しました!」


「まずいぞ。煙幕を張れ!スーツに砲撃を開始しろ。我が軍の防衛陣地まで退却するんだ!」


 慌てふためくコリンガムに、照準潜望鏡で生体スーツを凝視していた通信兵が絶望した声で答えた。


「中尉、もう、間に合いません」


 次の瞬間、コリンガムの戦車は、砲塔に生体スーツの銃弾を受けた。

 銃弾は、戦車が砲塔内部に搭載している百二十ミリ弾を貫いた。 



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