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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
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キキvs白の機械兵器


 重い金属音がした。鋼鉄の鉄板が三枚、スライドしながら天井へと持ち上がる。

 通路の中央、生体スーツ三体の真正面に従来の機械兵器を従えるようにして、新たな機械兵器の姿があった。

 ボディは純白に輝く西洋式甲冑で、それは後ろに待機する機械兵器とは一線を画す荘厳で重厚な作りだ。

 最初に姿を現した自律起動機械兵器よりも大型で、手足と胴体、それから頭部と顔の輪郭は人に近い。優美な兜で覆われている双眼の赤い光が、スーツに注がれた。

 互いの姿を確認し合った時間は、一秒。

 次の瞬間。

 機械兵器は両手に構えた二丁の機関銃から、スーツに銃弾を撃ち込んでいた。

 機械兵器がトリガーを引いたのと同時に、リンクスとキキも機関銃を高速で左右に振りながら機械兵器に連射していた。

 接近戦での撃ち合いになった。弾幕となった銃弾がぶつかり合い、その衝撃で火花が散る。

 スーツと機械兵器、機関銃の弾が切れたタイミングも同じだった。


「軍曹!ハナさん!頭を下げてっ!」


 リンクスとキキの後ろから飛び上がるようにして、ガルム1が機械兵器に機関銃を撃ち浴びせた。機械兵器が素早く左腕を手前に翳した。

 腕から金属版が上下左右に四方向に飛び出して盾となり、ガルム1の攻撃を防御した。至近距離で撃つ機関銃の弾が全て跳ね返されていく。

 機械兵器は右に携帯していた機関銃を投げ捨てた。

 前方に首を突き出すようにして下げ、少し背を屈める。機械兵器の厳つい両肩から81ミリ口径の砲身が飛び出した。


「退避しろ」


 ダガーがハナとジャックに叫んだ。

 迫撃砲の大型弾丸をスーツに撃ち込まれる前に、キキとガルム1が左右に飛び退く。

 リンクスは横に大きく跳ねながら、両脚から拳銃を引き抜いて機械兵器の顔面目掛けてトリガーを引いた。

 リンクスからの攻撃を食らった機械兵器が顔面を盾でブロックする。

 照準がずれて発射された砲弾はスーツに命中することなく、壁に横一列の大きな穴を穿った。


「さて、どうする?機械兵器の親玉さん。破壊力のある砲弾を使えば使う程、あんたの基地の壁が穴だらけになるぞ!」


 ジャックが歓声を上げた。白い機械兵器も同じ考えの様で、肩に出した砲身を機体の内部に引っ込めた。

 それと同時に白い機械兵器の後方に待機していた自律起動機械兵器が前方に飛び出してきて、スーツに向かって腕と一体化した機関銃を撃ち始めた。

 ダガーは、生体スーツ同期(シンクロ)ヘッドセットシステムを仲介してリンクスの人工脳から送られてくる動体視力情報に従って、自律起動兵器のセンサーアイを次々と撃ち抜いた。



「連邦軍生体スーツ!このクソ野郎ども(ファッカーズ)が!!ようやくララが産気付いたって時に、わざわざミサイル発射口から侵入して来やがって!」


 アメリア・バートンは己の機械兵器の操縦席で怒鳴り散らした後に、薄ら笑いを浮かべた。


「ふふん。そうやって、自律兵器の破壊に弾を消費させるがいい。お前らの弾薬が切れるのも時間の問題だ」


 白の機械兵器の後ろから自律起動機械兵器が次々と攻撃を仕掛けてくる。

 バートンの開発したこの兵器は、地上銃撃戦に特化した人工知能を搭載している。

 敵を認識して機関銃を撃つというパターン攻撃しか備えていないが、その分全ての部品を3Dプリンターでの大量生産が効くので敵を数で圧倒できる。軽量化しているので動きも早い。


「くそ、こいつら、どんだけいるんだよ?!」


 機械兵器のセンサーアイを撃ち抜きながら、ジャックが悲鳴に近い声を上げた。


「軍曹!このままでは拳銃の弾倉(マガジン)が底をついちゃいますぅ!」


「ブレード攻撃に切り替える」


 リンクスの両腕から剣を突き出したダガーは、銃口を並べて弾丸を撃ち放っている自律兵器に突進した。スーツの人工眼と操縦席に飛んでくる銃弾を、クロスしたブレードで防御する。

 低く保った体勢から両方の剣を左右に広げて、自律兵器の脚を根元から薙ぎ払った。

 重心を失った自律兵器が、隣の味方兵器を蜂の巣にしてから床に転がった。


「なに?」


 瞬き一つする間もなく足を切られた機械兵器を見て、バートンが目を見開いた。

 自律兵器の群れに切り込んだ白灰色のスーツの動作を、両眼を動かしてヘッドセットにセットアップされた可視データ解析機で速度を計算した。

 自律兵器を遥かに凌駕するスーツの動作を目の当たりにして、バートンはぎりっと歯を噛みしめた。


「あのスーツ、至近距離から機関銃で攻撃を受けても、ボディには大して効いていないようだな。ガグル社の技術の粋を集めて作られたという噂話は、本当だったってことか」  


 白灰色のスーツの後に続いて乳白色のスーツが自律兵器に切り込んでいった。

 乳白色スーツの剣の刃が、自律兵器の頭部を胴体から切り離した。他の二体よりも小さいが、恐ろしく速い動きを見せている。

 自律兵器で作った防護壁が瞬く間に切り崩されていくのを見て、バートンはユーリーに無線連絡を入れた。


「ユーリー!こちらアメリア。現在、生体スーツ三体と交戦中。敵スーツは想像していた以上の性能を見せて自律起動兵器を破壊している。いいえ、想像を絶する性能よ」


「了解した。そこの機械兵器用通路は閉鎖する。バートン、今すぐ退避しろ」


「そうするわ」


 バートンは、拳銃を構えさせたまま機械兵器の両脚を折った。脛の中央が開いて一列に並んだ四本のタイヤが現れると、すぐさまバック走行を開始した。


「あいつ、逃げるぞ!」


 残り少なくなった自律兵器をブレードで切り倒しながら、ジャックが叫んだ。

 その声に反応したハナがキキを大きく跳躍させた。自律兵器を飛び越えて、バートンの機械兵器の正面に着地した。

 バートンが拳銃をキキに向けて連射する。ハナはブレードの刃で銃弾を防御しながら白い機械兵器の後ろに回った。


「あんたは逃がさない」


「ちっ」


 舌打ちと共に、バートンは弾の切れた拳銃を床に投げ捨てた。機械兵器の腰から剣の(つか)を取り出すと、キキに向けて中央のスイッチを押した。

 稲妻の如く(きら)めいて、柄から長剣(ソード)が出現した。

 キキの顔面に襲い掛かる刃をハナは間一髪で避けた。白の機械兵器とキキが剣を構えて向かい合う。


「軍曹!ジャック!ここは私に任せて、早く基地内部に侵入して下さい」


「了解した。行くぞ、ジャック」


「ハナさん、気を付けて!」


 ダガーは最後に残った自律兵器の胸に深く突き入れたブレードを引き抜くと、リンクスを四足走行体型にして同じく獣型に変身したガルム1と共に広い通路を走り出した。

 バートンが唸り声を上げて、機械兵器の長剣をキキに振り下ろした。

 ハナは迫りくる剣先からキキの身を捩じらせて(かわ)した。


「ユーリー!敵スーツ二体の侵入を許した。奴らは、第五地下発電所を爆破するつもりだわ。私と交戦中のスーツはここで食い止めるから、早く二体を撃破してくれ!」


 キキが機械兵器の胸目掛けてブレードの切っ先を突き出した。ブレードの刃先から飛び退るように機械兵器を後退させると、バートンはあらん限りの声を出して通信機の向こう側にいる仲間に叫んだ。


「ユーリー!ニコラス!ララを、守って!」


 長剣を構えた白の機械兵器がキキに向かって突進を開始した。

 びゅんと、空を切る音を立てて刃がキキに襲いかかってきた。

 がっしりとした巨体から繰り出される長剣の攻撃力は凄まじく、キキを捕え損ねた剣は硬い岩盤で出来た壁と床をいとも簡単に砕いた。

 機械兵器の体長は十メートル。キキの身長はそれより三メートルは小さい。

 大きく振り被りながら襲い掛かる機械兵器の長剣(ソード)に捕らえられたら、キキのボディは真っ二つにされてしまう。

 迫りくる長剣からキキはするりと身を躱した。元が猫だから反射神経は飛び抜けている。


「逃げるばかりが上手いスーツだこと。これで始末をつけてやる!」


 苛立ったバートンは機械兵器の両肩から迫撃砲を突出させて、キキに向けて砲弾を発射した。至近距離から迫撃砲の攻撃を受けて、キキは咄嗟に姿勢を低くした。

 機械兵器の肩から発射された砲弾はキキの頭の僅か数センチ上を飛び越えて、後ろの通路の壁面で爆発した。

 壁の岩盤が砕ける。火薬と黒煙でバートンの視界が一瞬遮られた。

 気配を感じた時には、生体スーツは機械兵器の懐に入っていた。

 白の機械兵器のセンサーアイがキキを見下ろし、キキの人工眼が白い機械兵器を見上げた。


「しまった!」


 白く光るブレードが目の前に飛び込んできた。

 長剣(ソード)を構え直す暇もなかった。白い機械兵器の胸部中央に、スーツのブレードが突き刺さった。

 操縦席のモニターパネルを破壊して巨大なブレードの切っ先が自分に迫って来るのを、バートンは瞬きもせずに見つめた。


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