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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
139/303

一か八か


 大型二足走行兵器が目の前に迫ってくる。

 ハイネは走行兵器のセンサーアイ目掛けて重機関銃を連射した。

 だが難なく(かわ)されて、軍用トラックに横付けする位置で走行兵器に砲口を顔の真正面に向けられた。


「うわっ」


 荷台に取り付けられている弾避けに身を縮めると同時に、頭の上を掠るように弾丸が通過していった。

 オドバが急ブレーキを踏んで車体に回転を掛ける。大型二足走行兵器とトラックが鼻を突き合わせる格好になった。


「ほらよ!」


 オドバがハンドルに取り付けてあるマシンガンスイッチを押すと、トラックのボンネットに備え付けられている機関銃から火が噴いた。

 大型二足走行兵器が機体を撃ち抜かれてよろよろと後退するのを、ハイネが荷台のガン・マウントでセンサーを撃ち抜いた。


「ふう。爺さん、ありがとよ。命拾いしたぜ」


「もうちっと敵を倒さにゃあ、天国の母ちゃんに自慢出来んでな」


 アクセルを踏み込んで、オドバがアメリカ軍の装甲車に突進をかけた。

 ハイネが肩に担ぎあげたロケットランチャーを打ち込むと、装甲車は一瞬で火を噴いた。

 空になったランチャーを荷台の床に転がして、砲弾が装填されているものを肩に担ぐ。


「爺さん!次!」


「あいよっ」


 ハイネはオドバが目標にした別の装甲戦闘車にミサイルを撃ち込んだ。

 燃える装甲車の前に、タイヤを履いた走行兵器がオドバの軍用トラックの進路を遮るようにして停車した。

 小型トラックくらいの大きさで、長方形と三角形を組み合わせた不格好な形だ。今までに見たこともない兵器だった。


「このちっこいのは、対人用か?爺さん、トラックの機関銃でぶっ壊しちまえ!」


 ハイネの掛け声とともに、オドバがスイッチを押した。

 12.7ミリの銃弾が小型走行兵器に叩き付けられる。だが、小型兵器は機関銃の攻撃を受けても破壊されることもなく、トラックに対峙したまま動かなかった。


「何だ?こいつは!」


 ハイネが目を剥いてガン・マウントの重機関銃を連射した。

 撃ち放たれる弾の勢いに押されて少し後退したものの、小型兵器が破壊されることはなかった。

 運転席から顔を出したオドバが小型走行兵器に向かって手榴弾を投げつけた。

 小型兵器に向かって手榴弾が空を舞う。小型兵器の三角の部分がスライドして、中から折り畳まれた長い腕が現れた。その先には人間のような指が五本生えていた。


「ヤバい!おいっ、爺さん、バックだ!トラックをバックさせろ!」


 ハイネの怒声よりも早く、空中で手榴弾を掴んだ小型機械兵器の手がトラックの運転席に向かって手榴弾を剛速で投げ返した。

 ハイネが荷台から飛び降りたのと同時に、オドバの運転する軍用トラックが爆発した。

 爆風を直接食らって砂地に全身を叩き付けられたハイネは、自分の前に小型兵器がゆっくりと走って来るのを焦点の合わない目で凝視した。

 機械兵器がハイネの前で止まった。

 車輪が機体の内部に格納されると、機体の後ろに逞しい二本の脚が現れて立ち上がった。縦になった長方形に頭が生えた。

 不格好な小型走行兵器は二・五メートルほどの体高を持つ人型に変身して、横たわったまま動けないハイネを見下ろした。


「何だ?こいつは?」 


 長い腕が持ち上がって背中に回る。人間そっくりの精巧な機械の手に握られていたのは大型の銃だった。


「ちくしょう。これまでか」


 ハイネは震える手で右脚に携帯している拳銃を引き抜くと、人型の機械兵器に向かって引き金を引いた。

 額を流れる血が目に入って視界が妨げられる。至近距離なのに照準が合わせらず、血を拭おうにも左腕が折れたらしく全く動かない。

 

「ちくしょう」

 

 意識が薄れていく中で、ハイネは拳銃を上に向けて引き金を引き続けた。

 弾倉(マガジン)(から)になった拳銃を小型兵器に投げつけた。

 真上から覗き込むようにして自分に銃口を向けた小型兵器をハイネは睨み付けた。

 かっと目を見開いたままのハイネの眉間を、人型ロボットに変形した小型兵器が容赦なく撃ち抜いた。





「前線の状況は」


「アメリカ軍の新型兵器によって、前線に配置された傭兵団はほぼ全滅。ハイネ傭兵団の総指揮官が戦死した模様です。大型の機械兵器が単体で敵の防衛区域から突撃を開始しました。戦車と装甲戦闘車、戦闘兵車がほぼ無傷でヤガタ防衛線を北上中。我が軍の防衛陣地にアメリカ軍が侵攻するのも時間の問題です」


 ヤガタ基地の無線通信システムから随時送信されてくる戦況を伝達する兵士の隣で、若い将校が真っ青な顔をして連邦軍の劣勢を聞いている。その表情を一瞥してから、ブラウンは自分の手元にあるタブレット端末を操作して戦力数値をコンピュータで割り出した。


「兵士及び兵器の損耗率(そんもうりつ)が五割を超えたか。かなり厳しい状況だな」


 空にはステルスが旋回し、地上には最新型の人型走行兵器と機械兵器、その後ろには戦車や装甲戦闘車がヤガタ基地目掛けて押し寄せてくる。

 連邦軍の絶対防衛圏に入ると砂地の多い土地から地面の硬い土漠へと変わる。

 一気に侵入しやすくなると共に、戦車の砲弾や迫撃弾がヤガタ基地にまで届く。


「ハイネ傭兵団の後方部隊が敵の走行兵器と激戦になっています!」


 上擦った声で通信兵がブラウンに叫んだ。ブラウンが素早く聞き返す。


「プロシア戦車隊の援護はどうなっている?」


「新型が素早い動きで攻撃してくるので、防御態勢を維持するのに精一杯のようです」


 通信兵が緊張で汗だくになりながらモニターに張り付いていると、ハイネ団から無線通信が入った。


「こちらハイネ団後方部隊、マディ副団長だ。走行兵器の猛攻により絶対防御区域からの後退を余儀なくされている。これではヤガタを守り切れない!スーツを一体、こちらに回してくれないか?!」


 無数の砲弾が大地に着弾する轟音が響く中、怒鳴りながらの交信だ。


「現在ヤガタ上空に二機の戦闘機が飛び回っていてスーツが一対一の攻撃に当たっている。あと少しでロウチ伍長が貴殿の隊と合流する。それまで持ち堪えてくれ」


「ビルが?」


 緊迫したマディの声が嬉し気に弾んだ。


「分かった。あいつが来るなら千人力だ」


 マディとの通信を切った直後にミニシャから連絡が入った。


「ブラウン中佐、コンテナまでの距離の測定及び弾道の計算が終わった。弾着の修正は30ミル。今からそちらにデータを送る」


「よし。データの取得と同時に直ちに高射砲でコンテナを攻撃するぞ」


 ブラウンがミニシャと交信途中に、レーダーを観測している兵士が声を張り上げた。


「敵の大型機械兵器一体がヤガタに急接近中!あと三キロで基地に到達します!」


 ブラウンはすぐさまスーツに命令を下した。


「ガルム2に告ぐ!アメリカ軍機械兵器一体が猛スピードで進攻中だ。前方に出て敵機械兵器を撃退せよ」


「ラジャー!よおしっ、あの機械兵器をぶっ潰してやる!」


 ガルム2が大地を蹴って前進を開始した。


「レミィは空中のステルス二機に攻撃を仕掛けて撃ち落とせ」


「了解しました。逃げてばっかりのステルスさん、今度のミサイルは、さっきのとは大違いよ!覚悟しなさい!」


 エマはレミィの肩に担いだ射撃砲を空に向けてトリガーボタンを押した。アクティブレーダー搭載の高速ミサイルが空に打ち上げられる。マッハ4の速度でステルスの追尾を開始した。


「高射砲はまだか?!」


 ブラウンが若い将校に向かって声を張り上げた。


「あと少しで弾道の調整が終わります!」


「ガルム2とレミィが敵主力兵器の攻撃を防御しているうちに発射しろ!」


 矢継ぎ早に命令を下しながら、ブラウンは考えた。


(敵の主力兵器の火力を分散させるには、こちらの火力も分散させての攻防しか手はない。時間がどれだけ許すだろうか)


 残された手は、一か八かの敵指揮所のコンテナ攻撃だ。だが、高射砲の発射と前後して敵の総攻撃を受けるだろう。

 モニターパネルを睨んでいるブラウンに、高射砲の射手を務める兵士から通信が入った。


「中佐、準備完了しました!いつでも発射できます!」


「よし、高射砲、連続発射!」


 ブラウンは大声で叫んだ。



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