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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
137/303

脳内アーム


 ステルス機が弧を描いて大空を飛んでいる。

 戦闘機は初めてヤガタ上空に現れた時よりも、随分と高度を落としていた。

 戦闘機の(フォルム)が、砂地から見上げている連邦軍の兵士の肉眼にもよく見える。

 時折、銀色の機体が太陽光に反射してきらりと光る。

 ヤガタを守る砲撃隊の若い兵士達は畏敬と恐怖が綯い交ぜになった表情で、自分達を地獄に送ろうとしている冷徹な機械を見上げていた。

 上官の「撃て」との指示が飛んでくるのを今か今かと待ちながら、銃のグリップを握りしめている。高射砲のトリガースイッチに乗せた指に視線を送ると、緊張で強張った指が目に映った。



「攻撃してこないわね。何故かしら?」


 エマが怪訝そうな声でダンに通信した。


「こんなに早く飛べるんですよって、デモンストレーションしているわけじゃないよな。あいつ、スーツの様子を窺っているんだ」


 ダンが空に向けた銃口でステルス機を追いながらエマに言った。


「そうね。ガルム2とレミィが難敵だとは認識したんでしょうね。それにしても、あの飛行兵器を操縦している人って、どんな兵士なのかしら?」


「ヤガタを殲滅しようとする悪魔さ」


 ダンは挑発するように、ステルス機の腹目掛けて機関銃の弾丸を放った。ステルスは機関銃の連射を難なく躱すと上空に急上昇した。

 空に点となった機体をレミィの人工眼が追った。


「熱探知した。さっきと同じ超音速ミサイルよ!」


 エマが叫ぶと同時に、ダンはガグル2の機関銃のトリガーを引いていた。ヤガタ管制塔の百メートル頭上でミサイルが爆発した。


「トリガーを引くのが一秒遅かったら、ヤガタの管制塔は粉々になっていたぜ」


「第二弾、来る!」

 

 エマが叫んで機関銃を撃ち放った。空で爆発が起こる。中心の黒雲から四方八方にミサイルの残骸が飛び散った。





「マッハ五キロの超音速ミサイルを撃ち落とすなんて。生体スーツって、なかなか機敏な動きをするものなのね」


 キャサリンは、ステルス機の高度を上げた。

 ここならスーツが銃撃してきても弾丸は届かない。しかし、この距離では敵の攻撃は防げるものの、ステルスの攻撃力もスーツによって阻止されてしまう。


「ジャクソン軍曹がやられたくらいだからな。侮らないことだ」


 ワンリンの言葉にキャサリンは憂い顔になった。エンド・ウォー以前からの戦友を失って、マクドナルドはどれだけ心を痛めているだろう。


「やはり接近戦に持ち込むしかないわね。どう思う?ワンリン博士」


 キャサリンはアメリカ軍に守られた巨大コンテナの中で、目の前に広がるパネル画面に目を動かしていた。脳内アームで操縦するステルス機の位置を確認する。

 

 ヤガタ基地はステルスの射程距離に入っている。が、ここで次のミサイルを撃っても、スーツに撃破されてしまうのは目に見えている。

 ステルスに搭載された空対地ハイパーソニックミサイルは四発。三発はスーツに迎撃されて失った。残っているのは一発。もう無駄には出来ない。


「私は戦闘作戦を立てるのは全くの門外漢だが、君の脳とリンクしている武器との状態はよく分かる」


「と、言うと?」


 脳内アームの操縦席の隣に座っているワンリンの顔に視線を流してキャサリンは尋ねた。

 レーダーパネルから顔の位置がずれないように、頭と身体は太いベルトで椅子に固定されている。だから動かせるのは眼球だけだ。

 ワンリンはキャサリンの脳波の数値に目を凝らして、ホログラムパネルに現れる複数のデータの照合をしながら言った。


「脳圧ストレス値は低位置で平衡を保っている。多少負荷は増すが、君の体調が許すなら、脳内アームを作動して、もう一機の攻撃機も操縦できるってことだ」


「戦闘機二機で、スーツ二体を撹乱(かくらん)することができるってことね」


「まあ、君の操縦テクニック次第ってところだが」


 あくまで皮肉めいた言葉を忘れないワンリンだ。目を素早く動かしてワンリンの横顔を一瞥してからパネルに視線を戻すと、キャサリンはうっすらと口角を持ち上げた。


「コンテナから予備のドローン・ステルスを出して頂戴」


 キャサリンの命令で巨大コンテナが大きく開口し、立脚したレールの上にステルス機が姿を現した。戦闘機の先端部が上に持ち上がり、六十五度の角度に固定される。


この世界(アフターエンドウォー)で体長十メートルのステルス二機が空を飛ぶってうのは、ちょっとした見ものだぞ。ニドホグの攻撃から生き残った連邦軍の奴らがまたパニックを起こして、戦意喪失してくれると面白いんだがな」


 パネルの上画面に数値と重なるように映った銀色のステルスの3D映像をワンリンが眺めいると、モニターパネルの右下の画面に緊急表示が赤色に点滅した。


「ん?」


 緊急表示を見たワンリンの顔が色を失った。


「た、た、た、大変だ!キャサリン、リーの生体反応が消えたぞっ」


「何ですって?!」


 キャサリンが鋭く聞き返す。慌てふためくワンリンに追い打ちを掛けるように、パネルの赤い点滅が二つに増えた。


「わあっ!ロドリゲスの生体反応もなくなった!こ、これは…二体とも、敵のスーツにやられたって事か?!」


 頭を抱えて狼狽えまくるワンリンの隣で、キャサリンはステルス操縦専用モニターを(まなじり)を上げて睨み付けた。

 ドローン・ステルスのジェットエンジンが点火して排気口から火が噴いた。

 爆音と共にステルス機が空に舞い上がる。

 キャサリンは脳内アームを後ろに引いてステルス機を上昇させた。


「連邦軍め!基地と一緒に一人残らず全滅させてやる」


 二機目のステルスは、あっという間に前線へと到達した。



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