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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
134/303

突き刺さる刃

機械兵器の戦闘シーンを書いていて、イーサン(深緑の機械兵器)とロドリゲス(真紅の機械兵器)がいつの間にか入れ替わっているのに気が付いて慌てて直しました。黒、銀、金、赤、緑と書いているうちに、こんがらがってしまいました。どうもすいません。

ネクスト・ウォーは戦闘シーンばかりになりますが、お付き合い下さると嬉しいです。


 真紅の機械兵器の大型銃剣を渾身の力で押し付けられて、ナナは頭の半分を砂に埋めていた。

 人工物ではあるが脳を備えた生体スーツは痛覚も持っている。

 頸部を圧迫されたナナの人工筋繊維が収縮するのと同時に、それを全身に纏って操縦しているリンダの身体も圧迫されていく。

 幸いだったのは、倒れた場所が砂だまりになっていることだ。

 硬い地面に押し付けられたなら、とうに首が押し潰されているのが、砂がクッションになってそれを防いでいる。

 だがそれも時間の問題だ。

 このままリンダが意識を失えば、機械兵器によってナナの首の神経と筋繊維が断ち切られ、人工骨がへし折られてしまう。

 リンダは必死でブレードを持ち上げようとした。だが、苦しさのあまり思うように腕に力が入らない。


「ううう、あああっ」


 最後の気力を振り絞る。食いしばった歯の間から、リンダが小さな唸り声を上げた瞬間。

 突然、ナナの喉元から強力な圧迫感が消えた。


「!」


 真紅の機械兵器の銃剣が力なくナナの喉元から滑り落ちた。

 リンダがナナの上半身を起こすと。機械兵器はナナに体を重ね合わせるようにしてゆっくりと前に倒れ込んできた。

 甲冑の化け物に覆い被されたリンダはその巨体の両肩を掴むと力を込めてナナから引き剥がした。

 砂地にどさりと音を立てて仰向けに横たわった機械兵器の頭部の真ん中に、大きな穴が開いている。操縦者を失った真紅の機械兵器の巨大な身体は微動だにしなかった。


「これは…」


 リンダは瞬時に全てを理解した。

 ナナを立ち上がらせて、拳銃を構えて立っているフェンリルに視線を向ける。


「すごいわ、ケイ!一発で、兜の中のサイボーグを撃ち抜いたのね!」


「今です!リンダさん、早くヤガタに戻って!」


「分かったわ」


 リンダはナナを四つ足走行モードに切り替えると、猛然と走り出した。

 近くにはナナを追う敵の機械兵器はいない。ナナは砂煙を上げてヤガタに戻っていった。


「ディオゴ―――!!」


 甲冑の頭部を撃ち抜かれて砂地に横たわるロドリゲスの機械兵器を呆然と見つめたのは、ほんの僅かな間であった。


「一刀両断にしてやる!」


 マクドナルドはフェンリルに向かってレイバントを突進させ、その頭上に剣を振り上げた。

 フェンリルが、目の前に迫ってきたレイバントの頭部に銃口を向けてトリガーを引いた。

 発射された銃弾はレイバントの首を掠って後ろに飛んで行った。

 二度目はなかった。トリガーを引くより早くレイバントの剣がフェンリルの頭上に落ちると気付いたケイは、銃を持った腕からブレードを出現させて頭上をガードした。

 ガシンという大きな音と共に、ブレードが長剣を受け止めた。

 レイバントの長い首がフェンリルの肩を覗き込むような格好になった。己を防御するブレードの脇からフェンリルの人工眼が捕らえたのは、マクドナルドがフェンリルに向かって手りゅう弾を投げつける姿だった。


「危ない!!」


 コンマ一秒で、両者は後方に飛び退いた。

 フェンリルの目の前で爆発が起こる。

 ブレードを翳して何とかフェンリルの顔を防御できたケイだったが、爆風を上半身に浴びて背中を砂地に叩き付けられた。

 マクドナルドは稲妻のようにフェンリルに駆け寄ると、防御する暇を与えずに、その腹目掛けて長剣を突き出した。

 レイバントの長剣(ソード)がスーツのプロテクターを突き破って、フェンリルの腹に深々と突き刺さった。フェンリルの人工筋繊維が断ち切られる。凄まじい収縮が起こって操縦席にいるケイの身体へと伝わった。


「ぐああああっ」


 ケイの喉から悲鳴が迸った。

 人工筋肉の強い収縮に全身が圧迫され、目の前が真っ赤になる。

 マクドナルドは突き刺した剣を腹から引き抜くと、今度はフェンリルの顔目掛けて長剣の切っ先を突き立てようとした。


『腹部中央筋繊維損傷度1』


 操縦席に警告音が鳴り、パネルの上にフェンリルの損傷部分が映し出された。筋繊維の束が一本完全に断ち切られているが神経線維までには及んでいない。

 ケイは痛みに歯を食いしばりながら、フェンリルのブレードの下の拳銃をレイバントに向けてトリガーを引き絞った。銃口から火が噴く。

 闇雲に引き金を引いただけであったが、銃弾はレイバントの胸に命中した。


くそ(シット)!」


 マクドナルドはフェンリルから飛び退いた。間合いを取って剣を構え直すと、ふらつきながら立ち上がったフェンリルに剣先を向けた。

 フェンリルがレイバントに向かって再び銃の引き金を引く。拳銃からはカチカチという音だけがして、銃弾は飛び出さなかった。


「弾切れだな」

 

 マクドナルドが片頬を上げる。


「だが、銃をまだ隠し持っていると厄介だ。さて、どうするか」


 レイバントがフェンリルに向かって走り出した。

 ブレードを構えたフェンリルを横から突き出した長剣で薙ぎ払う。長剣の防御で精一杯のフェンリル目掛けて今一度、手榴弾を食らわせた。


「また手榴弾か」


 手榴弾をレイバントに弾き返そうとして、ケイはブレードを伸ばした。

 ブレードの先端で手榴弾が爆発した。ボンという音と共に黒い硝煙が立ち上る。金属の破片が空に向かって吹き飛んだ。


「ああ、くそ!剣先が折れた!」


 爆発の衝撃でフェンリルがふらつく。その両足を安定の悪い砂地に必死で踏ん張らせる。


「灰色のスーツ、お前は許さん。ジェイスとディオゴを殺したお前を、このレイバントの剣で八つ裂きにして地獄へ送ってやる」


 前脚を軸にしてレイバントの巨体をぐるりと百八十度回転させ、マクドナルドはフェンリルの正面に向き直った。剣の柄を両手で持って漆黒の身に引き寄せ、切っ先をフェンリルに向ける


「今度はお前のどの部分にこの剣を突き刺してやろうか?腕か?脚か?それとも今度こそ胸を深く貫くか!」


 突進を開始したレイバントに、ケイは右手の刃先の折れたブレードで防御態勢を取った。


「拳銃の弾は切れた。剣先も折れている。あの長剣をどうやったら回避できる?ケイ、考えろ、考えるんだ!」


 恐ろしい勢いで接近して来たレイバントが、フェンリルの胸を狙って長剣(ソード)を突き出してきた。ケイは咄嗟にブレードの刃でフェンリルの胸を防御した。

 レイバントの剣先がブレードに当たって跳ね返ると思いきや、マクドナルドはレイバントの腕を捻って剣を素早く下に向けた。


「なに!」


 マクドナルドがフェンリルのどこを狙ったのか気が付いた時には、既に遅し。

 長剣はフェンリルの左脇腹に鈍い音を立てて深々と食い込んだ。


「う、ぐ、ぎいいっ」


 人工筋繊維が切断される激痛に、ケイの喉から喘鳴が漏れる。

 動きの止まったフェンリルをレーダー装備された人工眼に収めながら、マクドナルドは縦に突き刺した剣の刃をゆっくりと横に向けた。

 剣先からスーツの人工筋繊維が切断される感触が伝わってくる。


「手ごたえがあったな」


 マクドナルドはフェンリルの腹部から剣を引き抜いた。


「ぎゃあああっ」


 激痛をフェンリルの神経から受け取ったケイは、自分の脇腹を押さえて大きな悲鳴を喉から放っていた。


『左腹部筋肉繊維損傷度3神経線維損傷度1』


 フェンリルの人工脳が己の身体に受けたダメージを伝えてくるのをケイは朦朧と聞いていた。


「ふふふ。動きが止まったな」


 フェンリルの横を駆け抜けて距離を取ってから、レイバントがスーツの後ろに回った。

 生体スーツの両膝が砂地に落ちるのをマクドナルドは楽し気に眺めてから、長剣の柄をくるりと回して空中に大きな弧を描くとフェンリルに向かって走り出した。

 両膝を折ってしゃがみ込んでいるフェンリルの右膝目掛けて剣先を落とし、突き入れる。


「ぐわっ」


 三度目の激痛に襲われて、ケイは意識が朦朧としてきた。目の前が霞み、敵の機械兵器の位置が把握できない。


「うう…。く、そ」


 右脚と腹部に走る激痛を堪えながら、ケイは何とかフェンリルを立ち上がらせた。痛みで足元がかなりふらつくなか、必死でこじ開けた目をパネルに走らせる。


「スーツの神経はそれほど損傷は受けていない。大丈夫。まだやれる」


 損傷を知らせる警告音が操縦席に響くなか、フェンリルの両腕からブレードを突き出して、ケイは必死で防御態勢の構えを取った。


「隙だらけだ。もう戦えないか?灰色のスーツよ、お前の操縦席のパイロットをこの長剣(ソード)で串刺しにして息の根を止めてやろう」


 レイバントが右腕に持った長剣の先で空を指してから、フェンリルに向かってゆっくりと動き出した。

 マクドナルドの人工眼が赤外線感知レーザーを使って、フェンリルの操縦席の場所を特定する。鎧で覆われた胸の中央にパイロットがいた。マクドナルドの人工眼に組み込まれている生物反応装置(バイオリアクター)は、パイロットがまだ生きていることを表示している。


「そこか。きさまがジェイスとディオゴを粉々にしたように、私もお前の身体もこの剣で原型を留めないくらいに破壊してやろう」


 マクドナルドは長剣(ソード)を大きく一振りすると、フェンリル目掛けて突進を開始した。


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