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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
133/303

銃口の向く先


「ロウチ伍長。状況を報告せよ」

 

ブラウン中佐の緊迫した声がビルのイヤホンに響いた。


「こちらビッグ・ベア。敵のレーザー銃と機械兵器一体を破壊しました。スーツは大した損傷を受けていませんが、携帯した銃機の弾薬が全て底をつきました。武器はブレードのみです」


「そうか、分かった。そちらからも確認出来ているだろうが、ヤガタに大量のドローンと新型戦車、それから機械兵器一体が接近している。上空から攻めてくるドローンは三十秒程で我が軍の戦闘陣地に侵入。敵戦車は五分以内に対機甲突撃破砕線の傭兵隊と接触、戦闘となる模様。ビッグ・ベアは直ちに前線にいるハイネ中隊と合流し、基地防衛に当たれ」


了解しました(イエス・カーネル)。ビッグ・ベア、直ちにヤガタに帰還します」


 ビルは通信を切ると直ちにヤガタへとビッグ・ベアを向けた。スーツを人型から獣型に変えて、四足走行を開始した。


 大地から砂を噴き上げるようにビッグ・ベアを走らせるビルは、ナナとフェンリルが残った機械兵器と戦闘を繰り広げているであろう砂漠に目をやった。

 幾重にも隆起した砂山が邪魔をして、スーツも敵の機械の姿も見えない。ヤガタの管制塔にいるボリスからビルに連絡が入った。


「弾薬が切れたってね。補充の為の戦闘車両を一台、十一時の方向に向かわせる。ビッグ・ベアをそっちへ走行させろ」


「了解しました。ボリス中尉!ナナとフェンリルの戦闘状況はどうなっていますか?」


「彼らは機械兵器二体と戦っている。かなり強敵そうだが、何とか凌いでくれてるよ」


「そうですか」


 ビルは通信を切った。

 ビッグ・ベアの弾丸が尽きているのを鑑みれば、ナナとフェンリルの重火器も使用不能になるのは時間の問題だ。

 応戦しようにも銃は使い物にならず、スーツは今すぐヤガタに戻して進攻を開始した敵戦車を撃破するのが最優先だ。ビッグ・ベアを高速度で駆らせながら、ビルは叫んだ。


「リンダ!ケイ!武運を祈るぞ!」

 



 ナナが頭上を見上げると、黒の機械兵器(レイバント)長剣(ソード)が刃を光らせて落ちて来た。

 咄嗟に右腕に携帯している機関銃を振り上げてスーツの頭を庇おうとした。ガキンという金属の音がして腕に衝撃が走る。リンダは右の中指と人差し指に激痛を感じた。機関銃と一緒にナナの指がレイバントの長剣によって切り落とされたのが分かった。体勢を戻す暇のないナナに、再び剣の切っ先が迫っていた。

 今度は頭を串刺しにするつもりのようだ。そのあまりの速さに、リンダはナナが回避不能だと分かった。


(やられるっ!)


 リンダは思わず目を閉じた。ナナの頭が黒い怪物の剣で真っ二つに叩き割られ、自分のいる操縦席まで達するのを覚悟する。

 ガキンと重い金属音が頭上で響いた。

 破壊の衝撃は襲ってこなかった。瞑った目を開けると、ナナの上にフェンリルがいた。

 ブレードの太い(やいば)がレイバントの剣をがっちりと受け止めている。フェンリルの下にいるナナが左手で拳銃を構えて至近距離から四つ足を撃った。


「ちいっ」


 身を翻す間もなくレイバントの胸を撃たれたマクドナルドは忌々し気に舌打ちして、ナナとフェンリルから素早く己の機械兵器を引かせた。


「リンダさん。まだ銃が使えるうちに早くヤガタまで撤退して下さい。ここは俺一人で何とかしますから」


「分かったわ。ケイ。後は任せる。あなたなら、この化け物を一人でも倒せるわ!」


 リンダは睨み合っているレイバントとフェンリルから距離を取ると、ナナの身体を獣型(じゅうがた)に変身させて撤退を開始しようとした。四本足になったナナに向かって真紅の機械兵器が大型機関銃を向けた。


「逃がしゃしないぜ!」


 機関銃を掃射し始めたロドリゲスに、ナナは目にも止まらぬジグザク走行で弾を回避しながら後退を始めた。


「ロドリゲス!俺はこの灰色のスーツを始末する。お前はその手負いのスーツを破壊しろ」


了解しました(アイ・ガット・イット)!」 


 リンダはナナを後方に飛び退かせ、砂地に着地させた。後ろ足が砂を踏んだと思った瞬間、再び前足に銃弾を浴びた。ぎりぎりの距離で(かわ)して後方へと飛ぶ。


「おい、てめえ!俺と戦う気はないってか?」


 ロドリゲスが唸り声を上げて右腕と一体となった大型機関銃をグレネードランチャーに変え、ナナ目掛けて撃ち放した。

 リンダはナナの身体を翻らせてロドリゲスの攻撃を躱そうとした。だが、右足指を失ったスーツは完璧なバランスを保てずに、砲弾を回避する動きが僅かに遅れた。

 ロドリゲスの放った砲弾がナナの肩を捕えた。

 肩を(えぐ)られた衝撃で、ナナが仰向けになって後ろに倒れる。ロドリゲスは素早い動きで己の機械兵器を倒れたナナに乗り上げた。

 ナナの両足を両方の膝で挟み込んで、がっちりと固定する。

 リンダはナナの猫型の前足を素早くヒト型に変形させてブレードを出現させ、真紅の機械兵器の顔の中央、ロドリゲスのサイボーグの身体に向かって突き出した。

 ブレードの切っ先がロドリゲスの本体を貫くより早く、大型拳銃に装着してある鮫の歯のような銃剣の刃がナナのブレードを弾いた。


「ちょこまかと動きやがるのも、これで最後だ!」


 無防備になったナナの首目掛けてロドリゲスが銃剣を下ろす。

 ナナは弾かれたブレードの平面を銃剣と首の間に差し込んだ。間一髪でナナの首が叩き落されるのを防ぎ、そのまま必死で防御した。


「往生際が悪い奴だ。きさまのことは楽に死なせるつもりはねえから、それでいいんだがな。このでかい銃剣で喉をゆっくりと押し潰してやるぜ!」


 ロドリゲスは銃口になっている右腕の先を左手で掴むと力を込めた。

 ナナは喉に己のブレードを押し当てられて、完全に身動きが取れなくなった。


「くぅっ」


「リンダさん!」


 ケイはナナを助けようと真紅の機械兵器に拳銃を向けた。

 途端にレイバントの剣の攻撃を受けて照準を妨げられる。


「くそっ」


 目の前で数字の八を連続して描きながら攻めてくるレイバントの剣先から飛び退くと、ケイはレイバントに拳銃を向けた。黒い機械兵器は素早い動きでフェンリルから間合いを取って、再び剣を構え直した。


「こいつを撃っても、長剣で全て防御されてしまう」


 ならば。

 フェンリルは左手のブレードを出現させた。前に構えてレイバントに突進する。


「発砲を止めて、接近戦に切り替えるか?」


 マクドナルドは突進して来たフェンリル向かって長剣を突き出した。

 フェンリルが右に体を寄せてレイバントの切っ先を(かわ)す。

 スーツに己の振るった剣が右へと躱されると先を読んでいたマクドナルドは、フェンリルの肩に刃を乗せるようにして長剣を移動させた。

 フェンリルの首に刃が届く前に、ケイは左のブレードでレイバントの攻撃を防御した。

 ブレードと長剣(ソード)が激しい音を立ててぶつかり合った。

 レイバントが二本の前脚を持ち上げてフェンリルに蹴りを食らわせた。仰向けになって砂の上に吹っ飛んだフェンリルが体勢を立て直そうと片膝を付き上半身を持ち上げた瞬間、レイバントの長剣が上から降ってきた。

 ケイは右のブレードを出現させて頭の上でクロスした。

 打ち下ろされた長剣の衝撃が凄まじい。


「くそっ、こいつ、とんでもない(パワー)だ」


 剣を引いたレイバントがフェンリルから飛び退いた。

 体勢を整えると、未だ立ち上がることのできないフェンリルの頭上に、再度、剣を打ち下ろそうとする。

 死に物狂いでレイバントの前脚目掛けて蹴りを入れた。運よく右脚にヒットして、レイバントの体勢が僅かに崩れた。

 長剣がフェンリルの肩を掠って大地に叩き込まれる。フェンリルの身体を横に回転させてレイバントから距離を取った。

 剣を突き入れようと迫ってくるレイバントから再び距離を取ると、ケイはフェンリルの両手両足を獣型に変身させた。


「足だけ獣型になってどうするつもりだ?隙は与えんぞ」


 マクドナルドが接近する。フェンリルがさっと飛び退く。剣が届かないように一定の距離を取って逃げ回るフェンリルに、マクドナルドが舌打ちした。


「灰色のスーツめ!お前は一体、何をやっている?」


 苛立ったマクドナルドが接近戦を仕掛けて剣を振り上げる。

 フェンリルは、振り降ろされた刃がスーツに叩き込まれる前に、大きく左後ろに飛び退いた。狼の足を人型に戻して立ち上がる。肩の高さで水平にした右手も人型に変わる。

 人と狼が継接ぎになったスーツの姿にマクドナルドは呆れた。


「何だ?その恰好は」

 

 見ると、フェンリルの手にはさっきの拳銃が握られている。その方向は。


「しまった!」


 マクドナルドが部下の名を叫ぶ前に、フェンリルの拳銃が火を噴いた。



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