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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
132/303

ビッグ・ベアvs金色の機械兵器


 戦域の空を、ヤガタに向かってドローンが飛んでいく。地表にはアメリカ軍の戦車が砂を巻き上げながら隊列を組んで進撃していく姿が見える。


「くそっ。こんな場所に縛り付けられて、銃撃ってる暇なんかねえんだよ!」


 ビルは叫びながら機関銃のトリガーを引き絞った。


 金色の機械兵器の連射が止まった。


「そっちが先に弾切れか」


 ビルが勝ち誇ったようにトリガーに掛けたビッグ・ベアの指に力を込めた。カチリという音だけがして、自分の機関銃からも弾が出なくなった。


「くそっ!こっちもか」


 ビルは舌打ちして機関銃を足元に放り投げた。狙撃銃もグレネードランチャーもとっくに弾が切れている。使える武器は両脚に仕込んである二丁の拳銃と、両腕のブレードだけとなった。


「この距離だと拳銃を撃っても無駄玉にしならないな。接近戦に持ち込むしかないか」


 新たな敵が接近して来る警戒音がビッグ・ベアの操縦席に鳴り響いた。


「何だ?」


 金色の機械兵器の頭上に、黒い飛行物体が一機姿を現した。ヘリコプター型のドローンだ。隊列から離れて応戦へと駆け付けたらしい。

 味方の援護を得て、砂地に腹這いになっていた金色の機械兵器が立ち上がった。

 手に持ったライフルと迫撃砲を地面に投げ捨て、右の腰から(つか)のようなものを引き抜いた。

 大きく一振りすると、柄の根本より先の方が広がった大きな(やいば)が現れた。

 戦域の青い空の下、強力な太陽光を受けて白く反射する大刀を、ビルは目を(すが)めて凝視した。

 刀の出現が合図のように、金色の機械兵器の上で弧を描きながら飛ぶドローンが一直線にビッグ・ベアへと向かって来た。


「ドローンの機関銃でビッグ・ベアを穴だらけにしてから、機械兵器の大刀でぶった切るつもりだな」


 ドローンが機関銃を連射した。地面に銃弾が叩きこまれ、恐ろしい速さで砂柱が立ち上がる。

 ビルは目にも止まらぬ動きでビッグ・ベアの身体を捩り銃撃を避けると、拳銃をドローンに向けて引き金を引いた。

 後方からスーツの攻撃を受けたドローンが急旋回して拳銃の弾を回避した。再びビッグ・ベアの正面に機関銃の銃口を据えて撃ち放つ。


「くそ。意外と素早く動きやがる」


 背後に気配を感じて振り返ると、金色の機械兵器がビッグ・ベアの頭上に向かって大刀を振り下ろそうとしているのが目に入った。

 ドローンとの戦闘に気を取られた数秒間に、機械兵器に高速走行で接近されたようだ。


「うおっ」


 ビッグ・ベアは身体を横になぎ倒すようにして大刀から逃れた。

 ザクッと音がしてすぐ目の前の砂地に刀の先端がめり込んだ。

 至近距離でビルは金色に向かって拳銃の引き金を引いた。金色はその銃弾を大刀を盾にして難なく防ぐと、大刀の背でビッグ・ベアの右手を殴り拳銃を叩き落とした。

 稲妻のような速さで柄を持ち替えると、ビッグ・ベアの腹目掛けて大刀の刃を左から右へとスライドさせた。


「うわ!あぶねえ!」


 ビッグ・ベアの腹を九の字に折り曲げて、ビルは辛うじて攻撃を(かわ)した。そのまま砂地に尻をつくような格好から両足を後ろに振り上げ、回転を掛けて後方に飛び退いた。


「ふん。無様な逃げ方をする奴だ。だが、いつまで持つかな?すぐに俺の青龍刀の餌食にしてやる」


 ビッグ・ベアに立ち上がる隙を与えずに、リーがその頭上に再度大刀を振り下ろした。

 派手な金属音がして、大刀の切っ先が弾かれたように持ち上がった。


「何?」


 ビッグ・ベアの右腕からブレードが突き出ているのを目の当たりにしたリーは、間合いを取る為に、うしろに跳び退(すさ)った。


「なるほど。あの灰色と同じく、お前の腕にもブレードが仕込んであるのか。だが、その短いブレードが俺に届くかな?」

 

 リーはにやりと笑って大刀を振り回し始めた。

 ビルがビッグ・ベアの腰を引く落としてブレードを構えた瞬間、後方で空中停止していたドローンが銃撃を始めた。

 ドローンの攻撃をすでに予測していたビッグ・ベアが、身体に銃弾を受ける前に斜め後方に飛び退いた。

 機体をスーツへと傾けて連射を続けようとするドローンに、左脚から取り出した拳銃を向けた。


「しまった!もう一丁拳銃を隠し持っていたのか!」


 リーがビッグ・ベアに接近して青龍刀を振う前に、ビルは引き金を引いていた。

 プロペラの一枚がはじけ飛んだ。プロペラを破壊されて失速したドローンは急降下して、砂地に激突して爆発炎上した。


このクソ野郎が(バスタード)!!」


 リーが腕を突き出してビッグ・ベアの上半身に押し当てるように大刀の刃を振るった。

 ビッグ・ベアの人工脳が瞬時に計算した間合いを取って、ぎりぎりで青龍刀を回避する。青龍刀の切っ先がビッグ・ベアの胸元を掠っていった。

 操縦席に座っているビルの胸に、刃物の先が一文字に横切っていく感覚が襲った。その生々しさに全身に汗が噴き出す。


「ふう。危ない、危ない」


 ビルは片頬を引き攣ったように持ち上げてにやりと笑った。

 逸らした腰を元に戻し、右腕のブレードの先を金色に突き出して正面から接近した。


くそっ(ダム・イット)


 リーはビッグ・ベアの接近を阻止しようと、大きく青龍刀を左右に振るう。

 ビルはビッグ・ベアの上半身を九十度に反らすと、宙に大きく数字で八の字を書く金色の大刀を回避した。


「なかなかやるな」


 着実に距離を詰めてくるビッグ・ベアに向かって、金色は両手で柄を握りしめて大刀の切っ先を突き出し始めた。ビッグ・ベアの右腕ブレードでリーの突きを全て回避しながら、ビルは左腕の拳銃の残った弾丸を金色の機械兵器に発射した。

 至近距離で撃ったものの照準が激しくぶれたせいで一発しか命中しない。

 当たった弾も致命傷にはならなかった。ビルは銃弾の空になったを拳銃を投げ捨てた。


「さすがに飛び道具は使い果たしたようだな。剣での戦いなら俺の方が上だ」


 リーは左の片手片足を折り曲げてから素早く大刀の切っ先をビッグ・ベアに向けた。

 大刀を腕ごと頭上に持ち上げる。それからビルが見たこともない構えを取ると、ビッグ・ベアに勢いよく刃を繰り出した。


「うわあ、なんだこりゃ。これって、剣術なの?!」


 ビルは金色から突き出される刃から逃れる為に、ビッグ・ベアの身体を右へ左へとくねらせた。見たこともない中国剣法の攻撃を食らって、ビルは必死で逃げ回った。


「気持ちの悪い動きで身を躱してばかりいないで、少しは向かってきたらどうだ?」


 リーが機械兵器の身と共に青龍刀を一回転させてから、ビッグ・ベアに切りかかってきた。

 ブレードで何とか刃を受け止めたものの、回転を掛けた青龍刀の攻撃の威力は凄まじかった。あまりの衝撃に尻もちをついたビッグ・ベアに、間髪入れずにリーが大刀を振り下ろす。

 ビッグ・ベアの頭を叩き割られる寸前で、ビルはブレードの刃を横に倒して防御し大刀を受け止めた。


「うっ、くそっ」


 リーは身動きの取れなくなったビッグ・ベアの身体を力を込めて蹴り飛ばした。

 ビッグ・ベアの十メートルの巨体が、背中で砂を巻き上げながら砂地を滑っていく。


「これで最後だ。お前の喉を切り裂いてお終いにしてやる」


 倒れたままのビッグ・ベアに、リーが躍り掛かった。

 ビルは必死でブレードを動かして防御し、青龍刀の刃がビッグ・ベアに届くのを防いだ。

 甲高い金属音を立ててブレードと青龍刀の刃が重なった。

 リーが刃を後ろに引こうとするのを、ビッグ・ベアは左手の指で刀の切っ先の幅の広い背の部分をがっちりと摘んだ。

 そのまま自分の身体に引き寄せるように後ろへと腕を引き、左脇に刀を挟み込む。


「なに?」


 驚いたリーは、ビッグ・ベアから青龍刀の自由を取り戻そうと、(つか)を掴んだ両手を上下に振り回そうとした。

 だが、万力(まんりき)に挟まれたように青龍刀は動かない。ビルは脇の下に大刀を挟み込んだままビッグ・ベアを立ち上がらせた。


「くっ」


 腕と平行になった青龍刀をビッグ・ベアから一気に引き抜こうとして、リーは金色の機械兵器の腕を思い切り後ろに引いた。

 後ろに引いた瞬間、ビッグ・ベアが脇を開いて大刀を解放した。

 金の機械兵器がバランスを崩し、後方へと足を大きく二歩、後退させた。青龍刀から左手が離れ、右手を上に向かって振り上げた。大刀の切っ先が空に向く。


「今だ!」


 その瞬間を逃さなかった。稲妻の如く金色の機械兵器の懐に、ビッグ・ベアが飛び込んだ。


「しまった」


 リーは手に持った長い青龍刀を振り下ろすことが出来ずに、ビッグ・ベアの首と顎に左手を突き出してその身体を退けようとした。


「そこだ」


 ビッグ・ベアはブレードで金色の左腕を串刺しにして、その刃を力いっぱい持ち上げた。

 金色の腕が、第二関節の下から縦に切り裂かれた。


こんちくしょう!(ファック・ミー)


 青龍刀の持ち手を変えて、自分の機械兵器と腹を合わせた格好で立っているビッグ・ベアの背に、リーは刀の先を突き立てようとした。


「させるかよ!」


 ビルがビッグ・ベアの上半身を大きく捩じった。

 機械兵器の青龍刀はビッグ・ベアの脇腹を掠って、自分の腹部へと刃を突き刺した。

 金色の機械兵器は渾身の力を込めて己の身体から刀を引き抜こうとした。

 隙だらけとなって砂地に立っているだけの機械兵器を、ビルはビッグ・ベアの顔のすぐ前にある機械兵器の頸部にブレードの刃を立てて一気に切り裂いた。

 機械兵器の胴体から、兜がぐらりと横に傾いだ。その首が砂地に落ちる。

 自分の足元に落ちた兜の中身目掛けてビルはブレードを突き刺し、そして引き抜いた。

 

 小さな爆発が兜の中で起き、頭部を失った金色の機械兵器の巨体が砂地の上にゆっくりと崩れ落ちた。



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