表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
131/303

侵入成功

ブクマありがとうございます!

第四章のネクスト・ウォーから戦闘シーンに入りましたが、これからが本番なので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)> ディストピアに向かってどんどん突き進むので、楽しみにして頂けたら幸いです。

そう!実はまだ、ディストピアに入っていないという衝撃の事実…。


 最初にキキ、次にガルム1が、開き切った巨大な円の淵に手を掛けて基地の中を覗き込んだ。

 キキとガルム1ののモニターが、ダガーの姿を映し出す。


「軍曹!ご無事でしたか!」

 

 ダガーはガルム1に向かって手を上げると、人差し指を立ててから下に向けた。降りろとの合図だ。


「結構な高さですね。三十メートルはある」


「スーツにはなんてことない高さでしょ。行くわよ、ジャック」


 ダガーの合図に、キキが円蓋と岩盤の隙間に鋼鉄のザイルを結んだ(ピトン)をしっかりと差し込んでから、両足の間に通したザイルを胸の前に通して肩に回した。

 右に機関銃を携帯し左手にザイルを掴んで円蓋の中へと飛び降りる。

 垂らしたザイルを両足で挟み込んで左手でスピードを調節しながら下降し、中心部の黒い円の上に静かに降り立つ。すぐにガルム1がキキの後に続いた。

 二体のスーツが降り立ちダガーを見下ろした。

 ダガーの頭と顔、それから上半身が血塗(ちまみ)れの姿を見て、恐怖でジャックが息を飲み、ハナは忌まわしそうに眉を顰めた。


「軍曹、その姿は…。お、お怪我は、ないんですよ、ね?」


「ああ。至近距離で敵兵を撃ったので、返り血を浴びただけだ」

 

 恐る恐る聞くジャックに、ダガーが無表情で返した。


「それにしても、随分と鬼気迫る姿になりましたね。さすが、切り込み部隊を務めたら右に出る者はいないと言われた元ハイネ傭兵団の出身ですね。その中でもレント率いる小隊の残虐さは父から伝え聞いておりますが、寒気がするほどだったわ。それで、一体、何人殺したんですか?」


 ハナの皮肉満載の言葉を無視して、ダガーは二体に命令した。


「リンクスを降ろす。ハナ、ジャック、中央の場所を開けろ」


 ダガーはリンクスの自動操縦モードのボタンを押した。すぐに天井の淵に姿を現したリンクスが躊躇なく飛び降りる。体を捩じように一回転させてから轟音を響かせて着地した。


「ひゃあ、こりゃまた派手に降りやがった」


 ジャックが呆れた様に呟き、ハナが肩を竦める。ハナはキキの足下の黒い部分を指差した。


「見て。ここにもグラフェン炭素化合物の円蓋があるわ。基地はこの下にあるってことね」


「どうやらそうではないらしい」


 屈んでいるリンクスによじ登ると操縦席の扉を開きながらダガーはハナに言った。


「上の蓋を開けるために一人生かしておいた兵士から聞いた。そいつは、ここは基地の入り口ではなく、ミサイルの発射口だと言っていた」


「ええっ!俺達の足の下にミサイルがあるんですか?!でも、ユラ・ハンヌはここがアメリカ軍基地に通じる入口だって言ってましたよね?この円蓋の下に本当にミサイルが格納されているとしたら、万が一爆発事故を起こした場合、基地周辺に影響がないようにしなくちゃいけない。だとしたら、基地から一番離れた場所ってことになりますよ?!」


 ジャックの戸惑った声に、ハナが苛立たしげに語気を強めた。


「あのガグル社の食わせ者、私達にこの下にあるミサイルを爆発させる為に、わざとこの場所を侵入経路に指定したってことかしら?」


「上の蓋を開けたと同時にアメリカ軍は異変に気付いたと思いますよ。すぐにロックされて、ここの手動レバーでは下の蓋は開かないでしょうね。これだけ大きな発射口となると、長距離を飛ぶ大型ミサイルだろうから、爆発させればこの山の上半分は吹き飛ぶかも」


 リンクスのハッチを閉じたダガーはリンクスの人工脳同期装置を急いで装着した。


「憶測は後にしろ。天蓋を開けると自動的にアメリカ基地中央の管制室にすぐに緊急連絡が入るそうだ。敵排除に向けて機械兵器が押し寄せてくるぞ。スーツ三体が侵入してから二分四十秒が経過している。敵はすぐそこまで迫っている筈だ。すぐに戦闘態勢に入れ」


 ダガーの声にキキとガグル1は機関銃を構えた。スーツのセンサーが敵の姿を捕えたのだ。

 その距離は巨大な鋼鉄の扉の先、二メートルもない。黒い円の上から三体のスーツが飛び退(すさ)って、巨大な岩の柱に身を隠した。


「十二時の方向、鋼鉄製上下開閉扉の向こうに接敵感知!複数います」


「来るぞ!」


 鋭い金属音を立てて巨大な鋼鉄の一枚扉が持ち上がった。

 入り口には濁声のアメリカ兵が言った通りに、機械兵器がひしめいている。頭が小さく胴体が棒のように細い。形からして完全自律起動の兵器のようだ。腕と一体となった機関銃で機械兵器が一斉射撃を開始する前に、リンクス、キキ、ガグル1が機関銃のトリガーを引いていた。

 一番手前の機械兵器がスーツ三体の放った銃弾をまともに浴びて、その腹から火を噴いて爆発した。

 黒い煙と共に火炎を吐く味方の残骸の両脇から、機械兵器が一体ずつ姿を現した。

 キキの機関銃がその頭部の赤く光るセンサーを素早く撃ち抜く。二体は爆発せずにその場に崩れ落ちた。

 味方の機械兵器に入り口を塞がれた格好になった機械兵器達は、壊れた仲間を盾に一斉に機関銃の連射を開始した。弾はコンクリートの巨大な柱に当たり、無数の穴を穿った。


「奴ら、岩盤が崩落するのを恐れて砲弾を使わないようだ。ジャック、入り口を潰さないように、(たむろ)している機械兵器どもにロケットランチャーをお見舞いしてやれ」


了解(ラジャー)です」


 ジャックはガルム1の身を低く屈めさせて背中からロケットランチャーを引き抜いた。

 砲身を入り口の床から一メートル上にロックオンさせる。引き金を引くと、入り口を塞いでいる壊れた機械兵器へと吸い込まれていった。

 扉の向こうでいくつもの爆発が起こった。数体の機械兵器が吹き飛んだのだ。

 しかし、すぐさま別の機械兵器が姿を現して、スーツに機関銃を撃ち放ってきた。


「これじゃ消耗戦になりますよ。あいつらの方が圧倒的に数が多い。弾丸が尽きたらこっちが一気に不利になる」


 ジャックの叫び声に、ダガーが反応した。


「俺が先陣を切って突入する。援護しろ」


 リンクスが柱から全身の姿を現すと、機械兵器はそちらに向かって一斉に銃身を向けた。

 機械兵器が撃つより早く、キキとガグル1は目にも止まらぬ速さで敵のセンサーを撃ち抜いていく。ジャックが愉快そうに口角を持ち上げた。


「兵器の機械脳ってのは、反応を早くするために思考能力は単純化されているからな。全部が全部リンクスに銃身を向けるから、こっちは撃ち放題ってわけだ」


 リンクスは脚に装着してある拳銃を引き抜いて、入り口から飛び出してくる機械兵器の頭を撃ち抜き排除しながら扉の内側に侵入した。


 高さ十メートル間口は五メートル程度の入り口から中に入ると、空間が一気に広がった。

 幅は三十メートル天井は二十メートルくらいある巨大な通路になっていて、一直線に内部へと続いている。


「機械兵器用通路か。取りあえず、ここがアメリカ軍基地内部の一番端ってことか」


 すごい勢いで飛び込んで来た生体スーツに、敵であるリンクスと接近し過ぎた機械兵数体が同士討ちを避ける為に後方に下がろうとする。

 機械兵器の銃口が下を向いたのを見逃さなかった。ダガーはリンクスの拳銃をすぐに右脇にいた機械兵器の頭部に押し当て引き金を引いた。

 機械兵器の頭が粉々になって吹き飛ぶ間に、左手のブレードで機械兵器二体の頭をはねた。

 キキとガグル1もリンクスの後に続いて侵入を開始した。

 横一列に並んで射撃を繰り返す機械兵器に、スーツの機関銃の連射をお見舞いする。

 リンクスは床を蹴って飛び上がった。

 銃弾を撃ち放っている機械兵器の中へ上から飛び込むと、片足を軸にしてブレードを突き出したまま身体を一回転させてた。

 リンクスを取り囲むように立っていた機械兵器が、頭や胴体を切り裂かれて崩れ落ちる。


「しかしまあ、次から次へと虫みたいに湧いてきますね」


 リンクスに倣ってブレード攻撃に切り替えたジャックが、呆れた声を出した。


「機械兵器の戦闘方法を私達が完全に見切っていることを遠隔操作している人間が知るのは、時間の問題だわ。そうなったら、アメリカ軍はどんな兵器を持ち出してくるのやら」


「本当だ。ハナさんが言っているそばから、奴ら後退を開始しましたよ」


 スーツ三体の前で、残った機械兵器がカニのように身を屈めてスーツに銃を向けたまま、素早く後退を始めた。二十メートルほど後退してスーツから距離を取ったと思うと、天井から鋼鉄板が落ちてきて入り口を塞いだ。


「入り口を塞がれたな」


 ガグル1は頭を掻きながら防火扉の分厚い鋼鉄板を眺めた。


「ただの分厚い鉄板だ。砲弾で簡単にぶち破れるさ」


「ただの分厚い鉄板でも、枚数があると結構時間取られますよ」


 ダガーの言葉を斜に構えた態度で受け流してから、ハナは低い声で警戒するように言った。


「確かにハナの言う通りだ。それに、防火扉を落としたのも、攻撃体勢を立て直す為だろう」


 ブレードを構えたまま、リンクスはがらんとしてしまった巨大な通路を見渡した。


「俺達に機械兵器を試し切りさせて、スーツの攻撃データを収集していたってことですかね?」


 そう言って、ジャックはガルム1で天井を指差した。


「その可能性は大いにあるわね」 


 天井に設置されている監視カメラを、ハナはキキの拳銃で撃ち抜いた。


「軍曹。アメリカ基地のどこいら辺まで内部に侵入して破壊すれば、俺達のミッションは遂行できるんでしょうか?」


 ジャックの問いに、ダガーがリンクスの大きな手で扉を叩きながら答えた。


「そうだな。ここで終わりとはいかないのは確かだ。もう少し先へと侵入して基地内部の主力電源の一部でも破壊しないと、基地にダメージは与えたことにはならないだろうな」


 ジャックとダガーの行き当たりばったりのやり取りを聞いたハナが、またもや「計画性なし」と、忌々しげに息を吐いた。


「軍曹、この通路をまっすぐ行けば、主力電源とやらに突き当たるんですか?」


「そうだ、いい考えがありますよ!」


 ジャックが嬉しそうな声と共に、リンクスに真っ二つにされた機械兵器の上半身をガルム1に持ち上げさせて、その頭を指差した。


「こいつら、完全自動でしょ。数も多いし、電力が少なくなれば充電しに自分で電源元に戻っていくように設定されてるんじゃないかな。この機械頭のなかには充電場所がインプットされている筈ですよ。これだけの大型機械兵器を数多く動かしているんだ、かなり大きな電力が必要です。基地内に発電所がいくつかある筈だ。そこの一つを叩けば、機械兵器を動かせなくなる。そうなったらアメリカ軍だって結構痛い思いをするでしょうよ」


「よし、それで決まりだな。ジャック、早く発電所そのを調べろ」


 ジャックはダガーの命令より早く、機械兵器のひびの入った平たい金属の頭部を、ガルム1のブレードの先を使ってを使って器用に開けていた。金属部分を取り除くと、センサー眼を中心にして細かな基盤が整列するように無数に取り付け立てある。ジャックはそのなかから一枚の基板を上手に剥がしてガルム1の掌に置いた。


「こいつが持っている発電所の情報を三体の人工脳にインストールして共有させるには、俺がガルム1の外に出て直接操作しないと無理ですが、どうします?」


「時間がない。ガルム1だけに情報を持たせる」


「了解です」


 ジャックはスーツの掌にあるコンピュータの基盤をガルム1の人工眼を使って人工脳に記憶させた。

 すぐに通路の見取り図を三次元映像に変換して起動させる。ジャックの目の前のパネルにその通路が映し出された。


「分かりました。機械兵器の電源と繋がっている発電所は、ここから一キロ内部にあります。これは多分、機械兵器とその周辺機器が使用している地下発電所だな。残念ながら、基地中央の動力源とは分離されているかもしれませんが」


「それでも、そこを破壊すれば、アメリが軍にとって大打撃となる。まずはあの防火扉を()ち破る」 


 ガルム1が片足を床に付けて肩にグレネードランチャーを乗せた。

 引き金を引こうとしたまさにその時、巨大な防火扉がゆっくりと持ち上がった。


「こいつは…」


 初めて目にする大型の機械兵器が一体、両手に武器を持って仁王立ちする姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ