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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
130/303

単独突入・3


「返事をしないか、ローランド!」


 半ば縋るような声を最後に、兵士達は息を顰めた。

 ようやく自分達が総出で名を呼ぶ兵士が侵入者に殺されたと悟ったようだ。

 敵から死角になる柱の角度に身体を密着させて低く屈んだまま、ダガーは腕の時計を見た。

 十五分が経過している。階段を降りるのに時間を消費したせいだ。


(時間が押してるな。こちらから先に仕掛けるか)

 

 ダガーは最初に身を顰めていた柱の隅に設置してきた自動式発煙筒の遠隔スイッチを押した。派手に白煙を吐きながら、発煙筒が柱の陰から転がり出ていく。


「煙だ!」

 

 兵士が叫んだ。


「発煙筒を使いやがったな」

 

 別の兵士がひっくり返った声を出した。


「非常階段前の柱だ」


 濁声の兵士が、がなり立てた。


「奴ら、正面の柱の後ろにいるぞ!左右二手に分かれて、柱伝いに回り込んで掃討しろ!」


 濁声の命令と共に、ダガーの死角にいた兵士が、白い煙が薄く広がる空間の中、機関銃を構えながら右と左に分かれて飛び出してくる。

 ダガーは隠れていたコンクリート柱の防護壁から姿を現して、左から接近してくる兵士にブローニングの弾六発を、右側から回り込もうとした兵士にはアサルトライフルを掃射すると、再び柱の陰に身を隠した。


(手前の柱は四人。入口から右の柱は二人か。少なくとも半分は戦闘不能にした) 


 柱に隠れる直前、崩れ落ちる敵兵の姿をダガーは確認していた。ブローニングに弾を装填してホルダーに差し込んでからアサルトライフルのスリングを肩から外して銃口を前に向ける。


「誰もいないぞ!」


 ダガーが撃ち損じた二人の兵士が、右の柱の死角を見渡してから叫んだ。


「こっちもだ!」左から前進した兵士も大声を上げる。


「階段の脇の柱に隠れているぞ!」柱から顔を半分覗かせた兵士が叫んだ。


「おい、じゃあ、敵は一人ってことか?」


「何にしても、袋の鼠だ。奴をぶっ殺せ!」


 大勢の仲間を撃たれて怒り狂った六人の兵士がダガーを追い詰めようと一斉に動き出した。

 四人が前方の柱の右と左の二手に分かれてマシンガンを連射する。

 敵からの銃撃を避けるべく、ダガーは壁側の柱の位置から左に移動した。最初に身を隠した柱には敵兵二人が張り付いている。


「いたぞ!」


 目の前の柱から姿を現したダガーに兵士が叫び声を上げながら機関銃の銃口を向けた瞬間、二人の頭のすぐ上で爆発が起こった。

 ダガーが張り付けておいた超薄型爆弾がさく裂したのだ。爆発音と共に二人の肩から上が吹き飛んだ。


「うわあっ!」


 その光景を目の当たりにした兵士が恐怖の悲鳴を上げた。

 機関銃の引き金を引き絞ったまま銃口を左右に振る。闇雲に撃ち放す弾丸で、コンクリート柱が派手に(えぐ)られていく。


「入口の柱まで一人後退しろ!横から奴を撃て!」


 銃撃の音に混じって濁声の命令が聞こえる。


「弾幕を張って援護する!早く行け!」


 濁声の命令を受けた兵士の一人が柱から飛び出した。

 ダガーはアサルトライフルを構えた右腕を柱の角から突き出して、移動しようと駆け出した兵士を撃った。兵士は突っ伏したまま動かなくなった。


「ひいいい!」


 濁声と他の二人が盛大に悲鳴を上げた。

 恐怖で硬直した指が機関銃の引き金から離れなくなってしまったようで、見境なく銃を撃ち続けている。弾倉が空になるのも時間の問題だろう。

 突然、敵からの銃撃が止まった。思った通り弾を撃ち尽くしたらしい。


「だ、だめだ。早く援軍を呼んで…」


 柱の陰から半泣きになった声が聞こえてきた。

 明らかに戦意を喪失している。ダガーは柱の右陰から直線に走り出て、柱の角に集まっている敵兵にライフルを連射した。

 腰のホルスターの拳銃を抜く間もなく、兵士が二人、仰向けに倒れた。

 右腕と脇腹を掌で押さえてうずくまる濁声の兵士を見下ろした。

 右腕は銃弾が貫通しているが、太い血管から逸れたようで出血は少ない。脇腹は掠っただけだろう。ダガーはライフルのスリングを肩に掛けて、ブローニングをホルスターから引き抜いた。

 大男の前に屈みこむと、髭の生えた顎の下に銃口を突き付ける。


「天井の蓋を開けろ」


「な、何だって?」


 痛みに顔を歪めながら、濁声が聞き返した。


「天蓋を開けろと言っている」


 抑揚のない声で言うと、ダガーは銃口で濁声の顎をぐいと持ち上げた。


「あ、あれは、俺じゃ、開けられねえ。ここはミサイルの発射口だぞ?基地中央の管制室が直接管理しているんだ」


「ミサイルだと?」


 ダガーは眉を顰めた。

 ユラ・ハンヌから見せられた資料には、ここがアメリカ軍基地の正門と記されていたのだが。


「だとしても、緊急時の場合は手動で開けられるはずだ」


 引き金(トリガー)に掛かっているダガーの人差し指が、ゆっくりと動く。


「このまま引き金を引いてもいいんだぞ?お前の頭はスイカみたいに割れちまうだろうな。それが嫌なら早く言え」


「う、う、撃たないでくれ!」


 銃撃戦で大量の返り血を浴びても平然としているダガーに恐怖して、濁声が震えながら声を絞った。


「入り口の脇にメンテナンス用の手動レバーがある!」


「立て」


 濁声の大きな身体を立ち上がらせて後に回ると、その背中にブローニングの銃口を突き付けた。


「歩け」


 濁声が右腕を押さえたまま、ふらふらと歩き出す。柱に隠れて見えなかったが、確かに入り口近くの壁に赤と青のレバーが二つ並んで設置されている。


「天井のはどれだ?」

 

 ダガーが銃口で濁声の背を突っつくと、「右だ」との返事が返ってくる。


「よし。レバーを引け」


「ひ、引いてもいい、が」


 濁声が震えながら言った。


「上層部からの保守点検の要請もないのに、このレバーを引いたら、基地中央管制室に異常事態が発生したとして、瞬時に通報がいく。そうしたら、ここはあっという間に、自律起動機械兵器で溢れ返っちまう!」


「構わない。早くレバーを引け」


 濁声は唯唯(いい)諾諾(だくだく)でダガーの命令に従った。赤のレバーである円の持ちてを掴んで右に回しながらゆっくりと引いた。

 壁から金属の円筒が姿を現すと同時に天井の蓋が嫌な金属音を立てて動き出し、中央の切れ込みから左右に開いてく。

 次の瞬間、天井のあちこちが赤く光り出し、けたたましい音が鳴り響いた。 


「石の階段を上ると基地の外に出られる。岩山の天辺だがな。お前は戦闘が終わるまで岩陰に身を潜めていればいい」


 身体を震わせながら虚ろな表情で天井を見上げる濁声に止血帯を渡すと、ダガーは開いた天井に向かって胸に装着してあるヘッドセットシステムの通信機器ででハナとジャックに呼び掛けた。


「天蓋を開けた。二人とも侵入を開始しろ」



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