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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
128/303

単独突入・1


「軍曹、円の蓋から比較的近い岩壁に、鉱物の集合体が異なる部分を確認しました」


 ジャックは映像を拡大した。円から少し離れた山の岩肌がモニターに映し出される。

 他の岩と比べると、確かにそこだけ風雪に削られた亀裂が薄く浅い。

 ガルム1の人工脳を使って画像を処理してみると、縦と横に伸びる人工的な直線がくっきりと表れた。


「ビンゴ!やっぱり扉があったんだ!」


 ジャックがひゅうっと口笛を鳴らした。


「天然石の扉か。通りで、センサーに反応しないわけだわ」


 ハナは画面に映った岩を眺めながら、感心したように独り言ちた。


「でも、この扉」


 ジャックは神妙な面持ちでモニターパネルに顔を寄せた。


「高さ百八十センチ、横幅が七十センチしかない。中の通路も同じなら、人ひとりがやっと通れる空間ってとこですかね」


「万が一、敵の攻撃を受けたとしても、一気に攻め込まれないようにわざと狭く作ってあるんだ。だったら、あの巨大な黒い蓋をこじ開けるよりも侵入しやすいってことだ」


 モニターに映る岩の扉をじっと見つめながらダガーが言った。


「そうだとしても、あの幅では、携帯する武器が限られてしまいます」


 ハナはキキの操縦席の中で険しい顔をした。


「構わない。弾丸が尽きるようなら、敵の武器を奪うまでさ。ところで、外部の開閉スイッチはどこにある?」


「扉のすぐ脇に四角の小さな切れ込みがあります。やはりセンサーに感知されないように、扉と同じように岩でカムフラージュあるんでしょう」


「分かった。調べてみよう」 


 ダガーはリンクスをキキとガルム1の後ろに移動させると、膝を抱えるようにしてリンクスを座らせてから、コクピットを開けて操縦席から立ち上がった。


「えっ?軍曹!その恰好…」


ジャックがダガーの出で立ちに目を()いた。


ダガーは双眼鏡とサーマル・イメージ装置を組み合わせた多機能ヘッドギアを被り、強化外骨格(エクソスケルトン)で覆われた生体スーツ用戦闘服の上半身に薄型のチェストリングを着用していた。

 チェストリングのポケットにはハンドガンとライフルの弾倉がずらりと装着されている。それでも足りないのか、左腿にブローニング用の弾倉が三連巻き付けてあった。

 アサルトライフルにスリングを通して前掛けにし、右腰のレッグホルスターにダガー愛用のハンドガン、ブローニング・ハイパワーが、左にはライフル用の弾倉のパウチが五連並んでいる。

小型発煙筒やフラッシュ・ボム、ハンド・グレネードを装備したコンシード・ベルトの腰の後ろには、サブ・マシンガンが差し込まれていた。

 あまりの重装備に、ハナが眉を顰めた。


「軍曹…まさか、あなた、アメリカ基地に単独で強行突入するつもりじゃないでしょうね?」


「そのまさかだ」


 チェストリングに装着されたヘッドセットシステムを通って、キキとガルム1のスピーカーに、ダガーの低い声が、静かに流れた。


「はあ、何言ってんの?!」


「無茶です、軍曹!死んじゃいます!」


 ハナとジャックの裏返った声がイヤホンに響くのを黙って聞きながら、ダガーはリンクスの膝頭に移動した。そのまま脛を伝って平らな岩面に滑り降りる。


「リンクスはどうするんですか?」


 ジャックの心細そうな声を出してダガーを見下ろした。


「上空から偵察ドローンが来ると、見つかる可能性が高い。対赤外線カムフラージュシートで包んでおいてくれ。心配するな。敵が来れば攻撃できるように、リンクスの自動操縦モードをオンにしておいた」


 リンクスのコクピットが自動的に閉まる。と、同時に右腕が機関銃を構えた。

 その様子を確認してから、ダガーは、岩から頭部が突き出ないように屈み越しになっているキキとガルム1を見上げた。


「持っていろ。俺の命綱だ」


 ダガーはガルム1の手に向かってロープを投げた。ガルム1がキャッチして、親指と人差し指でロープを摘む。そのまま突き出た岩の先端に膝を折った状態で前進し、下降器を付けたザイルを身体に巻き付けてから静かに飛び降りた。

 岩の突き出た部分に器用に足を乗せ、急な傾斜を驚く速さで下降していく。

 ダガーが岩面に足を付けてザイルを身体から解いたのを確認したジャックが、ロープを離した。

 落ちてくるロープを器用に受け取ってチェストリングの脇に付いているポーチに仕舞うと、ダガーは降りて来た崖を背にして立ち上がった。

 ヘルメットに装備されたビノクラーに片目を押し当て、次々と監視カメラをライフルで撃ち抜いた。


「ハナ。俺が扉に到着するまで援護を頼む」


「了解です!」


 ダガーがライフルを構え、扉に向かって一気に駆け出した。それと同時に、キキのセンサーが崖や岩のあちらこちらに金属を探知した。岩にカムフラージュされていた自律起動型の小銃が、ターゲットを補足、銃撃しようと鉄の鎌首をもたげたのだ。

 ダガーに狙いを定めて銃口を移動させる自動小銃を、キキがマシンガンを撃ち放って瞬滅させた。

 キキの完璧な援護射撃が功を()し、ダガーは無事に岩の扉に到着した。

 すぐさま岩石できている蓋を開けた。その中に隠されていた三つの丸いボタンが四列に並んだ電子キーの映像をガルム1に送信する。


 ダガーから送られてきた画像にジャックは頬を緩めた。暗証番号を指で押して入力して開閉させる旧式のものだったからだ。

 スイッチの映像を拡大する。ボタンの表面の摩耗度と、人の皮膚から検出された有機物の付着度を調べた。ガルム1が四つの数字をモニターに映し出した。


「軍曹、扉の暗証番号は解析出来ました。いつでも扉は開けられます」


「よし。開けろ」


 岩の扉が、がりがりと音を立ててスライドしていく。

 岩壁に背中を押し付けたまま、ダガーは扉の内側を覗き込んだ。

 エレベータ―が設置してあると思いきや、岩山の内部は岩盤をくり抜いて作られた階段になっていった。

 非常用なのだろうか、石の階段は殆んど使われていないらしい。


「俺はこのまま基地内部に侵入する」


 冷静な声で言うと、ダガーは左腕の時計をストップウォッチに設定した。


「所要時間は三十分。アラームの準備はしたか?」


「はい!」


「時間が過ぎても連絡がない場合は、この岩扉を爆破して攻撃を開始しろ」


 そう言い残すと、ダガーは四角く口を開けた岩の内部へと姿を消した。 


「軍曹、ご武運を!!」


 ジャックが悲痛な声を絞り出す。

 ハナは眉間と鼻の上に深く皺を寄せて吐き捨てるように呟いた。


「何て大雑把な指示なの!これのどこが、緻密な作戦だって言うのよ!」



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