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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
121/303

狙撃兵

 

「曹長!弾が切れました!」


 オーリクのイヤホンにロラの悲鳴が響いた。ロラの弾切れに気付いた三体の機械兵器が一斉にG-3に銃口を向けた。


「初めに奴をお釈迦にしろ!」


 ジャクソンの掛け声に、ロドリゲスとミラーがG-3の頭部と胸元に狙いを定めた。


「あばよ、おサルちゃん」


「あーっ!そこ撃っちゃダメ!絶対にダメ!!」

 

 引き金を引こうとした時、ジャクソン、ロドリゲス、ミラーのイヤホンに耳障りな金切り声が響いた。声に驚いた三人は銃撃を停止した。


「その生命体起動スーツを鹵獲(ろかく)しろ。私が実験体にするんだ。スーツの人工脳とパイロットの脳には絶対に傷をつけるんじゃない!」


「その声はワンリン博士!大佐、どうして彼が戦域なんかにいるんです?」


 ジャクソンがげんなりとした声でマクドナルドに問うた。


「バートン博士の代役を買って出てくれたんだ」


「諸君、自ら進んで戦場に赴いた勇敢な私に感謝したまえ」


 ワンリンは得意そうに声を弾ませた。


「本当は、あの生意気なオトコ女に恩を売ってみるのも悪くないと思ったのさ。後からバートン女史が何と言おうと、その三体のスーツは私のものだからな~!」


「だ、そうだ。取り合えず見張っていろ。スーツがおかしな動きをしたら一撃で始末しろ」


了解しました(ラジャー・ザット)


 マクドナルドが部下に出した命令を聞いたワンリンがきいきいと喚き出すのを無視してジャクソンは即座に返答した。G-3に銃口を向けたまま攻撃を停止する。


「ルシル、撃つのを止めろ」


 オーリクがG-2を制止した。その様子を見て、銀色の機械兵器がオーリクに頷いた。


「よく分かっているじゃないか。生命体起動スーツの皆さん方、このまま大人しくしていて貰おうか」


 ジャクソンが片頬を持ち上げた。


「撃ち方止めって、曹長!どうして?!」


 ルシルが慌てた様子でオーリクを見た。


「ロラの弾倉(マガジン)が切れた。このまま俺達が攻撃を続ければ、ロラが()られる」


「あっ、ロラ!くそっ」 


 ルシルも自分達が攻撃を続ければ、機械兵器がG-3を撃ち抜いて、生体スーツの人工脳とロラのいる操縦席を破壊するという意思表示を即座に理解した。

 三体の機械兵器から狙われては、いくら俊敏な生体スーツでも逃れることはできない。

 G-2の指を引き金から外してルシルは機関銃の銃口を空に向けた。


「ルシル、レーザー銃の銃口がどこを向いているか見てみろ」


「…ヤガタ基地!あいつら、こんなに離れた場所からレーザーで基地を攻撃するつもりか!?」


 ルシルは悔し気に歯をぎりぎりと鳴らした。


「あのレーザー銃で管制塔の電子機器を焼かれたら、ハンヌ様の計画遂行どころではなくなるぞ」


「曹長!あたしのことはいいから、早く攻撃を再開して下さい!」


 ロラが右脚に手を伸ばしながら叫んだ。


帯状(リボン)ソードで攻撃するには敵との距離があり過ぎる。機械兵器どもはG-3の頭部とお前の操縦席を正確に狙っている。蜂の巣にされて死んじまうぞ!」


「だったら、このまま特攻をかけてあいつらと一緒に自爆してやる!」


「馬鹿言うな!」


 ルシルが怒鳴った。


「そうだ、ロラ。落ち着け」


 オーリクが務めて冷静な声で言った。


「見てみろ。金色の機械兵器はレーザー銃の出力を上げている最中だ。俺達に二回照射したせいで、レーザーを発射する出力が落ちたんだ。だからまだ時間はある」


 オーリクは再びブラウンに無線連絡を取った。


「ブラウン中佐。G-3の弾丸が切れて戦闘不能に陥りました。オーリク隊は敵の機械兵器四体に高所から狙われて身動きが取れない状態にあります。奴らの一体が携帯型高出力自由電子レーザー銃を装備しています。攻撃目標はヤガタ基地管制塔です」


「了解した。こちらもレーザー銃を確認している」


 すぐさまブラウンの声がオーリクのイヤホンに返ってくる。オーリクはチームαに無線を切り替えた。


「こちらオーリク部隊。チームα、応援はまだか」 


「こちらチームα。我々のスーツ三体がそちらに向かっている。あと六キロメートルで主戦闘地域に到達する。もう少し頑張ってくれ」


 オーリクのイヤホンから野太い声が聞こえた。


(六キロメートルか。人では無理としても、生体スーツの銃ならば十分に狙えるな)


「チームα、君の隊に狙撃手はいるか?」


「いるぞ。俺だ」


「君は?」


「ロウチ伍長だ」


「ロウチ伍長。遠距離から機械兵器を一体狙撃して欲しい」


「よし、分かった。何かうまい作戦でも思いついたのか?」


「ああ。金色の機械兵器が担いでいるでかい銃を撃ってくれ」


「そうだ。ロウチ伍長。オーリク曹長の言う通り、すぐさま進路を変更しろ」


 ブラウンがオーリクとビルの通信に割って入った。


「金色の機械兵器が肩に担いでいる巨大な銃はレーザー銃だ。アメリカ軍はヤガタの管制塔にレーザー照射して電子機器を破壊し制御不能にする気だぞ。ビッグ・ベアの第一攻撃目標を変更する。3時の方向に迂回して狙撃態勢を確保せよ。機械兵器の担いでいるレーザー銃を破壊し、脅威を排除せよ」


了解しました(イエス・カーネル)


 ビルはビッグ・ベアを地面に伏せると四足走行に切り替えて走る方向を変えた。


「ナナとフェンリルはそのままオーリク隊の応戦に向かえ。敵をかく乱してビック・ベアの狙撃を援護しろ」


了解しました(ラジャー)」 


「行くわよ、ケイ!」 


「はいっ」


 ナナが疾走しながら手にした機関銃をアメリが軍の機械兵器に向かって連射した。

 ガグル社製スーツを攻撃していた機械兵器の一体が、ナナとフェンリルに向いた。

 真紅に輝く機械兵器だ。

 真紅は左手でもう一つの機関銃を背中から引き抜くと、両手で掃射し始めた。

 二丁の銃での激しい連射に、ナナが走行スピードを落として応戦する。真紅は生体スーツの素早い動きを正確に捉えてフェンリルとナナに弾丸を放ってくる。

 スーツをも凌駕するそのスピードに、ナナとフェンリルは防戦に追われて前進できなくなっていた。


「ケイ、赤い機械兵器は私に引き付けるから、あなたは早くオーリク部隊の応戦に行って」


分かりました(サー)!」


(早く。フェンリル、もっと、早く!)


 ケイがフェンリルに叫ぶ。フェンリルは機関銃を背中に格納すると両手を前に突き出した。

 人型から獣型へと瞬く間に体形が変化する。狼の姿に戻ったフェンリルは、四本の足で戦域の地を宙を飛ぶように走り出した。


「何だ?あいつ、変身したぞ?!」


 真紅の機械兵器を操るロドリゲスが驚いた声を上げた。

 右手の機関銃を狙撃モードに切り替えてフェンリルを狙って小型のグレネード弾を一発放った。フェンリルはロドリゲスの射撃を軽々と避けながら、アメリカ軍の防衛線に接近した。


「こいつ!」


 ロドリゲスはフェンリルに向かってトリガーを引き絞ってグレネード弾を連射した。フェンリルは自分に向かって飛んでくるグレネード弾の弾道を一瞬で計算して回避する。

 弾丸をすり抜けて突き進んでくるフェンリルに気を取られ、ロドリゲスの左の銃がナナから離れた。

 その僅かな間隙を縫って、リンダはナナの機関銃の引き金を引いた。右腕を斜めに掃射され、真紅の機械兵器の手から機関銃が落ちた。


「ガッデム!」


 攻撃が止まった一瞬を逃さずに、ナナも四足走行に体形を変化させて走り出した。その速度は二足走行の比ではない。

 慌てたロドリゲスは左手だけで機関銃を掃射したが、獣型になったナナは機械兵器の動きに合わせて弾丸を優雅に避けながら機械兵器へと突進をかける。


「どうした、ディオゴ!これ以上スーツの接近を許すな!」


 ジャクソンが怒鳴った。


「右腕をやられた!誰か援護してくれ!」


 二体のスーツの接近を止められないロドリゲスに代わって、G―3に狙いを定めていたミラーがフェンリルに銃口を向けた。

 機関銃に追加装備(カスタマイズ)されている大型グレネードランチャーに切り替えて、自分達に直進してくる銀灰色の四つ足スーツの足を止めようとトリガーを強く引いた。

 炸薬榴弾がいくつも地面に落ちて爆発した。大地から砂が派手に舞い上がる。


「おい!何やっている!これ以上、砂の粒子をまき散らすな!ヤガタ基地の管制塔を狙えなくなるじゃないか!」


 レーザー銃を肩に乗せたリーがミラーに怒鳴った。


「生命体スーツの奴が四つ足になってから、ちょこまかして弾が当たらねえ!あいつらが防衛線に侵入するのを食い止めるのに精一杯なんだよ!シュエン、早くヤガタを撃っちまえ!」


「この電圧じゃ無理だ!少なくても充電にあと二十秒は欲しい。それまで敵の攻撃を食い止めろ!」


「二回も試し打ちなんかするからだ!」


「リー!レーザー銃を下ろせ」


 ジャクソンが叫んだ。


「攻撃目標をヤガタから急接近中の生命体起動スーツに変更だ!ヤガタ基地の破壊は奴らを倒してからだ」


了解しましたっ(コピ・ザッ)


 充電中のレーザー銃を、大型バッテリーの脇に設置してある台座に据えようと金色の機械兵器がゆっくりと腰を屈めた瞬間。

 ビシッと鈍い音がして、レーザー銃がリーの肩から滑り落ちた。


「狙撃されたぞ!!くそ(シット)!レーザー銃が壊れた!」


 リーが悲鳴に近い声で喚き散らした。


「どこから撃って来やがった?どうしてセンサーアイで感知できなかったんだ?」


「おいっ。あそこを見ろ!」


 ミラーが右の遠く離れた砂原を指差した。砂だまりに腹這いになっている大型の生体スーツが狙撃銃(スナイパーライフル)を構えているのが見えた。


「もう一体、生命体スーツがいるぞ。あいつ、俺達のセンサ―アイを妨害(ジャミング)して狙撃して来たな」


 地面に落ちたレーザー銃に、ビルは再び銃弾を撃ち込んだ。

 同じ場所に弾を撃ち込まれたレーザー銃から黒い煙が立ち上り始めた。


くそ(シット)くそ(シット)くそ(シット)!こいつはもう使えねえ!」


 リーは悪態をつきながら爆発を防ぐために、レーザー銃に接続してあった電源コードを充電器から引き抜いた。

 それから背中に装着させていた小型の迫撃砲を引き抜くと、ビッグ・ベアにロケット弾を撃ち込み始めた。

 自分に向かってくる砲弾を、ビッグ・ベアは次々と撃ち抜いた。オレンジ色の丸い火を噴いて砲弾が次々と爆発する。

 全ての砲弾を撃ち抜かれたリーは、呪いの言葉を吐きながら迫撃砲を砂地に放り投げた。

 場所を移動すると大型の狙撃銃を取り出して片膝を立てる。


「ファック・ユー!!よくもレーザー銃をぶっ壊しやがったな。貴様の頭を撃ち砕いてやる!」


「スナイパー同士の撃ち合いか。くそ面白くなってきたぜ!」


 ビルは照準器から金色の機械兵器を見据えながら銃弾を放った。


「灰色の生命体起動スーツが第一防衛線を越えたぞ!!」


 ジャクソンが咆哮した。ロドリゲスとミラーが素早く反応してフェンリルに機関銃を向ける。


 三つの銃口がフェンリルに向かって火を噴いた。


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