形勢逆転
「レーザー銃だって?!あっ、分かったぞ!そいつで俺のガトリングがやられたんだ」
ルシルが素っ頓狂な声を出したので、ロラが叱った。
「自分の銃が破壊されたっていうのに、納得してどうすんだよ!」
「レーザー銃だと?」
オーリクのイヤホンに聞き慣れた不機嫌な声が響いた。
「はい、ハンヌ様。携帯型高出力自由電子レーザー銃です。アメリカ軍があんな武器を開発していたとは」
「エンド・ウォー以前の時代にアメリカ海軍が全ての空母に装備した兵器だ。恐らく、バートン博士が携帯型に小型化したのだろう。奴ら、そこからヤガタ基地の司令塔に照射するつもりだな。電子機器が破壊されると厄介なことになる。オーリク曹長、直ちにレーザー銃を破壊しろ」
「シュア」
「その後の戦闘は連邦軍の連中に任せて、メインプランに移行せよ」
「了解しました。G-2、G-3。オーリク隊、第一戦闘目標を敵のレーザー銃の破壊に変更。その後、我々はメインプラン実行の為、この戦闘を放棄し戦域から離脱する」
「そうは言っても、最新型のロボット兵器が四体も揃って攻めて来たんじゃ、そう簡単にはいきませんぜ!」
丘陵から狙いを定めて銃を撃ち放つ敵ロボットの攻撃を必死で交わしながら、ルシルはオーリクに応答した。その声にいつもの余裕はない。
手前にいる銀色は勿論、アメリカ軍のロボット三体の攻撃位置が自分達より優勢な場所にいることに、オーリクは焦りを感じ始めていた。
G-1の人工脳に地面の高低差を計算させると、機械兵器はオーリク隊から五メートルの高さの場所に立っていた。
「何だと!?」
対して自分の部隊の現在地は緩やかな低地だ。その地に集められたように、G-1、Gー2、Gー3のスーツが立っていた。それもすり鉢状の真ん中だ。足元も砂漠特有のさらさらと流れる柔らかい砂地になっている。
四体の機械兵器が均等に間隔を開けて、小高い丘からオーリク隊を見下ろしながら機関銃で狙いを定めていた。
ロシア戦車隊とアメリカ軍の走行兵器をほぼ駆逐したにも関わらず、いつの間にか劣勢になっている事実にオーリクは愕然とした。
自分達は逃げる走行兵器でこの場所に誘導されていたのだ。
(くそっ、深追いし過ぎたか。これはかなり分が悪いぞ)
「スーツの連中さん方、自分達がどんな場所にいるのか、ようやく気が付いたようだな」
ジャクソンがふふんと鼻で笑った。
「リー、奴らを始末しろ」
金色の機械兵器がG-1の頭部にレーザーを発射した。
熱線センサーで可視化された閃光がG-1に襲い掛かる。
オーリクは引き金を引く機械兵器の指よりコンマ一秒早く、G-1の肩を左にスライドさせてレーザーを回避した。
斜めになった態勢でG-1が機関銃を金色が肩に乗せているレーザー銃に向けた。
間髪入れずに銀色と深緑の機械兵器がG-1にロケットランチャーで攻撃してくる。
二か所から攻撃されたオーリクは被弾を避けようとG-1を後ろに飛び退かせた。
後退しながら放った銃弾は目標から大きく逸れた。
G-1の人工脳を使っても、レーザー銃に照準を合わせている余裕がない。
オーリクを守ろうとルシルが深緑の機械兵器に向かって援護射撃を開始した。
驚いたことに、深緑はルシルの撃ち放つグレネードランチャー弾を目にも止まらぬ動作で回避する。
「くそっ!あいつら俺達とおんなじ動きでこっちの攻撃を避けてやがる。これじゃ、いくら撃っても無駄玉だ!」
ルシルがグレネードランチャーを足下に打ち捨てた。どうやら弾丸を撃ち尽くしたようだ。機関銃に切り替えて再び深緑を攻撃し始める。
ロラが真紅の機械兵器が放つ機関銃の弾丸を交わしながら必死に弾幕を張っているが、あれでは弾が尽きるのは時間の問題だ。
消耗戦では勝ち目がない。
スーツ三体が敵の弾丸を躱しながら機関銃を連射する防御態勢に限界が近づいていた。
特にロラの動きが鈍ってきている。
人工脳との同期に疲れが出始めたのだろう。少しずつだが、機械兵器が放つ弾丸がG-3を掠り始めている。
早くこのすり鉢状の地形から脱出したいが、機械兵器のとの距離があり過ぎて接近戦には持ち込めない。
このまま機関銃の弾を撃ち尽くしてしまえば、敵のレーザー銃を破壊するどころか自分達の生体スーツが蜂の巣にされてしまうのも時間の問題だ。
(こんな場所に釘付けされているわけにはいかない)
オーリクはハンヌとの通信回線からブラウンのいる装甲車の無線に周波数を合わせた。
「こちらオーリク部隊。敵の大型ロボット兵器四体と交戦中。弾倉が切れかかっている。連邦軍生体スーツの応援を要請する」
「了解した。こちらも敵の最新型機械兵器を確認している。直ちに生体スーツを出撃させる」
ブラウンは無線のスイッチをチームαの周波数に切り替えた。
「ロウチ伍長、メリル一等兵、コストナー新兵に告ぐ。アメリカ軍の最新型機械兵器が連邦軍戦域領土内に侵攻を開始した。ビッグ・ベア、ナナ、フェンリルは直ちに戦闘地域最前線に向かえ。オーリク部隊を援護し、機械兵器を破壊せよ」
「了解しました」
ビルとリンダが無言で機関銃の安全装置を外して銃口を戦域前方に向けた。
ケイも二人に倣って、銃の安全装置を外した。
それからフェンリルの足を一歩、砂と土の混じった乾燥した大地に大きく踏み出した。
ビッグ・ベアとナナはすでに戦闘地域に向かって走り出している。二体は戦域の乾燥した大地を揺らしながら力強く疾走していく。
その規則的な振動をフェンリルの人工筋肉繊維が感知してケイを促した。
お前も戦いに行くのだと。
「さあ、始まるぞ」
ケイはビルとリンダの後を追って走り出した。
「戦争だ」