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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
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大型機械兵器起動す

「そろそろデータ収集を終わりにするか」


 マクドナルドは前方戦域で繰り広げられている戦闘の様子を見ながら呟いた。


「そうですね。走行兵器は敵の接近攻撃には全くの無力だということがよく分かりました。早く撤退させましょう。でないと、P-92が生命体起動スーツに全部破壊されちまう」


 ジェイスが少し苛立った口調で喋った。

 P-92は第二世代の機械走行兵器だ。元より初期型P―75共々、大して期待はしていない。

 だが、いくら旧式とはいっても、アメリカ軍の武器が敵の生体スーツにおもちゃのように破壊されるのは、やはり面白くはない。


「ある程度想定済みとはいえ、自分が開発した機械兵器と敵の生命体起動スーツの性能がこれほどまでに乖離しているとは、バートン博士も想像してないだろう」


「気性の激しい女性(ひと)だから、この惨状を見たら頭に血が上るんじゃないんですか?」


「そうだな。全滅するまで放っておいたなると、俺達の沽券にも関わる」


 生命体スーツに敵わずとも、戦域後方の防御陣地に待機している連邦軍の機甲部隊と歩兵部隊にぶつければ、かなりの威力を発揮できる。生身の兵士などあっという間に血祭だ。


「よし。走行兵器を自律起動からリモートコントロールに切り替えて全機撤退させる」


 二百から三十にまで数を激減させたP-75とP-92は、マクドナルドの制御の元、弓状に集合して弾幕を張りながら後退を始めた。

攻撃の間隙を縫って一体の生命体起動スーツが走行兵器に高速で接近してくる。マクドナルドはP-92を五体集合させて接近してくるスーツに弾丸を撃ち放った。

生命体スーツが走行を止めぬまま、胸の上でクロスさせる。

 両腕を左右に振ると両手の先が長剣に変化した。後ろ足で跳躍すると、P-92の放つ銃弾を左の剣で防御しながら、右の剣で頭部を五体まとめて一気に薙ぎ払った。

 二百の数があった走行兵器は、今や二十五体に激減していた。

 如何なる攻撃も無駄と知ったマクドナルドは残った走行兵器を散開させた。

反撃もせずに鶏のように逃げ惑うP-75とP-92の背後から生命体起動スーツが襲い掛かって胴体に垂直に刃を入れる。

 真っ二つに切り裂かれた走行兵器は片足だけで右と左に数歩飛び跳ねてから地面に転がった。


「やってくれるな。その調子で、奴らがこっちに向かってくればいいさ」


 マクドナルドは、口の両端を大きく引き上げた。


「ようやく俺達の出番ってことですか」


「そうだ。ジャクソン軍曹。君の活躍を期待している。但し、灰色のスーツには気をつけろ。奴はニドホグを撃ち落とした強者(つわもの)だ」


マクドナルドは生命体起動スーツに一方的に破壊される走行兵器を眺めながら頷いた。それから四人の部下に視線を移す。


ジェイス、ディオゴ、シュエン、イーサンが、マクドナルドの出撃命令を今か今かと待ち構えている。


「デビル・ドッグ、各自大型ロボットを装着して戦闘準備に入れ」


了解しました(コピー・ザット)」 


 四人はマクドナルドの命に従い、各自の大型機械兵器の後ろに回って自動昇降装置のステップに両足を乗せた。

 肩の高さまで上昇すると、両肩の中央、首の部分に穿たれた空間に腰から下を滑り込ませた。

 バートン博士の開発した大型ロボット兵器は、サイボーグの身体そのものが頭部になって初めて機能するのだ。

 彼らの両手両脚が機械兵器に接続(コネクト)されると防護する鉄甲が背中からスライドしてサイボーグの身体を覆う。

 背中の二つのホルダーに各々が得意とする重火器を装着させ、右手には機関銃を携帯した。

 全ての準備が整うと、ロボットの四肢がゆっくりと動き出した。

 十メートルを優に超える四体の巨大なロボットが、機械とは思えない滑らかな動きでマクドナルドの前に進み出る。

 右手と右片膝を地面に付いて自分達の指揮官に恭しく一礼した。

 

 ジェイス・ジャクソン軍曹が接続する銀色の機械兵器は、中世ヨーロッパの王侯貴族が身に着けていた重厚な甲冑がモデルだ。


 ディオゴ・ロドリゲス。真紅の機械兵器は東洋の島国の鎧を模している。学生時代にスミソニアン国立博物館を見学した際、ガラスケースの中に飾られていた武具の美しさに魅入られたのを思い出して、マクドナルドは僅かに頬を緩めた。


 シュエン・リー。彼の兵器が纏う金色の鎧は、彼のルーツの東の大陸に由来している。


 イーサン・ミラー。美しい深緑色の機械兵器も、ジャクソンと同様、中世ヨーロッパの騎士の甲冑だ。


 四体の荘厳な鎧の頂を飾る兜の内側に顔はない。あるのはグロテスクな人型サイボーグの上半身だ。その異形の姿は、連邦軍の兵士を一気に戦意喪失させるだろう。


(ユーリーのニドホグもそうだが、ガグル社の連中というのは、化け物を作るのが趣味のようだな)


 アメリカ海軍特殊部隊の生き残りの自分達も、見事に怪物の様相だ。彼らは人間の身体を兵器に作り替えるのに、元の姿など関心がないのだろう。

 それとも、あえて恐ろしい姿に作り変えたのか。

 気の遠くなるような時間、高圧塩水の中でサメ由来の分厚い人工皮膚に包まれて死んだように眠っていた兵士に、再び戦う原動力を与える為に。


(肉体を奪われた絶望が兵器となり得るのなら、今からそれを証明しよう)

 

 組んだ両腕を解いて、マクドナルドは自分の部下が装着されている機械兵器を見上げた。 


「ヘイ・ガイズ!アーユー・レディ?」


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