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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第四章 新戦争(ネクスト・ウォー)
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ロボット兵器

  G-1、G-2より前方でロシア軍戦車の残党を始末していたロラ・シャレに、G-3が警告の音声を発した。

 

 『新たな敵機確認。本機に接近中』


 散り散りに逃げていく戦車一両一両に機関銃を発砲し爆破していたロラは攻撃の手を一瞬止めた。

戦車の砲塔のような機体の両脇から足を生やした機械兵器が六体、G-3に向かって歩いてくる。


「へえ。こいつらがアメリカ軍の走行兵器か。初めて見た」


 アメリカ軍のロボット兵器を余裕の態度で眺め回してから、ロラはロック・オンしていた戦車を一発で撃ち抜いて爆破した。

 戦車を撃った態勢のまま、銃口を二足走行兵器に向ける。

 スーツの武器をセンサーで感知したのだろう、走行兵器はG-3から五メートルほど手前で立ち止まった。ゆらゆらと上体を揺らしながらその場で足踏みしている。


「ロラ、大丈夫か?」


 オーリクの声がイヤホンを通してロラの耳に響いた。


「問題ありません、けど、こいつらの動作が気味悪い」


「注意を怠るな」


はい(シュア)


 一体の二足走行兵器がG-3に向かって一歩、足を踏み出した。

 ロラは構えていた機関銃の引き金(トリガー)を引いた。数発の弾丸を受けた走行兵器が後方へ弾け飛び、茶褐色の大地に崩れ落ちた。


「ふん、他愛もない」


 トリガーを引いたままで素早く銃口をスライドさせると、また一体、走行兵器がガシャンと音を立てて倒れた。


「なにこれ!楽勝じゃない」


 ロラは笑いながら左右に機関銃を振り回した。今度は四体が同時に倒れた。


「こんながらくたがアメリカ軍のロボット兵器だっていうの?まるで木偶人形じゃな…」


 一体の走行兵器が最初の兵器とは比べ物にならない早い速度でG-3に接近して来た。それは、地面の上に倒れている六体を一気に飛び越えると、空高く飛び跳ねた。


「何!?」


 驚くほどの跳躍だった。ロラは呆気にとられながら空を見上げた。G-3の銃の動きが僅かに鈍った。

ロラが引き金を引くより早く、機械兵器は空中からG-3目掛けて発砲を始めた。空中からの攻撃に晒されて、G-3は身動きが取れなくなった。


「ロラ!!」


 ルシルの叫びと共に、オーリクがG-3に銃弾を浴びせている走行兵器に向かって機関銃の引き金を引いた。

 センサーアイを撃ち抜かれた走行兵器は瞬く間に機動力を失って大地に叩きつけられる。長い砲塔が根元から折れ、そのまま動かなくなった。


「馬鹿野郎!油断しやがって」


「野郎じゃないよっ。あたしは女だ!」


「次、来るぞ!」

 

 戦場の真っただ中でも言い争いを始める二人の部下を制してオーリクが銃を振り上げた。

 横一列にずらりと並んだ走行兵器がオーリク達に向かって前進してくる。ロラが倒した兵器と同じ型だった。その後ろに別の走行兵器が現れた。前方のよりも大型の走行兵器だ。


「何だ?随分と奇麗に並列してきやがった。お遊戯でも始めるってか?」

 

 ルシルが銃を向けるな否や、スーツの武器を感知したらしい前方の兵器が、一瞬で前後左右に散らばった。ランダムな動きを繰り返しながら距離を縮めてくる大量の機械走行兵器の群れから三体が飛び出して、G-2の正面と左右の三方から同時に距離を縮めて来た。


「何?!」


 正面から突進してきた走行兵器の両脇に備え付けられている機関銃二丁が最初に火を噴いた。

 銃身から弾丸が飛び出す直前、G-2は、分速1・2キロの速さで地面をスライドしていた。走行兵器の放った弾丸がG-2の肩を掠めた。

 正面からの攻撃は避けられたものの、ほぼ同時に左右から銃弾を撃ち込まれては防ぎようがない。

 両側面から銃弾を浴びながらG-2は地面を思い切り蹴って宙高く舞った。

 攻撃目標が突然飛び上がったせいで、走行兵器の照準に僅かなタイムラグが生じた。

 走行兵器は同士討ちとなり、互いのセンサーアイを破壊した後、地面に崩れ落ちて動かなくなった。


「お前らと同じように宙に飛んでやったぜ」


 ルシルは動作を止めた走行兵器を蹴飛ばした。


「ったく、大事なスーツに傷がついちまったじゃないか。しかし、最初の奴らよりずいぶん素早くなったな。攻撃もえらく変えてきやがったし」

 

 ルシルは舌打ちしてから周辺を見回した。

 横に隊列を組んでいた他の走行兵器はオーリクとロラに蜂の巣にされて地面に転がっている。

 G-3のロラがルシルに向かって機関銃を振り上げて得意げに叫んだ。


「ルシルー!!あんたが二体の機械兵器ともたもた戦っている間に、あたしと曹長で、ちっこいのは全部やっつけたからね!」


「うるせえな」


「まだ大きい奴が無傷で残っている」


 オーリクが低く唸った。

 今度の走行兵器には頭部があった。

 胴体の天辺から突き出た首の上に、小さな球体が乗っている。その中央を一本の黒い線がぐるりと取り囲み、その中に赤く光る二つの光が右に左に走るように動いている。

 最初の機械兵器のように機体に直接埋め込まれているセンサーアイより数段性能が良さそうだ。


「なるほど。あのセンサーアイなら死角がないな」


 分厚い装甲版が張り付けられた胴体の両脇からは腕が生え、その先に二連装の銃器が備え付けられている。


「さっきのより新型の走行兵器だ。あいつらの機械脳は、従来の走行兵器と俺達を最初に戦わせて、生体スーツの戦闘能力を高速処理計算していたようだな。戦う度に奴らに俺達の戦闘データを蓄積させてるってわけだ。ルシル、ロラ、十分に注意しろ」


「了解しました!」


 ヴゥンと微かな機械音を立てると、大型の走行兵器が巨大な足を一歩、前に踏み出した。攻撃を仕掛けてくると思いきや、そのまま動作を止めた。


「確かに、さっきのとは明らかに動きが違いますね。あたし達の動向を窺っているって感じ」


「ならば、こちらから仕掛けてやるしかないだろう」


 オーリクが、G-1を四足走行に切り替えて飛び出した。

 大型兵器は猛スピードで向かってくるG-1に照準を合わせた。 

 絶えず更新される情報に従って、大型兵器はG-1の顔の真ん中を撃ち抜こうと両腕を揃えて銃弾を構えた。第一攻撃目標は生体スーツの人工脳だ。

 刹那、G-1の後ろからG-2が飛び出して並んだ。

 二体に増えた生体スーツを一度に破壊しようと、大型兵器が左右の腕を広げた。

 三体目の生体スーツがセンサーアイに映った時には、大型兵器の首は胴体から切り離されていた。

 G-1、G-2の動きを追っていた機械兵器の人工知能が攻撃目標の中央に突如現れたG-3に対処し切れなかったのだ。


「生体スーツの武器は銃だけじゃないんだって」


 ロラが長いリボンをくるくると回転させながら腕に巻きつけた。

 リボンといっても、鋼の合金を紙のように薄く伸ばして超硬化ガラス繊維で特殊コーティングした恐ろしい刃だ。


「G-1の頭を狙ってやがった。一発必中で仕留めようとしたらしいが」


 残りの大型走行兵器がスーツ三体に一斉射撃を始めた。


「お前らの性能じゃ、俺達には敵わない!」

 

 G-1、G-2、G-3が、目にも止まらぬ速さで機関銃を撃ち放す。走行兵器のセンサーアイが破壊され、胴体が蜂の巣になった。

 制御を失って右往左往する機械兵器に、G-1が両肩に装備されたロケットランチャーで砲弾を撃ち込んだ。(とど)めを刺された大型走行兵器は爆発炎上した。



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